これが土屋家の日常   作:らじさ

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何だかメンバー出しすぎて大作になってしまう予感が。

タイトルが「ランダムデート」なのに、デート部分が薄くなってしまいそうで・・・・



第10話

【吉井明久と玲カップル?の場合】

 

「アキ君。ちょっとここに来てください」姉さんが僕を呼ぶ声がした。だが、今は長時間かけたゲームのラスボス戦の真っ最中だ。そもそも姉さんが僕を呼んでロクなことがあった試しがないので無視することにした。

「アキ君、聞こえないのですか?」おっと、ボスの攻撃を何とか交わす。

「その3代目PSさんがご臨終になりそうな気がします」

「なんでしょうか、お姉さま」この人は、僕が言うことを聞かないと大人の階段を昇る参考書の次に大事なPSを躊躇無く踏みつぶすのだ。この際命の優先順位は3番目になってしまうが、それは些細な問題だとして4代目を購入するはめになった日には向こう半年間塩と水の生活になってしまう。しかたなく僕はいつものように姉さんの前に土下座した。

 

「なぜアキ君は土下座をしているのですか?」姉さんが不思議そうな声で尋ねた。

「いや、姉さんが呼ぶといつも土下座させられるからだけど」僕は答えた。

「失礼なアキ君ですね。姉さんが可愛い弟にいつもそんな屈辱的なポーズを取らすとでも思っているのですか?」

「じゃ、土下座はしなくていいんだね」

「五体投地をしてください」

「いや、それ屈辱度がランクアップしているから。大体、姉さんの話を聞くのに何でそんなポーズをしなけりゃいけないのさ」僕が当然とも思える抗議をした。

「アキ君が土下座していると、可愛いお尻をスパンキングしたくなります」姉さんが頬を染めて答えた。いや、そんなところを恥ずかしがられても困るのだが。

とりあえず五体投地は床に身体が伸ばせて気持ちがいいなあ。

 

「ということで、来週のデートの計画なのですが・・・・・」

「ちょっと待って姉さん、いろいろと文脈がおかしい。前触れもなく「ということで」と言われても何のことやら」

「アキ君はデートというのを知らないのですか?」

「いや、単語だけは知っているけど、やったことはないし」

「今までずっと皆様から「美人なだけでなくグラマーでスタイル抜群な上に性格もよくて素っ頓狂」とご好評を頂いている自慢の姉さんが初デートの相手というのは、アキ君も姉萌冥利につきますね」

「素っ頓狂と言われているのを自慢するような姉を相手にデートするのを嬉しいと思う弟はいないと思うんだけど。あとその変な属性はなに?」

「それなんですが「素っ頓狂」という単語の意味がわからなくて、オックスフォード大辞典から、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語、中国語からスワヒリ語、タミル語に至るまで、いろいろな辞典を調べたのですが載ってないのです。一体どういう意味なんでしょうか?」姉さんは、僕の質問を華麗にスルーして一人語りを始めた。

「いや、日本人なんだから、まず最初に国語辞典を引こうよ」

「私の中のゴーストがそれを引いてはいけないと囁いたのです」

「本当は意味わかっててピンポイントで避けてるよね、それ」

「アキ君は時々本当に意味不明のこと言いますね」

 

困った。この姉の場合、本気なのかとぼけているのか判別ができないのだ。これまでの経験上99%以上本気なのが、さらに困る。残りの1%は寝ぼけている時だから、とぼけている可能性は0%なのだが。

 

