これが土屋家の日常   作:らじさ

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第4話

「そう言えば少佐殿。少々お聞きしたかったことがあるのですが」入国審査の列に並びながら少年が言った。

「なんだね軍曹」

「いくら少佐殿が親バカ・・・・・アンナ姉さんを溺愛していたにしても、結婚すると言ったぐらいで引き離すためにわざわざ日本にまで来るのは行き過ぎのように思えるのでありますが・・・・・(Aチーム見殺しにしてまで)」

「なるほど一利ある意見だ。だが、君は本質を見誤っているようだ、軍曹」

「本質でありますか?」

「何も私はエンジェルが結婚すると言っただけで、日本に来た訳ではない。実はエンジェルが日本に留学するに当たって、部隊より極秘任務が与えられていた。結婚がその任務に影響を与えないように、引き離す必要があるのだ」

「そんなことが。やっと状況が理解できました。さしつかえなければその任務というのを教えていただけませんか」

「司令と私しか知らない極秘任務だ」男が重々しく言った。

「そこを何とかお願いいたします。姉さんに関わることですから、もしかしたら自分も力になれるかも知れません」

「・・・・・そうかも知れんな」

「ぜひ・・・・・」

「うむ、絶対に機密を漏洩してはならんぞ、軍曹」

「もとより承知であります、少佐殿」

「・・・・・ジャンポだ」

「・・・・・・・・・・・・はっ?」

「知らないのかね。日本で売っている少年ジャンポという漫画雑誌だ」

「名前は聞いたことがありますが、それがどうしたのでありますか?」

「我が部隊の隊員たちの大半はあの雑誌のファンだ。そこでエンジェルに毎週少年ジャンポを送らせていたのだ」

「たっ、たかが漫画を・・・・・」

「たかが漫画ではない。Death BookのRが死んだ時には、部隊葬を出せと隊員が乗り込んできた」

「・・・・・・」

「R派と日《ライト》派で諍いが起きたことも一度や二度ではない。危うく作戦行動にまで支障がでるところだった」

「・・・・・・」

「最近ではPleachだ。よもや、卯の花四番隊隊長が初代剣七だったとは・・・・・まして更木剣七を強くするために戦って死んだ時には、カウンセリングに通う隊員の数が激増した」

 

「ツブしてしまえ、そんな部隊。というか、あんたも全部読んでるんじゃねぇか」少年がたまりかねたように怒鳴った。

 

「従ってエンジェルからのジャンポ送付が途絶えることは隊の命運を左右すると言っても過言ではない。下手をすればクーデターが起きかも知れん。それを防ぐために私は多忙の中わざわざ日本へやって来たのだ」

「少佐殿、愚見申し上げてもよろしいでしょうか?」

「遠慮なく言いたまえ、軍曹」

「アンナ姉ちゃんに「結婚してもジャンポ送るの忘れるなよ」とメールするだけでよかったんじゃねぇのか、親父?」

「おお、今日の日本はいい天気だ」少年の発言を無視するかのように男は窓の外に目を向けた。

「知らんふりしてんじゃねぇよ。何のかんの言って結局姉ちゃんの結婚妨害するのが目的だろうが」

「そういう君はどうなのだ、軍曹」

「おっ、俺は姉ちゃんが幸せで、姉ちゃんを任せられる男だったらそれでいいかなと・・・・・」

「参考までに聞くが、君はエンジェルを任せられる男としてどの程度の技能を想定しているのだ?」

「狙撃が1000mクラス、ナイフ格闘、徒手格闘がマスタークラスで、重装備で1日30km踏破、高高度からの夜間パラシュート降下により敵の後方に潜入でき、ナイフ1本で1週間のサバイバル技能を有し、すべての陸上車両を運転可能な男であります」

「スペツナズに欲しい人材だな。それは結局遠回りにダメ出ししているのではないかね、軍曹」

「そっ、そんなことないやい」少年が赤くなっていった。

「まあいい。とにかくこの点において君と私の利害は一致している。二人で力を合わせてエンジェルを奪回しよう」

「了解であります、少佐殿」少年が男に向かって敬礼した。

 

「あの~盛り上がっているところを申し訳ありません」額に血管をヒクヒクさせた男が声をかけてきた。

「む、誰だね、君は?」男が言った。

「入国管理官です。他のお客様は20分も前に全員外へ出て行かれました。できれば早く手続きを済ませていただければありがたいのですが」係員は怒りを抑えた声で言った。

男と少年は慌てて手続きを行った。

 

 

 


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