これが土屋家の日常   作:らじさ

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第5話

やがてお昼の時間になった。いつもならムッツリーニは工藤さんとお昼を食べる(そして必ず真っ青になって帰ってくる)ので教室にはいないのだが、

今日は僕らと食べるつもりのようだ。これは本格的にケンカしたんだろうか?

 

僕の机の向いに腰を下ろすと弁当の蓋を開けた。その時、ドアが開いて工藤さんの姿が見えた。

「ムッツリーニ、工藤さんが来たんだけど」僕はムッツリーニに囁いた。

「・・・・・そうか」ムッツリーニは目もくれずに食事を始めた。

 

工藤さんは僕のところにくると

「吉井君、悪いけど席を譲ってくれるかな」と言った。

「明久、そのままでいい」ムッツリーニが工藤さんに目もくれずに言った。

えーっと、ドラゴンの吠え声とチワワの鳴き声を比べると・・・・・僕は一瞬の躊躇もなく工藤さんに席を譲って雄二たちのところに行こうとした。

 

「吉井君、ここにいてくれるかな」

「明久、ここにいてくれ」

 

二人が同時に言った。いいかげんにして欲しい。ケンカするのは構わないけど僕を巻き込まないで欲しい。

霧島さんと雄二のケンカなら率先して霧島さんの味方をして雄二をボコるところだが、

この2人の場合どちらの味方をしても後で被害を被るのは僕なのだ。

 

工藤さんが席についてお弁当を開けて食べだした。

「・・・・・何しにきた工藤愛子」

「お昼一緒に食べるのは約束だから。あと、工藤愛子じゃなくて愛子」

「・・・・・お前が何を怒っているのかわからない」

「別に怒ってないもん」

「・・・・・勝手に怒られても意味がわからない」

「ボク、謝らないから」

「・・・・・誰もそんなことは言ってない」

 

ちょっとタイムタイム。僕の方が胸が苦しくなってきた。雄二たちの方を向いて助けを求めようとしたら

・・・・・何てことでしょう、雄二、秀吉、美波に姫路さんまで、僕たちに背をむけてお昼を食べている。

心の底から関わりになりたくありませんというシグナルを出しているじゃありませんか。

果たしてこいつらを本当に友人と呼んでいいんだろうか?

 

これ以上この場にいたら酸欠の危険性がある。とりあえず雰囲気を和らげなければ。

 

「えーっとさ工藤さん、何かあったのかな。僕でよかったら相談にのるけど」

「康太に聞いてくれるかな吉井君」うん、取りつくしまもないという言葉の用例を学習できたと前向きに捉えよう。

「ねぇ、ムッツリーニ。とりあえず工藤さんに謝った方がいいんじゃないかな」

「俺は何もしていない」

 

さて、そろそろ楽しい昼食タイムも終わりにしようかな。一口も食べてないけど。

工藤さんは食事が終わるとさっさと教室を出て行った。ムッツリーニは自分の席に戻って午前中と同じように外を眺めていた。

 

「明久、どうだった」

「かなり険悪な雰囲気じゃったのう」

「別れちゃうんでしょうか」姫路さんは涙ぐんでいる。

「青春っていろいろあるわね」美波の背中の天使の羽がパタパタと嬉しそうにはためいている。

 

「みんなよくも友達を見捨ててくれたね」僕があの2人の間に挟まれてどんな思いをしたか。

「何を言うんだ明久」雄二が諭すようにいう。

「友達なら見捨てないぞ」

「そうか、そうだよね。友達なら見捨てないよね。・・・・・えーと、じゃあ僕は・・・・」

「友達ではないということじゃな」

 

僕は瞬間的に雄二に回し蹴りを叩き込んだ。「お前とは前から勝負をつけないといけないと思ってたんだ、雄二」

「へ、返り討ちにしてやるぜ明久」蹴りをブロックして掌底を放つ雄二。ステップバックしてそれをかわす。

 

「ほほう随分、元気が余っているようじゃないか。その元気を補習に使ってみるか?」

頭の上から聞きたくもない声がする。

 

「鉄人」

「鉄人」

間髪入れず拳が僕らの脳天に叩きこまれた。

 

「何度西村先生と呼べと教えたら覚えるんだ。犬でもこれだけ仕込んだら、

チンチンくらいはできるようになるというのにお前らときたら。さっさと席につけ授業を始めるぞ」

 

相変わらず容赦のない体罰だ。体罰禁止が児童の福祉条例か何かで決まっていたはずなのに、

鉄人は法律を軽く超越してしまう。

恐るべき身体能力と言わざるを得ない。


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