これが土屋家の日常   作:らじさ

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・・・・・・・また、帰国させるのに失敗した。



第26話

「そうは言うがな、愛ちゃん」颯太君が諭すように言った。

「家にアンナが二人も居てみろ。俺の精神が持たん」

「どうして?あんな美人でスタイルがいい女の子が二人もいるんだよ」

「一人でも大概持て余しているのに、二人になったら俺の精神が加速的に崩壊する。多分、家に帰らなくなるぞ」

「帰宅拒否症のサラリーマンみたいだね。家に帰らずにどうするの?」

「どうするって、俺はバンドマンだぞ。練習するに決まっているじゃないか」

「歌なんてどこでも歌えるじゃん」

「もちろんあいつら四人も呼び出すに決まっているだろう」颯太がキッパリと言い切った。

「1日に15時間も練習すりゃ、移動時間が2時間、風呂で1時間として家にいるのは、寝る時の6時間だけで済むな」

「随分とリアルな数字出してきたね。食事時間が全然ないんだけど」

「コンビニの握り飯だったら5分で食える」

「それにあの四馬鹿も付き合わせるんですか?」

「ああ、俺達は一心同体。喜びも悲しみも幾年月と誓い合った仲間だからな」

「最大限に好意的な解釈をしても、単に巻き添えくっているだけにしか思えないんですけど」

「じゃ、娘が生まれたら、そのままAtsushiの嫁にするってのはどうかな」

「颯太君、日本には法律っていうのがあるのは知ってます?」

「中学時代に四馬鹿と暴れ回っていたお陰で少年法と刑法だけは詳しく教わったが・・・・・」

「いや、それだけじゃなくて日本には他にも法律がいっぱいあるんですよ。で、女の子は親の許可があれば16歳から結婚できるんです」

「父親の俺が積極的に許すと言っているんだから、0歳からでもいいじゃないか」

「すいません、ボクが悪かったです。分かるように言い直しますね。親の許可があっても16歳までは結婚できないんです」

「はっはっは、やっぱり愛ちゃんは子供だなぁ。世の中には「内縁の妻」というのがあるんだよ」

「どこの世界にオムツも取れない目も開いてない内縁の妻がいるんですか」

「だが、本人たちが愛しあっている以上、父親として止めるわけにもいかんだろう」

「止めるどころか積極的に押し付けているんですけど。じゃ女の子じゃなくて、男の娘《こ》。だったらどうします?」

「男だったら、俺のようになるようにビシビシと鍛えるぞ。特に人の話を聞くという能力を最大限に伸ばすように・・・・・」

「いや、顔も声も性格もどこから見てもアンナちゃん。だけど男の子。それを「男の娘」と言うんです」

「それはYou ・・・・・・に押し付けるわけにもいかんか」

 

「ピヨピヨピヨピヨ・・・・・」その時、愛子の携帯の着信音が鳴った。

「誰だろ?・・・・・あぁ、優子?どうしたのいきなり。えっ?何か呼ばれた気がしたって」

「友達かい、愛ちゃん?」

「同じクラスの木下優子って子でBLとかショタとか言う漫画が好きらしいんですけど・・・・いや、別に変な話なんてしてないよ。お兄さんの将来の子供の話で盛り上がっていただけで」

「(俺には全く覚えがないんだが、盛り上がっていたのか、そんな話?)」

「(・・・・・いつもの暴走)」

「(愛ちゃん的には、盛り上がっていたんじゃないのかな?)」

「(しかし、愛ちゃんの中ではいつの間にか俺とアンナの結婚は熱力学第一法則のように不変なものになっていて、今は子供の話か。半年たったら俺は孫の名前考えなきゃならなくなるんじゃないか?)」

「(・・・・・すでに愛子とアンナの頭の中のレールには乗っていると思う)」

 

「すいません、で何の話でしたっけ?」電話が終わった愛子が尋ねた。

「いや、俺にももう何の話をしているのかわからなくなっているんだが」

「あ、子供の話でしたね。とにかくアンナちゃんとの間に子供ができるんですから、もう少し父親としての自覚を持ってください」颯太の顔をビシっと指さして、愛子が断言した。

「何もしていないのにそんな自覚持てるか」颯太がたまりかねたように言った。

「・・・・・父親どころか彼氏としての自覚もない」

「なんだかアンナちゃんとの結婚から逃げ場がないようだな、いろいろと」

「まだ、そんなことを言っているんですか。アンナちゃんも裕ちゃんも圭君もアンナパパもみんなその気なんですよ。どこに問題があるっていうんですか?」

「俺の意見はどうなっているんだ?」

「まあ、それは些細な問題として・・・・・」

「一番の当事者の意見を些細な問題で片付けんでくれ。一番大事だぞ」

「颯太君がアンナちゃんと裕ちゃんを説得できるんなら聞いてあげてもいいですけど」愛子がシレっとして言った。

「・・・・いっ、いやそれはだな」それが不可能なことは、颯太が誰よりも知っていただけに口をつぐむしかなかった。

「父親っていうのは辛いんですよ色々と」愛子が諭すように優しく言った。

「あいつの夫というだけで、大概罰ゲームなのにその上更に辛いことなんて想像もできんのだが」

「とにかく、みんなでアンナパパに優しくしてあげればいいんです」愛子が断言した。

「具体的に何するんだい、愛ちゃん」陽太が尋ねた。

「そりゃあもう・・・・・いろいろと優しくですよ」愛子が口ごもりながら答えた。

「・・・・・要するに何も考えてないんじゃないか、お前は」康太が呆れたように言い放った。

 


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