これが土屋家の日常   作:らじさ

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ちょっとしたネタのつもりでプロローグを書いたら、
抜き差しならない状態になってしまって、続きを
書かざるを得なくなりました。

フルメタル・パニックをご存知ない方には面白くないかも
しれないですが、ご勘弁ください。
知ってるけど面白くないという方はなおさらご勘弁ください。




15.父と弟と日本襲来
第1話


少年は兵舎の廊下を歩いていた。スピンドルオイルの匂いと獣の匂い。ここはまさに男の世界だ。部屋の前に着くとドアをノックした。

「入れ」中から中年男性の声がした。温和だが隙のない兵士の声だ。

「相良軍曹、入ります」少年はまだ10歳程度の年齢だろう。兵士と呼ぶには余りにもあどけない顔つきだが、目は戦士のそれだった。この部屋の主が継父だったこと、なによりも少年が大人でも敵わない兵士としての資質を持っていたことから、特例でこの部隊に入隊が許されていた。並みの兵士では、入ることができないロシア軍特殊部隊「スペツナズ」へ。

 

「お呼びでありますか、少佐殿」少年は敬礼をしてから尋ねた。

「非常事態が発生した、軍曹」男は少年に背をむけて窓の方を向いたまま言った。

「その前にご報告があります、少佐殿」

「言ってみたまえ」

「アフガンに潜入したAチームが、ゲリラの挟撃にあって孤立。救援を求めております」

「挟撃か・・・・・」

「至急、救援チームを派遣すべきかと・・・・・」

「こういう稼業をしていると運を信じるようになる」男は少年の方を振り返り、静かに言った。

「今回の場合には、情報が漏洩していた恐れが高く・・・・・」

「そういうことではないのだ、軍曹。敵と対峙していて敵の撃った弾が頬を掠めることもある。数cmずれていたら死んでいた。何度もそんな経験をするとな、運というものを信じるようになる」

「はっ、それとAチームと何の関係があるのでしょうか?」

「それどころではない非常事態が発生したのだ、軍曹」

「まさか北朝鮮が核ミサイルの発射準備を整えたのでしょうか?」

「それだったらどれだけ良かったことか」

「それほどの非常事態が・・・・・」

 

「・・・・・エンジェルだ」男は悔しそうに言った。

「・・・・・はい?」

「エンジェルを忘れたのかね、軍曹」

「いえ、コードネーム=エンジェル。本名、アンナ・マリア・カリーニン。ぶっちゃけて言うと姉ちゃんのことだと思いますが」

「その通りだ、軍曹」

「そのエンジェルがどのような危険に見舞われたのでありますか」

「夕べ、私宛に「ソータと結婚しました。喜んでくだサイ、パパ」と連絡があった」

「申し訳ありません少佐殿。エンジェルとAチームの関連がどうしてもわかりません」

「つまりAチームは運が悪かった」

「と言いますと」

「指揮官は、つまりわたしだが、明日より1週間休暇を取って日本に行く。したがってどのような作戦行動も起こせん」

「ちょっと待て、親父。あんたが親バカ炸裂させて姉ちゃんの結婚邪魔しにいくというだけでAチームを見捨てるのか」

「言葉を慎め、軍曹。ちゃんと手は打つつもりだ」

「失礼いたしました。さすが少佐殿であります。で、どのような手を打つつもりでありますか?」

「Aチームには『各員一層奮励努力せよ』という電文を打つつもりだ」

「ロシア軍が負けた日本軍の電文を打って誰が喜ぶんだよ」

「心配するな、軍曹。ロシア人は懐が深い」男は静かに言った。

こういうところが自分がロシア人になり切れないところだろうかと少年は思った。

 

「ということで私は日本に行ってくる」

「しかし、基地司令に何と言うつもりでありますか、少佐殿」

「エンジェルが結婚しそうだといったら、戦術核とアーム・スレイブ(AS)以外の全ての兵器の使用を許可してくれた」

「戦争しろ、親バカ親父共」少年が怒鳴った。

「で、君はどうするかね、軍曹」

「はっ、私はAチームの・・・・・」Aチームのメンバーと姉の顔が浮かんだ。

「一緒に日本に行かせていただきます」すまん、みんな。君たちの成仏はちゃんと祈っておく。

 

 

飛行機は静かにブリッジへと近づいていった。銀髪で髭を蓄えたガッシリとした大柄な男と東洋人に見える頬に傷のある少年が小声で話していた。二人に唯一つ共通しているのは鋭い眼差しだった。

「着いたぞ、軍曹。恐らく君の故郷である日本だ」

「少佐殿、本当に俺は日本人なのでしょうか?何の郷愁もわいてきません」

「無理もない、軍曹。わたしが君を救出して以来、君は日本とは何の関係もなく生きてきた」

「つまり俺は何者でもないってことですね」少年は自嘲気味に言った。

「何者であるかは問題ではない。何者になるかが問題なのだ、軍曹」男が諭すように言った。

「特に何かを守らなければならん時にはな」

「それならば・・・・・俺は、ソースケ・サガラ・カリーニンで有りたいです。少佐殿」

「アンナのためか?」男はいたずらっぽく微笑んだ。

「ねっ、姉ちゃんのことは関係ないやい」それまでの大人びた口調が急に歳相応の子供っぽさに変わった。

「ははは、隠すな、軍曹。君のシスコンぶりは隊でも有名だぞ」

「うるせえ、親父。姉ちゃんに彼氏ができたからって、わざわざ日本まで飛んでくるあんたに言われたくはねぇよ」

「別に心配だから日本にきたわけではないぞ、軍曹」

「じゃあ姉ちゃんが本当に結婚するっていったらどうするんでありますか、少佐殿?」

「スペツナズ二個中隊を待機させてある」

「Aチームを犠牲にしてですか?」

「戦争には運がつきものだよ、軍曹」

「戦争関係ねぇよ」少年が叫んだ。

 

「お客様」キャビンアテンダントがやってきて引きつった笑顔で彼らに言った。

「当機は30分以上も前に着陸して、他のお客様はすでに到着ロビーについております。つもる話はロビーの方でお願い出来ますでしょうか?」


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