「あいかわらず騒がしい子たちねぇ」2階から裕ちゃんの声が聞こえてきた。
「アンナが料理を作っているというのに母さんが家にいるというのは珍しいな」颯太君が訝しむように言った。
「いつも気配だけ感じて外出しているのに」陽太君も続いた。
「アンナちゃんの殺気の消し方が上手くなったのかも」陽向ちゃんが考察する。
「ババアが衰え・・・グワ」颯太君が何かを口に出しかけてところにドアの向こう側からスリッパが飛んできて眉間を撃ち抜いた。
「大体、あんたたちは毎日毎日大騒ぎをして、いいかげんに飽きないのかしら」と言いながら、もう片方のスリッパを手に裕ちゃんがリビングに姿を現した。
「(お母さんはマトモな人みたいね)」由香リンが小声で話しかける。
「(スリッパ片手にリビングに入ってくる母親がか?)」マコちんが危惧したように言った。
「で、今回は何を大騒ぎしているの」
「いや、アンナが夕飯を作ってるんだ」颯太君が答えた。
・・・トントントントン
「あなたたちねぇ」
裕ちゃんが呆れたようにため息をつきながら言った。
「アンナちゃんは遠いロシアから颯太のお嫁さんとして嫁いできたのよ」
「だから、嫁じゃないと・・・グワ」もう一つのスリッパが颯太君の顔面を直撃した。いい加減に学習すればいいのに。
「(なんか良いように言っているけど、スリッパ投げていなかった?)」
「(この家の連中はマトモに話し合いということができんのか)」
なんて一年生コンビがひそひそ言っている。
・・・トントントンダダダダダダダ
「異国で心細い思いを押し殺して、夫に晩御飯を作ってあげようという健気な乙女の心遣いを無にするような薄情な子を持った覚えはないわ」
・・・・ダダダダガンガンガン
「そもそもあなたたちは普段から・・・・さっきからなんの音かしら?」
「だから、アンナちゃんがお夕飯作っているんだってば」陽向君が答える。
「(あれって、料理の音だったの?)」
「(内装工事しているのかと思ったぞ)」
なんのかんの言って、二人とも土屋家に馴染んでいるね。陽向ちゃんのいい友達だ。
「とっともかく、アンナちゃんの心遣いを・・・」
・・・ガシャガシャガラガラガラ
「やかましいわ!一体お前は何をやっているんだ」颯太君がたまらず叫んだ。
「お料理デース」なんの躊躇いもない声が返ってきた。
「・・・料理にあんな音を立てる過程があったか?」
「アンナちゃんのダイナマイトバディには日本の台所は狭いんじゃないかな?」ボクが一応フォローした。
「おい、アンナちょっとこっち来い」
アンナちゃんがなにやらボロのようなものを手にしてやってきた。
「お前は一体何をしているんだ?」
「だから料理と言ってマス。若年性認知症ですカ?」
「25でそんなものになってたまるか。それはそうとその手にしているボロはなんだ?」
「お肉ですね」
「「「「「肉?」」」」」全員が叫んだ。
「そうデス。お肉は叩くと柔らかくなりますネ」さすがはアンナちゃんだ。自分の行動に一切の疑いを持っていない。
「そ、そうお肉なのね」さすがの裕ちゃんも動揺を隠せない。
「んで、なんでそんな状態に?」」陽向ちゃんが聞いた。
「お肉は叩けば叩くほど柔らかくなりますね。バターくらいにまで柔らかくしようカト」
「それは叩くじゃなくて、叩き潰しているんだ。親の仇みたいに叩くんじゃねぇ」颯太君が義務のようにツッコんだ。
ここはボクの出番だろう。先達としての知恵を伝えてあげなければ。
「アンナちゃん、肉を柔らかくするには叩かなくてもいいんだよ」
「ソウなんですカ?」
「うん、パパイヤやパイナップルなどにつけておけば酵素によって柔らかくなるんだ」
「でもこんな家にそんな洒落たものはありまセン」
「裕ちゃん、果物ないの?」
「うちは果物って桃缶くらいしかないわね」
「うーん、果物だからヨシ」
「・・・ヨシじゃない」
おや、さっきまでのびていた康太が生き返ったようだ。