「まあ、それはともかくとしてどうしていきなりそんな事を言い出したのさ」

「渋谷に新しいホテルができたので、アキ君と行ってみたいと思ったのです」

「なんで渋谷にホテル?」

「とても安かったので、ぜひアキ君と一緒にと思いまして」

「いくら安いって言っても、渋谷に旅行する必要なんてあるのかな?」

「だって、3500円ですよ」

「それは確かに安いね」

「しかも二人で」姉さんが自慢げに言った。

「それは幾らなんでも安すぎるんじゃないのかな?」開店サービス料金なんだろうか。

「アキ君は本当に世間知らずですね。世の中にはご休憩フリータイム料金というプランがあるのですよ」

「ちょっと待って、姉さん。「ご休憩」の意味を知っていて言っているの?」僕は嫌な予感がした。

「アキ君は、ハーバードまで出た姉さんの国語力をバカにしているのですか?ご休憩というのは、仕事や運動などを一時やめて、休むことや休息のことです。10時から17時までご休憩することができてとってもお得なプランなのです」

「ちなみになんていう名前のホテルなの?」

「確か「Hotel Love Affair」というホテルでした」

「どう考えてもラブホテルじゃないか」僕は叫んだ。

「ラブだなんて、私とアキ君にピッタリですね」姉さんがニッコリと微笑んで言った。

 

世間の皆様から例外なく素っ頓狂とご好評を頂いているらしいこの姉に「休憩」と「ご休憩」の違いを今のうちに教えてあげておいた方がいいんだろうか?

この調子だと男友達と遊びに行って、喫茶店で休みたいと思った時に「ちょっとご休憩して行きませんか?」なぞと言いかねない。もっと問題なのは「休憩」と「ご休憩」の違いを説明した場合、「ますます私たちにピッタリですね」とか言って、僕の首根っこを引きずって連れ込まれかねないというところだ。

よし、見たことも聞いたことも会ったこともない姉さんの男友達なんかの心配よりも自分の身の安全を最優先にして説明しないことにしよう。大体、素っ頓狂な姉さんの男友達が素っ頓狂でないはずがないし、姉さんと友人であるということはこれくらいのリスクは覚悟しているはずだ。自己責任という言葉の意味を身を持って理解してもらおう。

ということで僕は会ったこともない姉さんの男友達に事態を丸投げすることにした。

 

友達・・・・・そういえば男友達以前に姉さんの友達の話を聞いたことがないんだけど、この人には友達がいるんだろうか?

 

「ねぇ、姉さんは友達っているの?」

「突然に失礼なことを聞きますね、アキ君は。もちろん姉さんにだって普通に友人はいますよ」

「いや、いつも家と学校の往復だけだし、電話とかしている様子もないから」

「角の鈴木さんちのマルちゃんとか、魚屋のタマちゃんとか庭の木に住んでいるカナブンの悦夫さん陽子さんご夫妻とか・・・・・」

「姉さん、友達はせめて霊長類までにして。というか昆虫類にまで交友範囲広げても友人が4人(匹)って少なすぎ。大体カナブンって1年で死ぬんじゃないの?」

「ええ、今のご夫妻は19代目です」

「・・・・・小学校の時から友達がいなかったのか」まあ、無理もないと思う。この人とまともに付き合える人は、かなりの確率でまともな人じゃないはずなのだ。

「世間の人は、皆さん人見知りなんですね」

「世界が姉さんから孤立しているね」

「そういうアキ君には、姉さんをバカにできるほどお友達が多いのですか」

「そりゃ僕にはたくさんの・・・・・」

 

ここで僕は自分の交友関係を思い浮かべてみた。

雄二は友人どころか明白な怨敵だ。ムッツリーニは敵対9割険悪1割というところだから友人と言うのは難しいだろう。秀吉や姫路さんは女友達と言っていいかも知れないが、女友達というだけで姉さんから虐待を受けてしまうので紹介できない。FFF団の連中は論外だ。

結局のところ僕の友人は・・・・・美波だけじゃないか。昆虫類まで友人の範疇に入れてしまう姉さんよりも、友達が少なかったとはこれはビックリ、衝撃の事実だ。僕も節足類あたりまで範囲を広げて友人を作るべきなのだろうか?

それも人間として努力の方向が間違っているような気がしないでもないが、あの姉さんより友達が少ないということに比べれば、大した問題ではない。

「ご休憩」の話がいつの間にやら「人間としての尊厳をかけた闘い」と言った様相を呈してきた。

 


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