これが土屋家の日常   作:らじさ

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第18話

「で、アンナちゃん。秋葉でお食事というとやっぱメイド喫茶に行くの?」ボクはアンナちゃんに尋ねた。

「ナニを言ってますかアイコ。ワタシはパパとソースケを連れてメイド喫茶なんかに連れて行くほどのオタクじゃありマセン」とアンナちゃんがキッパリと断言した。

「そっ、そうか。そうだよね。いくら何でも日本に観光に来て(本当は颯太くんとの仲を割くためだが)、昼食がメイド喫茶じゃね」ボクは笑って言った。

 

・・・・・・・・・・・・20分後、ボクたちはアンナちゃんの微塵の迷いも感じられない先導で入った、秋葉のとあるお店のテーブルで呆然としていた。

 

「・・・・・で、ここはどこ?」確かにメイドが一人もいないお店にボクたちは座っていた。

「アンナちゃんは、嘘は言ってないよね、嘘は」陽向ちゃんもその点には同意してくれた。

だが、各テーブルをサービスして回っているあの人たちはどう見ても・・・・・

「おい、アンナ。この店は何だ?」颯太君も同じ疑問を抱いていたようで、アンナちゃんに尋ねた。

「ハイ、執事喫茶デス。女の子に大人気デスヨ。前から来たかったのデス」アンナちゃんは一点の曇りもない笑顔で答えた。アンナパパと宗介君のための観光だということは、一切考慮していないようだ、この娘は。というかその「女の子」というのは、世間一般で言うところのボクたちも含めた「女の子」なのかという疑問が湧きでてくる。

「(大体、電車の中の『ワタシはパパとソースケを連れてメイド喫茶なんかに連れて行くほどのオタクじゃありマセン』宣言は何だったんだろうね?)」ボクは陽向ちゃんに囁やいた。

「(『ワタシはパパとソースケを連れてメイド喫茶(辺り)に連れて行くほどの(低レベルな)オタクじゃありマセン』って意味だったんじゃないのかな?)」陽向ちゃんが答えた。

「(なんだか知らないけど、オタクのオールラウンドプレイヤーとしての矜持か何かがあるのかな?)」

「(まあ、マスター級のオタクだからね、アンナちゃんは。並みのオタクじゃないってとこをパパや宗介に見せたかったんじゃないのかな)」陽向ちゃんが諦めきったような声で答えた。

確かに陽向ちゃんの言うことにも一理あるんだけど、メイド喫茶だったら可愛い女の子がキュートなメイド服を身につけて、甲斐甲斐しくサービスしてくれるのを眺める楽しみがあると思うんだけど、この店で一般人のボクたちは何を楽しめばいいのだろうか?

ボクは何となく日本で本当に執事さんを雇っている家とグルカ兵をボディーガードとして雇っている家は、どっちが多いんだろうかとなどと、頭が現実逃避を始めるほどに現状把握に苦労していた。ライトノベルだと生徒会長一人につき執事さんが一人いる計算になるんだけど。最もメイドさんは、その100倍はいるはずだが、ボクは生メイドさんを見たことは一度も無いし・・・・・

 

そもそも店を入るところから一騒ぎだったのだ。意気揚々をドアを開けたアンナちゃんを執事服に身を固めた執事さんが出迎えて、慇懃なお辞儀をしながら言った。

「お帰りなさいませ、お嬢様、ご主人様・・・・・・えっと旦那様?」いや、ボクに尋ねられても困るんだけど。さすがに190cmの精悍な髭面の外国人男性の来店はマニュアルでも想定していなかったようで老練な執事さんもどう呼んでいいのか困ってしまったらしく語尾が半疑問形になっていた。

「うむ」さすがはアンナパパ。全く動じることなく店へズカズカと入って行った。宗介君は物珍しそうに5人の執事が動き回る店内を見渡していた。本場イギリスでも執事を5人も雇っている貴族はいないと思うので無理はないと思う。

6人なので執事の人がテーブルをあわせて席を作ってくれた所でボクたちは席についた。

「お帰りなさいませ、お嬢様。本日は何をお召し上がりでしょうか」さすがはプロだ。どうやらこの謎の集団(190cm髭面体格良しの外国人、170cm超美人銀髪Gカップの日本語を流暢に操る外国人、10歳の目つきが異様に鋭い少年、25歳の秋葉とは無関係に人生を送ってきたような青年、160cmAカッ・・・Bカップ(うっ、嘘じゃない。最近ブラがキツくなっている気がするから大きくなっているはずだもん、ってボクは誰に言い訳しているんだろう)の可憐な女子高生、150cmのあどけない中学生にも見える女子高生)の中から、アンナちゃんがリーダーだと瞬時に見抜きメニューを真っ先に渡しながら尋ねてきた。

「ナニがお勧めデスカ」

「はい、『あなたと執事のラブラブオムライス』が当店の一番人気でございます」

「ソレは何デスカ?」

「はい、執事とジャンケンをして頂き、お嬢様がお勝ちになられたら好きな執事を指名して一緒に写真が取れるというものです」

「それは誰が得するシステムなんだ」颯太君が言った。

「はい、通常ですと執事と記念撮影する場合には、指名料が500円にポラロイド写真料が500円の1000円かかりますが、ジャンケンに勝って頂ければそれが無料になるという大変お得なシステムでございます」

「俺に1000円くれれば写真はいらん」颯太君が憮然として言った。

「それを6つお願いシマス」アンナちゃんがキッパリと断言した。むろん反対できるような人間はこの場に一人もいなかった。

「ソレと食後にティーをお願いシマス」

「畏まりました。ティーはロイヤルミルクティーでよろしいですか?」

「ワタシたちはロシア人なので、ロシアンティーをお願いシマス」

「失礼致しました。それではご注文を確認させて頂きます。『あなたと執事のラブラブオムライス』を6つとロシアンティーを6つでよろしいでしょうか」

「ハイ、それでお願いシマス」アンナちゃんがニコニコして言った。

 

「ふむ、日本料理というのは、なかなかに変わっているのだな」アンナパパが言った。ああ、誤解がまた大きくなっているけど訂正する気力もないし、その必要性も感じなくなっている。

ちなみに『あなたと執事のラブラブオムライス』は、なぜか男性陣だけが執事さんとのジャンケンに勝利し、営業スマイルの執事さんと憮然とした表情の男性陣の記念写真を3枚手に入れた。まあ、ボクとか陽向ちゃんが勝って執事さんとの記念写真を貰っても始末に困ると思うんだけど・・・・・

 

ついでに言えばアンナちゃんがジャンケンに負けたことを真剣に悔しがっていたのは、言うまでもない。

 


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