これが土屋家の日常   作:らじさ

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第5話

「しょうがない、少しはムッツリーニの顔でも拝んでやるか」

もともと僕たちはムッツリーニのお見舞いに来ていたはずだったのだが、いつのまにか命をかけたミッションを任されてしまっている。

どうせムッツリーニと工藤さんしかいないのだ、ノックもなしにドアをあける。

見られて困ることをしていたとしたら・・・もう僕たちはムッツリーニの顔を拝むことはできなくなってしまうだろう。FFF団の手は長いのだ。

雄二がドアを勢い良く開けると、ピンクのエプロンに手ぬぐいを姉さんかぶりにしていた工藤さんが掃除をしてた。ちょっと可愛い格好だ。

 

「あっ」工藤さんが再びフリーズして顔を真っ赤にした。もうこの人のことを不思議に思うのはよそう。多分人とは違う価値観で恥ずかしいという感情があるんだろう。

 

「やっ、やあ偶然だねみんな」

「偶然も何もさっき下であっただろうに。ムッツリーニの様子を見に行ったんじゃなかったのかの」

「うん、そういえばここ数日掃除してなかったの思い出したからちょっと掃除を」

「なるほど、で、ちょっと聞きたいんだがムッツリーニはなぜベットに縛り付けられて、猿ぐつわをカマされているんだ?」

「康太は照れ屋だから、食事の時間になると逃げ出そうとするんだよね。その予防。猿ぐつわは、掃除を始めると「あっちは触るな。こっちは開けるな」とうるさいから黙らせるため。エッチな本は全部探しだしたから今更恥ずかしがることなんかないのに」

 

盗聴器を全て発見する工藤さんのスキルで捜索されたら隠し通すのは不可能だろう。

男としてムッツリーニに同情を禁じ得ない。

 

「ダメですよ。愛子ちゃん。男の子には触れて欲しくないものがあるんです。そういうところは勝手に触っちゃダメなんです」

 

姫路さんが珍しく真面目な顔で主張した。うんうん、さすが姫路さんだ男心をよく理解している。

「そう言ったって掃除してたら見つかっちゃうんだもん」工藤さんが抗議する。

「あれ、掃除しちゃいけない場所のお宝地図って土屋君から貰ってないんですか?」

姫路さんが不可解なことを言いだした。

「瑞希、そのお宝地図ってなんのこと?」

「はい、えーっとこれなんですけど」

 

姫路さんは財布の中から折りたたんだ紙を大切に取り出してみんなに見せる。

「部屋の見取り図のようじゃのう。アキくんお宝地図と書いておるが」

「所々にマル秘マークがついていて注釈が書いてあるな」

 

どれどれ僕も見せてもらおう。うん、部屋の見取り図のようだ。窓際にベットがあって壁際がクローゼット、その隣が本棚か。僕の部屋の間取りにそっくりだ。

マル秘マークは本棚の左端に一つで注釈が「世界史の参考書のカバー、タイトルはいけない女教師」ああ、あの本は名作だよね。

ベットの足元にも注釈があるね。「ベット下の漫画本の一番下、タイトルはセーラ服であんなことこんなこと」どうもこの部屋の住民は僕と好みが似ているようだ。いい友だちになれるかもしれない。あとは、机にマークがしてあって矢印で「It's New!」と書かれている「2番目の引き出しの隠し底、タイトルは巨乳女子校生夜のご奉仕」これは僕も一昨日買ったばっかりだね・・・・・・・・・・もしかしてこれは、僕の部屋のことじゃないだろうか。

 

「ひっ姫路さん。これってもしかして僕の部屋のお宝の・・・・」

「はい、玲さんが、明久君の部屋を掃除する時には、そこには触れないであげてねってくれたんです」

「いや、そんな可能性もうないだろうし、これは返してもらうよ」

「はっはい、それはいいんですけど」

「何か問題があるのかな」

「それ、玲さんのブログで公開されていますよ。バックナンバーまで含めて」

「バッ、バックナンバー?」

「はい、それVer.2.23ですけど、明久くんが新しい本買ったの2月22日ですよね。だから2月23日にバージョンアップして引き出しの本に「It’s New!」ってついているんです」

 

ブログっていつの間に何をしてくれているんだあの人は。

僕が大人になる参考書を買うたびにバージョンアップされてブログで日本中に発信するなんて。

 

