「それにしても一人当たり420円で何すりゃいいのよ」由香が考えこむように言った。
「なあ、俺もう帰ってもいいか?」誠は既に逃げ態勢に入った様子だった。
「ふふふ、心配ないよ二人とも」陽向が自信ありげに二人に向かって言った。
「あなたの断言に根拠があった試しがないんだけど、一体何をやらかすつもりなの?」由香が尋ねた。
「釣りをすればいいんだよ」
「あのね、陽向。そりゃ伊賀ではどこでだって釣りができたかも知れないけど、この都会で何を釣ろうってつもりなの?大体、海も川もないわよ」
「ユカりんって伊賀をどれくらい田舎だと思っているの?そのうち伊賀の人に本気で訴えられるよ」
書いている人の方がヒヤヒヤしているのであるから、ユカりんも少しは口を慎んで頂きたいものである。読者に伊賀の方がいないことを切に願う書いている人であった。
「別に魚を釣ろうってんじゃないよ」陽向が言った。
「相変わらずお前の言うことはサッパリわからんな。じゃあ一体何を釣るつもりなんだ?」
「不良が旬だし、ちょっと釣ってお金をいただこうかと」
「不良に旬なんてあるの?それにそれは立派な恐喝でしょうが」
「ユカりん、『カツアゲをしていいのは、カツアゲをされる覚悟がある者だけだ』という諺もあるんだよ。カツアゲを仕事にしている以上、自分がカツアゲされることも覚悟しているはずだよ」
「いや、別にあいつらはカツアゲを仕事にしているわけじゃないと思うが」
「まあ、似たようなもんだよ」
「あっさり丸めたわね。というかわざわざ不良から恐喝しようなんて考えるのは、あなたくらいのものよね」由香が呆れたように言った。
「だって一般人からカツアゲしたら犯罪だし・・・・・」
「不良から恐喝したって立派な犯罪なのよ」
「心配しないで大丈夫だよ。あたしとマコちんの二人でヤクザの組なら5つ位はニキビよりも簡単にツブせる計算だから」陽向が自信ありげに言った。
「勝手に俺を巻き込むな。大体その程度ならお前一人で十分だろうが」
「あたしにだって死角ができる時があるかも知れないから、その時にマコちんが必要なんだよ」
「俺を盾にする気マンマンじゃねぇか」
「まあ、あたしとマコちんの二人でそこらの不良相手なら、中学校の新人バスケットボール地区予選大会にマイケル・ジョーダンが出るようなもんだね」
「よくわからない例えね」
「え、マイケル・ジョーダン知らないの?シカゴ・ブルズ全盛期のシューティング・ガードで、ダンクの時の滞空時間の長さから『エア・ジョーダン』と呼ばれ・・・」
「マイケル・ジョーダンの解説をしろって意味じゃないわよ」
「それに不良ならカツアゲされても、警察に訴える心配もないし」
「相変わらずどれだけ腹黒いんだ、お前は」誠が呆れたように言った。
既に不良釣りに意欲満々な陽向に向かって由香が言った。
「意気込んでいるところに水を差すようだけど、この辺りじゃ不良ってほとんど見ないわよ」
「やだなぁ、ユカりん。不良ってのは一匹いたら三十匹は隠れているんだよ」
「ゴキブリみたいな連中なのね。わたしもよく知らないんだけど、十年ほど前に伝説の女裏番とその配下の五人衆で区内の不良を絶滅させたそうよ」
「その組み合わせに心当たりがイヤというほどあるんだけど」陽向の表情がこわばった。
「ああ、俺も噂で聞いたことがあるな。そのお陰でここらの不良は五人衆に目を付けられないように、髪を七三に分けて塾通いしているらしいぞ」
「それって普通に優等生なんじゃないの?」
「まあ、自覚の問題だからなぁ。本人が不良だと思っていれば不良なんじゃないか?不良連中がそんな格好しているせいで、優等生は不良に間違われないように髪を金髪に染めたりしているらしいぞ」
「もしかしてこの区の学生って、みんな馬鹿なんじゃないの?」
「お前(あなた)が言うな!!」由香と誠のコブシが陽向の頭に炸裂した。
「Wコブシは止めてってば。本当に痛いんだから」陽向が涙目で抗議した。
「あなたは身体に覚えこまさないと覚えないでしょ」
「まあ、身体に叩き込んでやっても三歩で忘れる奴だがな」
「そうか、不良はいないのか。となると・・・・・」
「何かまたロクでもないこと言い出しそうね」
「奇遇だな俺もそう思う」
「この辺にヤクザの組はあるかな?」陽向が良いことを思いついたという様子で晴れ晴れとした顔で言った。
「じゃ、二人ともまた明日ね」由香が背を向けて言った。
「あぁ、俺も一緒に帰るわ」誠も後を追って言った。
「待って待って二人とも。冗談だってば」陽向が慌てて言った。
「あなたが言うと冗談に聞こえないのよ。恐喝から殴りこみにグレードアップしているじゃない」
「絶対に本気で言っていたろうが、お前は」
「とりあえず420円で『安全に合法的に』できることを考えましょう」由香が言った。
「デートの時に出てくる言葉じゃねぇよなあ」誠がツブやいた。