これが土屋家の日常   作:らじさ

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第15話

翌日はアンナパパと宗介君を観光に東京観光に連れて行くことになった。せっかく日本に来たんだから温泉にでも行ってもらったらという話も出たのだが、カリーニン一家だけで行かせると、どんなスットコドッコイな騒動を引き起こすか予想も付かないので、全員一致で否決され近場を観光することになったのだ。なぜか、ボクと陽向ちゃんと颯太君が監視、いや案内をすることになったのが理解に苦しむけど。

「3人観光に行くのに案内が3人も必要なのかな?」ボクは言った。

「オールコートマンツーマンだね。お母さんは守備を重視したんだよ」と陽向ちゃんが言った。

「何の守備なのか、聞くのがこわいよ」ボクが答えた。

「お前ら2人でいいじゃないか。何で俺まで」颯太君がブツクサ文句を言っている。

「それはこっちのセリフだよ。アンナちゃんの夫である颯太君が行かないで誰が行くのさ」ボクが言った時、「スチャ」と何か金属の物体を引き抜く音が2つ聞こえた。

「どうやら長旅で疲れているようだ。変な空耳が聞こえた気がしたのだが・・・・・アンナの夫とか何とか」アンナパパが颯太君に銃を突き付けながらも、妙に穏やかな声で言った。

「ははは、いやだなあお父さん。愛ちゃんがバランスを崩して「おっと」と言ったんですよ」颯太君が冷や汗をかきながら言い訳をした。

「・・・・・言葉には気をつけることだ」宗介君が銃をホルスターに戻しながらつぶやいた。

「(おい、俺本当に行くのか?この調子じゃ帰ってくるまでに4~5発は撃たれているぞ)」

「(でも行かなかったら、アンナちゃんの乙女魂がバーニングして、有ること無いこと惚気を吹き込むだろうから、帰ってきたら蜂の巣になりますよ)」ボクは忠告してあげた。

「どっちみちデスフラッグじゃないか。そうだこれからバンドの日本ツアーに出よう」

「そこらの高校生バンドじゃあるまいし、颯兄たちのバンドは一応一流インディーズバンドだから、そう簡単にコンサーとかできないんだよ」陽向ちゃんが言った。

 

「しょうがない、おいアンナ。今日はどこに観光に行くんだ」

「はい、たっぷりと日本の文化の真髄を味わってもらいたいので、中野と池袋と秋葉原です」

「もの凄く、既視感のあるセレクションなんだけど。本当にそこに連れて行くの」

「秋葉は何となくわかるけど、中野と池袋の日本文化ってなにがあったっけ?」

「何をいいますか。中野は「せんだらけ」の本店がありますね」

「前に帰国する前に連れて行ったらフィギュアの棚の前で、お前がトランペットが欲しい黒人少年状態になって、引っぺがすのに30分かかった店だな」颯太君が言った。

「お父さんにフィギュア見せるの?」

「大丈夫です。これでもロシア人はフィギュアが大好きです」アンナパパが言った。

「へぇ、ロシアで日本文化が流行っているってのは聞いていたけどそこまでなんだ」陽向ちゃんが言った。

「私はイリーナ・スルツカヤや浅田真央のファンですよ」

「どの辺から訂正したらいいのやら・・・・・」ボクは途方にくれていった。

「うん、それなら大丈夫だよ」陽向ちゃんが断言した。

「陽向ちゃん、もう説明が面倒くさくなってるでしょう」ボクが尋ねた。

「誤解解くだけで今日1日かかっちゃうよ。もう現地で親子でフィギュアを楽しんでもらおうよ」

「中野はそれとして、池袋ってサンシャイン?」

「いえ、乙女ロードでお買い物をシマス。ちょうど新刊も出ている頃デスネ」アンナちゃんが断言した。

「ちょっ、ちょっと待ってアンナちゃん。乙女ロードにこんな髭面の叔父さんと10歳の少年連れてったら警察に通報されちゃうよ」

「観光というより、単にアンナちゃんのオタクショッピングコースって感じだね」

「アンナは自分の欲望に忠実だからなぁ」

もちろんこのメンバーでアンナの決断に意義を唱えられるものなど誰もいない。

観光は 中野 → 池袋 → 秋葉原の順番で決まった。アンナちゃん、これくらい休日に行けそうな気もするんだけど。

 

「それでは行きまショウ」そう言うとアンナちゃんは颯太君の右腕にしがみついて、その大きすぎる胸を潰れるように押し付けた。

「まっ、待てぇい~アンナ。胸がプニ・フニと・・・・」颯太君が叫ぶ。間髪入れず「スチャ」聞き慣れた音が二つ。銃口は蒼汰君の後頭部につきつけられている。

「気をつけて答えることだ、青年。私の指は既に引き金にかかっている」

「俺の銃はフェザータッチだ。息がかかっただけでもその頭をブチぬくぞ」

「なっ、何でしょうか?」颯太君が両手をホールドアップして言った。

「今言った「プニ・フニ」とは何のことかな?」アンナパパが真剣な顔で言った。

「まさかアンナ姉さんのむっ胸が・・・・・」宗介君が今にも引き金を引きそうな目で颯太君を睨んでいる。

「何かこうも気軽に何回も銃を突きつけられていると、これがロシア人のコミュニケーションなのかと思っちゃうね」陽向ちゃんがのんきなことを言う。

「ハハハ、お父さんたちは知りませんか?ナポリ民謡ですよ」

「ナポリ民謡?」

「そうです。「行こう行こう火の山へ。行こう行こう山の上へ。プニ・フニ、プニ・フラ。我を呼ぶプニ・フニ、プニ・フラ」って歌です」

「あれは「フニ・クリ、フニ・クラ」ではなかったかな?」アンナパパが首を捻る。

「日本語訳した時に訛ったんですね、きっと」

「そうだったのか。いや、すまなかった」2人は銃を収めた。

「(あれで納得するってのは、さすがアンナちゃんの家族だね)」

「(素直といえば素直なんだけど・・・・・)」

 

何時まで経っても観光に出発できない一行であった。

 

 


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