【陽太と愛子カップルの場合】
「という訳でボクが陽太君とデートしてあげることになったわけですけど」少女が胸を張って言った。
「なんで言い出しっぺの愛ちゃんがそんなに勝ち誇っているのかよくわからないけど、まあそういうことだね」
「では、さっそく始めましょう」少女が言った。
「始めるって、デートは来週だよ」困惑した顔で陽太が言った。
「ツッツッツ、ボクの話を聞いていなかったんですか?計画からがデートですよ」陽太の顔の前で人差し指を振りながら少女が言った。
「ああ、そうだね。じゃ、まず愛ちゃん、どこか行きたいとこある?」
「計画の前にまずやることがあるでしょう」少女が言った。
「計画の前にやること?」
「そうです。まず最初にデートのテーマを決めないと」少女が当然のように言った。
「・・・・・・デートのテーマ?」いつものこととは言え、この娘は突然に何を言い出すのだろうか。
「そうです。会社だってビジョンがあって、ミッションがあって経営がなりたつのです。デートにもテーマがあるからこそ充実したものになるのです」
「僕たちはそこまで壮大なデートはしたことないんだけど、愛ちゃんたちっていつもテーマ決めてデートしているの?」陽太が理解できずに質問した。
「もちろんです」少女が何を当然のことを聞くのかとばかりにキッパリと答えた。
まあ、色々なところに変なこだわりのある娘だ。それくらいのことは当たり前のことなのだろうなと陽太は思った。
「ちなみに初めてのデートのテーマは何だったの」
「「告白」ですね。康太がボクへの愛を告白する予定だったんです」
「あの康太がそんなことできたのかい?」
「それがあの男ときたら、行く先行く先のアトラクションで盛大に鼻血を振りまいて周囲をパニックに陥れてそれどころじゃじゃありませんでした」少女が拳をワナワナと震わせて悔しそうに言った。
「2回目のデートは?」
「「憧れ」です」
「それって理想のカップルを目指すとか言って、同級生カップルをストーカーしたというあのことかな?」
「ストーカーって失敬な。模倣と言ってください」
「で、憧れのカップルにはなれたの?」
「それが、ホラー映画のお陰で計画はメチャクチャです」
「えーっと、3回目は?」
「何言ってるんですか。陽太君たちとのダブルデートですよ。当然「成就」です」
「そんなテーマがあったとは知らなかったよ(随分引っかき回してくれた、あれのことか・・・)」
「自分でいうのもなんですけど、我ながら最高のデートだったと思います」少女が嬉しそうに言った。
「(それは結果オーライというんじゃないのか?)」と陽太は思ったが、もちろん口には出せなかった。
「まあ、ボクのおかげで今の陽太君と由美ちゃんカップルがあると言っても過言じゃないと思います」
「4回目は?」
「「思いやり」ですね」
「なるほど、お互いに思いやるってのは大事だと思うが「思いやり」のあるデートってのは?」
「あ、いや。ボクたちの思いやりじゃなくて、2年ぶりに帰ってきた陽向ちゃんを楽しませてあげようという「思いやり」です」陽向に騙されてデートすることになったとは言えない少女であった。
「5回目は」
「やだなあ、クリスマスデートだったじゃないですか。当然、山下達郎の「クリスマス・イブ」に決まってますよ」
「いや、あれはフラれる歌じゃないのかなぁ?」
「えっ、でも、クリスマスの定番の歌ですよね?」少女が不思議そうに言った。
「それで6回目は?」
「今回のデートが6回目です」
「つまり、愛ちゃんたちは5回しかデートしたことがないということかな?」
「計算上はそうなりますね」
「いや、実際にそうだろう」
「だから、ベテランのボクが陽太君に由美ちゃんを喜ばせるデートのノウハウを伝授してあげようかと」
「(正直、俺と由美ちゃんの方がはるかに多くデートしているんだけど・・・・・)」
「なにか言いましたか?」
「いや、別に何も。で、今回も何かテーマを考えているのかな」
「はい、陽太君にピッタリのテーマを考えてあります」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「フフフ、聞きたいですか?」
「愛ちゃんだけ知っててもしょうがないだろう。僕も知らなきゃテーマにならないと思うんだけど」
「今回のボクたちのデートのテーマは・・・・・」
「テーマは?」
「ズバリ、「克服」です!!」少女が高らかに宣言した。