これが土屋家の日常   作:らじさ

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第7話

「待ちなさい、宗介。何で逃げるのよ」かなめがハリセンを振り回しながら少年を追いかける。

「君が追ってくるからだ」少年が逃げながら答える。

「あんたが逃げるからでしょう」ハリセンが少年の後頭部をかすめた。

「追うから逃げるのか、逃げるから追うのか・・・・・なかなか哲学的な命題だ」

「スカしたこと言ってんじゃないわよ。今だったら致命傷で止めてあげるから止まりなさい、宗介」

「却下だ、千鳥。だいたい君は致命傷の意味を知っているのか?」

「馬鹿にしてんじゃないわよ。即死じゃないだけ、あたしの優しさに感謝することね」

「どっちにしろ殺すこと前提なのだな。それを聞いて安心して逃げることができる」

「だから待てって言ってんのよ。この戦争バカ」

 

「どうでもいいけど二人とも凄いスタミナだね」愛子が言った。

「もう三周目だけど、全然スピードが落ちないね」陽向が感心したように言った。

「・・・・・あの二人は相性が悪いようだ」康太が言った。

「千鳥さん、最初は宗介君を大人しくさせるって言っていたわよね」由美子が言った。

「あの子が出て来てから3倍くらい騒がしくなったような気がするな」陽太が言った。

 

「ところでアンナ、軍そ・・・宗介はさっきから何をしているのかね」空港中を逃げまわっている少年を見ながら男が言った。

「ナニカお友達と鬼ごっこをしているみたいデス」

「ははは、宗介も少年らしいところがあるではないか」よもや命をかけた追いかけっことも知らずに男が機嫌よく言った。

「ショースケはカワイイですカラ」フルスイングのブラコン姉に悪い解釈など出てくるはずがなかった。

 

「いっ、いいかげんに、止まれってのよ・・・・・ゼイゼイ」

「きっ君もいいかげんに諦めたら、どっどうだ・・・・・ゼイゼイ」

「あたしには、あっあんたを仕留めて日本の治安と平和を守るという、しっ使命があるのよ・・・・・ゼイゼイ」

「君は一体どこの治安部隊の、しょっ所属なんだ・・・・・ゼイゼイ」

「神代小学校4年1組の学級委員長としての責任よ・・・・・ゼイゼイ」

「日本の小学校は治安維持まで行なっているというのか・・・・・ゼイゼイ」

 

「さすがに7周目ともなると息が切れてきたみたいだね」愛子が言った。

「でも、どっちも止まろとしないってのは、根性というかなんというか・・・・・」

「・・・・・意地だろうな。なぜかあの女の子は弟君にライバル意識を持っているようだ」康太が言った。

「でも走っているけどさすがに静かになって迷惑はなくなったわね」由美子が言った。

「いや、由美ちゃん。走り回っているというだけで十分迷惑だよ」陽太が冷静に言った。

 

「友達ができたのはいいが、さすがに走り回るのは他の乗客に迷惑だな」男が言った。

「ドウするんですか、パパ」

「軍曹、ちょっとここに来たまえ」よれよれになった少年が目の前を走りかかった時に男が言った。

「ゼエゼエ・・・・・なっ何でありますか、少佐殿。自分は現在、非常事態中でして」

「初めて年頃の友人ができて喜ぶ気持ちはわかるが、はしゃぎすぎるのはいかん」

「年頃の友人?はしゃぎすぎ?・・・・・申し訳ありません。自分には一体何のことやら」

「ではなぜ走り回っているのかね?」

「は、日本の治安部隊にマークされ・・・・・グワ」

「でぇりゃあぁああああ」かなめのハリセンの渾身の一撃が宗介の後頭部に炸裂し、宗介が前のめりにブッ倒れた。

「ゼエゼエ・・・・・本当に手間取らせてくれちゃって、この戦争ボケ」

「なっなんだ」

「ソースケ」あっけに取られる父と姉。

その時初めて二人の存在に気づいたかなめがハリセンを背中に隠しながら、ご近所で「お淑やかなお嬢様」と評判を得ている笑顔と物腰で言った。

「あ、初めまして。相良君のご家族の方ですか?私、千鳥かなめと申します」

「あっ、ああ初めまして。私は宗介の養父のアンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニンだ」

「ワタシはソースケの最愛の姉のアンナ・マリア・カリーニンデス」初めて弟の側に現れた女の影にアンナは牽制の意味を込めて「最愛の」と付け加えて自己紹介をした。

 

「ところで今、宗介が何かで殴られたように不自然にブッ倒れたように見えたのだが」

「ホホホっ、おじ様ったらご冗談ばかり。走り回って疲れたんですわ、きっと」

「ウウン・・・・・」その時宗介が気がついた。

「きっ、貴様は千鳥かなめ。少佐殿助けて下さい。こいつは治安部隊の一い・・・・・グォッ」

かなめのキックが宗介の後頭部に決まり、宗介は再び失神した。

「あら大変。宗介君ったら疲れているのね。あっちのソファーで休みましょう。じゃ、おじ様お姉さま失礼します」かなめは宗介の首根っこを捕まえてロビーを引きずって行った。

「パパ?」

「なんだね、アンナ」

「今、カナメが何かしたように見えたのデスケド」

「私もそう思うんだが、残念だが見切れなかったのだよ」

 

後年の活躍を彷彿させるかなめの技であった。

 

 

 


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