これが土屋家の日常   作:らじさ

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困った・・・・・カリーニン一家が帰国する気配がない。

というか21話も使ってまだ来日2日目なんですけど、
どうすれば良いのか誰かアドバイス下さいw



第21話

ボクたちはアンナパパと颯太君を置いて、アンナちゃんといつの間にか姿を消していた宗介君を探すべく各階を探索した。

宗介君は3階のDVDコーナーで両手にDVDを持って、2秒ごとに首を振りながらそれぞれを見つめていた。あまりにも早い速度で首を振っているものだから、他のお客さんが気味悪がってその通路に近寄ろうとはしなかったくらいである。

「宗介君、何してんだろう?」ボクが近づいて後ろから覗き込んでみると、左手に「ポキモン劇場版DVD」を、右手に「クレヨンけんちゃん劇場版DVD」を持って声もかけられないほど真剣に見比べていた。

「なんか怖いくらいに真剣だね」

「どっちを買おうか悩んでいるんだろうね。あたしがお姉ちゃんとして両方買ってあげてもいいのに」

「陽向ちゃん、そのお姉ちゃん設定かなり気に入ってるんだね。宗介君はしばらくあのままだろうから、先にアンナちゃんを探そうか」

「たぶんアンナちゃんは、またフィギュアのところで黒人少年状態になっていると思うよ」陽向ちゃんが言った。

そこで4階のフィギュアの売り場へと向かったら、やはりそこにアンナちゃんがいた。決してボクたちの期待を裏切らない娘だ。さすがにガラスにへばりついてこそいなかったけど、頬に右手を当てて何かに感動している様子で微動だにせず、フィギュアを見つめていた。

 

「・・・・・ハアッ、やっぱり触手は日本文化の真髄デス」アンナちゃんがため息をつくようにウットリと言った。

「・・・・・陽向ちゃん、アンナちゃんは一体何を言っているの?」

「触手が日本文化だって」

「いや、それは聞こえたんだけど触手って、タコとかイカの足のことだよね?何であれが日本文化なの」

「あたしもそんなに詳しいわけじゃないけど『触手もの』というディープなジャンルがあって、お好きな方にはたまりまへんなぁ状態らしいよ」そこまで深くダイブされては、もはやアンナちゃんを普通人へレスキューすることは深海救助艇を使ったとしても無理だろう。

というよりこの娘をこのままロシアに帰しては日本の国益が損なわれる気さえしてきたんだけど。

「ちなみに陽向ちゃんは、その知識は誰から教わったの?」

「ユカりんがマコちんに力説してた」あの子は普通に優等生だと思ってたんだけど、ちょっと認識を改める必要があるかも知れない。

「マコちんの反応はどうだった?」

「なんだかルーベンスの絵の前でパトラッシュと一緒に冷たくなったネロを見つけた神父さんのような目でユカりんを見てたよ」ユカりんはマコちんにどれだけ可哀想な子だと思われたんだろうか。ユカりんの力の入った説明がマコちんには「パトラッシュ、ボクもう眠くなっちゃったよ」とすら聞こえたのかも知れない。

「アンナちゃんほどの美人が『ワタシの趣味は人形を集めることデス』って言えば、男の子はイチコロなんだろうけどなぁ」とボクが言った。

「・・・・・触手ものでも?」

「どんな人形が好きなのかは人に詳しく言わないようにアンナちゃんに注意しておいてあげるとして・・・・・ところでさっきから気になっていたんだけど、このフロアってなぜか人がいないね」

「そりゃあ、アンナちゃんみたいなスタイルバツグンの美人がこんなエリアに入ってきたんだから普通の男の子だったら逃げるって」

「そういうもんなの」

「そうだよ。例えば男の人がコンビニのH本コーナーで買う雑誌を物色してる時に、隣の棚に女の人が来てもそのままH本読み続けられると思う?」

「康太なら脇目も振らずに没頭していて、ボクが隣に立って怒りの炎を背中から出していても気が付かないとは思うけど・・・・・」

「いやまあ、そういう特殊事例はとりあえず別にして一般論としての話だよ」

「要するにアンナちゃんがここにいるだけで営業妨害ってことだね」

「そう、お店もお客さんも大迷惑」

「でもアンナちゃんは気にしないと思うけど」

「そういうのは男の人の方が気にするんだよ、愛ちゃん」とキッパリと言い切った陽向ちゃんがとても大人に見えた。

 

2人を見つけたことを報告しに1階に戻ったら、カウンターの前で颯太君がアンナパパを羽交い絞めにしていた。本当にちょっと目を離すと何をやりだすのかわからない連中だ。

「ちょっと、颯兄。お店の中で何やってんのさ」陽向ちゃんが怒鳴った。

「おお、お前ら。いいところに戻ってきた。この親父を止めろ。いい歳してよりにもよって「K-おん」のBD BOXを買おうとしてやがる」

「うちの生徒たちのバンドの参考資料にするために購入するつもりなのに、君はなぜ止めるのだね」アンナパパが悪びれずに言う。

「なんで日本の女子高生バンドの萌えアニメが、ロシア人の特殊部隊のバンドの参考になるんだよ。つーか、あのアニメって音楽よりもほとんどお茶飲んでケーキ喰ってるだけだぞ」

「そこが問題点なの?」

「何を言うのだ、青年。唯など、エリック・クランプトンにも劣らないテクニックと才能を・・・・」

「なるほど同じミュージシャンとして一理あることは認めよう・・・・・で、あんたは誰が好きなんだ?」

「私の一押しは「かずニャン」だが」アンナパパは気持ちいいくらいにキッパリと言い切った。

「結局、あんたのために買うんじゃねぇか、いい歳した親父が「かずニャン」なんて言ってんじゃねぇよ。」

とてもじゃないがこの連中の仲間だとは思われたくない。ボクと陽向ちゃんは、こっそりとその場を離れた。

 

「ところで陽向ちゃん。ここらで状況を整理してみようよ」ボクは陽向ちゃんに提案した。

「えーっと、萌えアニメを買うと言い張っている190cm髭で強面の特殊部隊の少佐殿と、『ポキモン』と『クレヨンけんちゃん』のDVDのどっちを買おうかと悩んでいる同じく特殊部隊の10歳の軍曹殿と触手フィギュアに魂を奪われている一流ファッション雑誌の美人読者モデル様で構成されているロシア人一家が、このビルの各階で騒動を引き起こしています」

「・・・・・」

「・・・・・」

 

「ねぇ、陽向ちゃん。ちょっとボクから提案があるんだけど」

「なにかな、愛ちゃん?」

「ボクたち、このまま帰っちゃった方がいいんじゃないかな?」

「奇遇だね、あたしも同じこと考えてたよ。でもそんなことしたらあの一家の帰宅が何日後になるかわからないよ」

「「はぁ~~~」」ボクと陽向ちゃんは大きなため息をついた。颯太君とアンナパパはカウンターの前でまだ大騒ぎをしていた。

 


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