これが土屋家の日常   作:らじさ

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第13話

「まあ、わたしとしたことが。こんな所で立ち話も何ですから中へどうぞ」

裕ちゃんが二人をリビングへ案内した。

「なかなかいいお宅ですな」アンナパパが言った。

「日本の家はこうなっているのか。窓に鉄格子がハマってないが防犯はどうしているのだ」宗介君がよくわからない感想を言った。

そこへ裕ちゃんがお茶を運んできた。

「粗茶ですがどうぞ」

「ほほう、日本の紅茶は緑色をしているのですか」パパが感心したように言った。

「違いマスネ、パパ。ユウコは「ソチャ」と言いまシタ。粗末なお茶という意味デス。つまり、上等なお茶を飲ませるほどの客ではないということデスネ」アンナちゃんがドヤ顔で悪意があるのではないかと疑っちゃうような解説をしてくれた。

「いや、アンナちゃん。字は確かに粗末なお茶って書くけど、「粗茶」ってそういう意味じゃないから。お客様に出すお茶を謙遜して言っているんだからね」ボクは一応訂正しておいたけど、通じただろうか?まあ、本当に粗末なお茶を出されたとしても、気にしなさそうな二人ではあるんだけど。

 

「うむ、美味いお茶です。ところで颯太君の姿が見えないようですな。ぜひ、ご挨拶をしたいのですが」アンナパパがトンでもないことを言い出した。

「(何か自分が颯太君とついでに四馬鹿を倒したことに気がついてないみたいだね、アンナパパ)」ボクが言った。

「(じゃ、あの5人は何のためにやられたのさ。倒され損だね)」陽向ちゃんが答えた。

「(・・・・・目の前に敵がいたから体が動いただけ。軍人の本能だろう)」

「(近くにいただけで軍人の本能を刺激するって、あの5人はどれだけ邪悪なオーラ出してんのさ)」

「(沖縄旅行したら米軍に追われそうだね)」

「そう言えば颯太はどうしたの、あなた達」

「えーっと、兄貴はもう少し飛行機見ていくって」陽太が答えた。

「アンナちゃんのご家族が見えてるっていうのに本当にしょうがない子ねぇ」裕ちゃんが憤然として言った。

「しっ、信じるんですか」由美ちゃんがビックリしたようにツブやいた。

「何のことかしら?」

「いっ、いえ何でもないです」

「申し訳ありませんカリーニンさん。愚息はまだ空港にいるみたいですの」

「いや、別に防具のお話は・・・・・」

「違いマスネ、パパ。愚息とは馬鹿な息子という意味デス」

「いや、だからアンナちゃん違うって。確かにそうかも知れないんだけど、そうじゃないんだよ」というかこの親子は、何でワザと選んだかのように日本語を間違った意味で覚えているんだろうか。

 

「ところでアンナはご迷惑をおかけしておりませんかな」アンナパパが言った。

「とんでもない。本当にしっかりした気立てのいいお嬢さんですわ。親御さんの躾がよろしかったんでしょうね」

「いやいや、男手一つで育てたものですから教育も行き届きませんで」

「まあ、ご謙遜を。こんないい娘さんをお嫁さんにいただけるなんて本当に幸せですわ」

「・・・・・ピキッ・・・・・ははは、アンナはまだ17歳の子供ですからね。夢見がちなのでしょう。まさか真に受ける方がいらっしゃるなんて」

「・・・・・ピキッ・・・・・あらあら、ご冗談を。今時17歳と言えば立派な大人ですわ。親として子供の意志をちゃんと受け止められなんてことありませんわよねぇ」

「・・・・・ピキッ・・・・・いえいえ、まだマンガやアニメになぞに夢中になっているような子供ですよ。現実と夢との区別もついておらんのでしょう」

「・・・・・ピキッ・・・・・日本のマンガやアニメには、そこらの小説よりも深いテーマのものもございましてよ。それが認められない方というのは、随分頭が固くなってらっしゃるんじゃございませんこと」

「(ねぇ、気のせいかな。言っていることだけ聞いていると普通の会話だけど、さっきから雷の幻影が見える気がするんだけど)」ボクが言った。

「(うーむ、達人同士の死合だね。何気ない言葉に見えて相手のヒットポイントを確実に突いているよ)」

「(とっ、とりあえずアンナちゃんに止めてもらおうよ。このままじゃスペツナズと忍者軍団の抗争になっちゃうよ)」そう言って、しっかりした気立てのいい娘の方を見てみると、会話の内容が理解できてるのかできていないのか、アンナパパと裕ちゃんの会話をニコニコしながら聞いていた。

 

「話がハズんでいるところですが、ワタシこれから料理してきマス」アンナが立ち上がった。

「「料理?」」アンナパパと宗介君が叫んだ。

「ハイ。久しぶりにワタシの手料理の特製ボルシチをいっぱい食べてくだサイ」

「いかん、随分長いことお邪魔してしまった。では、この辺で失礼しよう、軍そ・・・宗介」

「了解であります。少・・・お父さん」

「何言っていマスカ。今日は泊まっていってくだサイ」

「休暇中でも、いや休暇中だからこそ訓練をかかしてはならんのだ。奥さん、申し訳ありませんが、庭で野宿させていただいてもよろしいですか」アンナパパが鬼気迫る勢いで裕ちゃんに許可を求めた。

「はあ、それは構いませんが、せめてお食事でも・・・・・」裕ちゃんが気圧されるように答えた。

「断食も訓練のうちです。行くぞ、宗介」

「了解であります」二人が立ち上がり玄関に向かったところをアンナちゃんが宗介君を後ろから羽交い絞めにした。

「訓練はパパだけでやってくだサイ。ソースケはまだ10歳デス。そんな訓練早すぎマス」

「む、そうか。じゃ軍曹頑張れ」アンナパパは玄関から出て行った。

「少佐殿。部下を見捨てるんでありますか。少佐殿・・・戻ってこい、親父」

「ソースケはお姉ちゃんの愛のボルシチを一杯食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝まショウネ」何やら宗介くんの目が死んだ鯖のような目になっていたのは気のせいだろうか?

 

食事が終わってボクはカーテンの隙間から外を眺めていた。ちなみに他のメンバーは床に倒れていた。食べてすぐ寝るのはいけないはずなんだけど。

「ねぇ、アンナちゃん」

「なんデスカ」アンナちゃんは久しぶりにボルシチが作れて嬉しそうだ。

「なんかお父さん、一人で焚き火でマシュマロ焼いて食べてて、そうとう哀愁が漂ってるんだけど」

「ワタシのボルシチを食べてくれなかったパパなんてどうでもいいデス」アンナちゃんはプンスカしながら言った。

 

弟には蜂蜜よりも甘いアンナだったが、父には唐辛子よりも辛いのであった。

 


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