これが土屋家の日常   作:らじさ

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第2話

「でも愛ちゃん。颯兄とアンナちゃん、陽兄と由美ちゃん、康兄と愛ちゃんはカップルだけど、マコちんはあたしとユカりんだよ。ランダムにしたらトリプルデートになっちゃうんだけど?」陽向が言った。

「いっ、いや陽向ちゃん達には刺激は必要ないんじゃないかな」愛子が額に汗を浮かべながら言った。

「え~、あたしだけ仲間外れなの」

一見非の打ち所のない優等生に見えるが、隠れディープオタクの様子がチラホラ垣間見られるユカりんとナチュラル・ボーン・爆弾娘の陽向の相手をしているだけで、マコちんの精神は一杯一杯でこれ以上の刺激を与えた日にゃあ登校拒否になってしまう恐れがある・・・・・とは勿論言えない愛子であった。

「だって、陽向ちゃんが参加したら兄弟とデートだよ。それって嬉しいの?」

「それもそうだね」

我ながらうまい言い訳を口に出せたというか、この家族と付き合うようになってからその方面のスキルが飛躍的に伸びた気がするのは気のせいではないだろう。

「じゃ代わりに、あたしがクジを作ってあげるよ」陽向が他愛もなく説得されて、ご機嫌でクジを作り出した。

「(何でランダムデートをすることが既成事実になっているんだ?)」颯太が言った。

「(愛ちゃんが決めたことを誰が止められるんだよ)」陽太が言った。

「(・・・・・あいつが思いついた10秒後にやることに決まってしまってるんだが)」康太も言った。

 

「愛ちゃん、できたよ」陽向が嬉しそうに叫んだ。

「ありがとう陽向ちゃん。じゃ、男性陣にクジを引かせてあげる」愛子が言った。

「・・・・・何でこんなことで恩着せようとしているのだ、お前は」康太が答えた。

「うるさいなあ、康太は。デートの主導権を男性に取らせてあげようというボクの好意じゃないか。とっとと引きなよ」

「クジ引くのが主導権を取ったことになるのか?」

「あんまり深く考えない方がいいと思うぞ、兄貴。とっとと引こう」

男性陣がそれぞれクジを引いた。

「俺は、由美ちゃんとデートか」颯太が言った。

「うふふ、お願いします。お兄さん」由美子が嬉しそうに言った。

「俺の相手は、愛ちゃんだな」陽太が言った。

「ふふふ、デートの真髄を教えてあげるよ」愛子が不敵に笑った。

「・・・・・男性陣にデートの主導権を取らせるのではなかったのか?」

「本当に細かいね、康太は。じゃ康太の相手はアンナちゃんだね」愛子が言った。

「コータ、義姉としてワタシがデートを楽しませてあげマス」アンナが言った。どうやら宗介が来日した時に吹き荒れた姉貴風が未だ吹きやんでいないようだ。

「ちょっと待て、アンナ。なんで康太がお前の義弟になるんだ?」颯太が言った。

「だってコータはソータの弟デス」

「まあ、そうだな」

「だから義理の弟の姉は義姉デス。ソータはもっと日本語を勉強してくだサイ」

「なんでロシア人に日本語を勉強しろと説教されなきゃならんのだ?俺が言っているのは、もっと根本的なことなんだが」

「あの、颯太君。そこツッコみ出すと1週間かけても終わらないと思うので、それくらいで」愛子が颯太に言った。

「それもそうだな」颯太がブツブツ言いながら黙った。

 

「ということで、ランダムデートは「颯太君・由美ちゃんカップル」、「陽太君・ボクカップル」、「康太とアンナちゃんカップル」に無事決まりました」愛子が誇らしげに宣言した。

「まあ、無難と言えば無難な組み合わせだな」颯太が言った。

「しかし、どのカップルにも共通点というのが見いだせない気がするんだが」陽太が言った。

「・・・・・誰となっても同じだ」康太も言った。

「三人ともその消極的な姿勢は何なの?新鮮なカップルだからこそ新しい刺激が生まれ、引いては奥様のイライラも・・・・・」

「そのフレーズ、気に入っているんだね」陽向がツッコんだ。

「そうそう。このデートで新しいことを学んで、それぞれの本当のデートに活かすように」愛子が高らかに宣言した。

「「「へーい」」」三兄弟が力なく返事をした。

「じゃ、決行は来週の日曜日ね。細かいことはそれぞれのカップルで決めてください」

「ねぇねぇ、愛ちゃん。あたしもデートしてもいいんでしょ」陽向が尋ねた。

「陽向ちゃんがデートって、あの二人と?」

「そうだよ。あたし達は一心同体だからね」陽向がためらいなく答えた。

「いや、別に構わないけど二人の都合はいいの?」

「うん、これから宣言する」

「確認じゃなくて宣言なんだね」

陽向が携帯を取り出すと電話をかけた。

「・・・・・・あ、もしもしユカりん?来週の日曜日にデートすることに決まったから、いつものところに10時集合ね」

「あんた唐突になにを・・・・」陽向が電話を切った。

「よし、次はマコちんだ」また電話をかけた。

「・・・・・・あ、マコちん。来週の日曜日にいつもの場所に10時ね」電話の向こう側で怒鳴り声が聞こえたが、なんのためらいもなく陽向は電話を切った。

「これでよし。じゃ、来週はあたしも参加するね」陽向がにこやかに言った。

「ユカりんはともかくマコちんは何が何やら意味がわからないんじゃないかな?」

「大丈夫、それでも必ず来るのがマコちんの良いところだよ」陽向が自信満々に言った。

「(おい、あれはデートの誘いと言っていいのか?)」颯太が言った。

「(マコちんとやらに同情を禁じ得ないな)」陽太が答えた。

「(・・・・・陽向に目をつけられたのが運のつきだ)」康太が言った。

「(だが、俺達に陽向の被害がこないようになったのは、マコちんのお陰だ。みんなで感謝しよう)」

「(陽向を押し付けてるだけじゃないのか?)」

「(・・・・・兄貴が相手してくれてもいいんだが)」

「(よし、みんなでマコちんにお礼だ)」陽太が慌てて答えた。

マコちんの家がどこにあるのかわからないので、三兄弟は東に向かって手を合わせた。

 

 


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