僕はムッツリーニのコンピュータを立ち上げた。あ、パスワードがかけられている。

すると工藤さんが恥ずかしそうに「パスワードは Aiko Kudo」だよと答えた。

思いっきりツッコみたいところだが、今はそれどころじゃない。

「姫路さんブログの名前は?」

「えーと、確か「アキくんのお部屋」です」

ググる先生に教えを乞う。すぐにそのブログは現れた。

 

「どうやら人気ブログらしいの。カウンターが100万を越えておる」

それより何より何で表紙が文化祭の時の僕の女装写真なんだろう。

 

「姫路さん、お宝地図はどこ」

「アキくんの宝箱ってページです」

 

クリックしてみる。リスト一覧がズラーっと100リンク位でてきた。

 

「ふむ、僕はこんなに大人への参考書を買っていたのか」

というか、これだけ買ったのを姉さんは全部マークしていたのか。

いつの間にこんなことをというかほぼ毎日更新しているところもあるぞ。

多分仕送りで懐が暖かかった頃だね・・・・・なんて懐古にふけっている場合じゃない。

姉さんにいって早急にこれを削除してもらわないと僕の買った大人の参考書がほぼリアルタイムで日本中のお茶の間にお届けされてしまう。

 

「これは何かのう」と秀吉が僕からマウスを奪って「アキ君の写真室」というリンクをクリックする。

出てきたのは・・・・・セーラ服、ワンピース、ゴスロリ、バニーガール、メイド服などを着た僕の姿だった。こんな写真取った覚えはない。よく見ると写真の僕は全部寝ている。どうやら姉さんが寝ている僕に着せ替えさせて写真を撮っていたようだ。

 

「いや、ここまでされて起きないお主にも問題があると思うんじゃが」

「僕もうお嫁に行けない・・・」泣き崩れる僕に雄二が慰めるように行った。

「いや、明久ここをよく見ろ。あの写真はどうやらサンプルらしい。本物は下の方で販売されているようだ」

「販売か、よかった。あんなの買う奴はそんなにいないよね」

「・・・いや、それが。6枚一組でランダムに入っていて。コンプリートするには、だいたい50組くらい買う必要がある上にレア写真まであるらしい」

「どこぞのアイドル商法並みじゃな」

「恐ろしいことに売り切れ御礼まででている。第二期に乞うご期待だと」

「姉さん、最近金回りがいいと思ったらこんなことを」

「まあ、ここで騒いでもブログは止められないんだから、うちで玲さんと話あっておけ」

 

それは雄二のいう通りだろう。とりあえずこの問題はうちに帰るまで忘れよう。

 

「ん?下の方に統計資料集なんてやけに真面目そうなリンクがあるね」

「えっとそれはですね・・・・」

 

と姫路さんが言い終わる前にクリックしてみた。出てきたのは。

 

アキ君の好みのバストサイズ    アキ君が好きな女性の髪型

Fカップ・・・・40%      ロングヘアー・・・・・50%

Gカップ・・・・25%      ショートヘアー・・・・35%

Eカップ・・・・20%      ツインテール・・・・・15%

Gカップ以上・・10%      ポニーテール・・・・・計測不能

Cカップ・・・・ 5%

Bカップ以下・・計測不能

 

アキ君の好みの体位

後背・・・

 

僕は強制的にコンピュータのコンセントを引き抜いた。いろいろと命の危険を感じたのだ。だが、一足遅かった。最も見つかってはいけない人に見つかってしまったのだ。

 

「ふーん、アキは巨乳でロングヘヤーの子が好きなわけね・・・・・」

とても静かな落ち着いた声。だからこそ恐怖はいや増すのだ。

「Bカップ以下でポニーテールは両方とも測定不能なんだぁ・・」

ここまで怖い美波の声を聞いたのは初めてだ。やばい、何か言い訳を考えなければ本気で今日が命日になってしまう。

 

「いやだなあ、美波。あれは姉さんが勝手に僕が買ってきた雑誌からカウントして統計データとして発表しただけで、本当の好みとは全然違うよ」

「へえ、そうなの」美波は優しく笑っていった。そして目にも止まらぬ早業で僕に飛びかかると、腕を抱えて腕ひしぎ逆十字を決めた。

「馬鹿なアキのために教えてあげるわ。統計データってのはサンプルが増えれば信頼性がますのよ」腕が軋む音がした。


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