これが土屋家の日常   作:らじさ

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第10話

「それにしても大丈夫。宗介君」愛子が言った。

「うるさい。気安く俺に触るんじゃない、オバさん」

「・・・・・オバさん・・・・・宗介君、みんな喉渇いただろうから、向こうの柱の後ろの自動販売機で飲み物買いに行こう」愛子は嫌がる宗介を引きずって行った。二人が柱の陰に隠れると同時に「ボカッ」と物凄い音が響いた。

「ごめんね。自動販売機があると思ったのに勘違いしちゃった」愛子が柱の反対側から満足そうな表情で出てきた。宗介が涙目で頭を撫でながらついてきた。

「ナニか、ありまシタカ。ソースケ」アンナが心配そうに言った。

「うん?別に何もないよね、宗介君」愛子が目を細めて宗介を見つめた。

「はい、何もありません、お姉さん」相変わらず頭を撫でながら宗介が言った。

「おい、愛ちゃん。実力行使に出たみたいだぞ。凄い音がしたぞ」

「・・・・・よほど「オバさん」がムカついたのだな」

「とりあえず、いつまでもここに居ても話がまったく進展しないので電車に乗りましょう」由美子が提案した。9話も使いながら未だこの親子は日本の土を踏んでいないのだ。当然の提案と言えよう。

 

一行は電車で都内へと向かった。

電車の中で携帯でやかましく話している若い男がいた。

「ぎゃはは、だから俺言ってやったんだ・・・・・」

「むっ、マナーをわきまえぬ青年だ。ここは一つ私が注意を」パパが青年のところに向かおうとした。

「いっ、いや。止めて下さい。騒ぎが余計に大きくなります」

「そういうものか。それでは軍そ・・・・・宗介。君が言って穏便に鎮圧してきたまえ」

「鎮圧って段階で穏便じゃありませんから。わかりました僕が行ってきます」陽太が言った。

「・・・・・ちょっと待て、兄貴。お前が行っても似たり寄ったりだ」

「やめて陽兄。電車じゃ逃げ場がないよ」

康太と陽向の二人が必死に止める。

「どうしたの二人とも。陽太君だったら別に問題ないじゃない」愛子が不思議そうに言った。

「・・・・・お前は知らないからそういうことを言えるのだ。普段は優等生面しているが、うちの兄弟で一番血の気の多いのが陽太なのだ」

「おまけに篤兄たちと小さい頃から遊んで鍛えられているから、ケンカもそれなりに強いし・・・・・」陽向が言った。

「そっ、そうだったの。意外な一面だね」愛子が言った。

「あたしが悪さしても、颯兄は逃げるし、康兄は我関せずだし。何度返り討ちにあっても注意してくれるのは陽兄だけだったんだよ」陽向が言った。

「いや、悪さして怒られるのを返り討ちにしちゃダメでしょう」愛子が呆れたように言った。

「・・・・・ということで、ここは一番お前が言ってくれ」康太が言った。

「なっなんでボクが」愛子が絶句した。

「いや、あの青年に一番被害を与えない方法はそれしかないのだ。陽向が行っても血祭りだし、俺が行って殴られでもしたら、陽太、陽向、宗介、パパの総力戦になって最悪の結果になる。女性だったらあの男も手を出さんだろう」

「それはそうかも知れないけど・・・・・」愛子がブツブツいいながら、電話をしている青年のもとに向かった。

 

「だからよ~」

「あの・・・・・」

「俺も黙っちゃいないわけよ」

「あの、お兄さん」

「そりゃ・・・・・ん、なんだ女」

「電車で携帯はマナー違反なので、すぐに止めた方が身のためですよ」

「ああ、うるせえな。お前にゃ関係ないだろうが」

「いえ、ボクはあなたの身の安全のために、一応親切で注意をしてあげているんで・・・・・」

「うるせえよ。隣の車両にでも行きな」そういうと青年は愛子に背を向けて会話を再開した。

「一応、ボク。警告はしましたからね」愛子はそういうと皆のもとに戻ってきた。

 

「ダメだった。説得に失敗しちゃった」

「それでは、やはり私が・・・・・」

「いえ、少さ・・・・・お父さん。ここは自分にお任せ下さい」

「日本の問題ですから、僕が片付けます」

「あたしがチャチャっと黙らせてくるよ」

「ワタシの宇宙CQCで・・・・・」恐ろしいことに8人中5人も武闘派がいた。

とりあえず一番小さいから被害が少ないだろうということで宗介が派遣された。

「で陽子がさ」

「おい、そこの青年」

「また、誘ってくれって・・・・・うん、何だガキ」

「電車内の電話はマナー違反だ。とっとと切れ」

「なにを」というと青年が宗介の胸ぐらを掴み上げた。

「できるだけ話し合いで済ませたかったのだが、そういうわけにもいかんようだな」宗介は落ち着いて言った。

「あんまり生意気言ってるの殴・・・・・」宗介が胸のホルスターからマテバを抜き取り、青年の花先に突きつけた。

「これが何だか理解できるな」

「へっ、そんなエアガンなんかで驚くかよ」

「エアガンでも改造してブーストアップ、鉛弾仕様だ。この距離からだと当たればただではすまんぞ」宗介は銃を天井に向けて引き金を引いた。

「ズギューン」銃声がして天井に穴が開いた。

「すまん、どうも連絡員との間にミスがあったようだ。改造エアガンを依頼したはずだったのだが、実銃を持ってきてしまったらしい」

「ひえ~」男が四つん這いになりながら隣の車両へと逃げ出した。

 

「とりあえず状況終了いたしました」

「ご苦労だった、軍そ・・・・・宗介。エージェントにも困ったもんだな。エアガンと実銃を間違えるとは」

「困ったもんだで済まされる問題なんですか」愛子が言った。

「まあ、俺たちにとっては実銃の方が取り扱いには慣れている。問題ない」

「いやいやいや、そういうことじゃなくて」

「マア、でもマナー違反も追っ払いましタシ。問題ないデスヨ」

「そうだな、ハハハハハ」アンナ、パパ、宗介の三人が笑った。

「うちの先祖は、ああいう連中相手にしてよく戦争に勝ったな」

「というかロシア軍は、負けたということに気がついてなかったんじゃないか?」

日ロの対応が明白に分かれた電車内であった。

 

 


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