「・・・・・・・・・・愛子は実はとても純情」
「すげえな、堂々の無視かよ」
まあ、工藤さんが純情ということに異存はない。ただ、その純情ポイントが人とは大きくかけ離れているような気はするけれど。
「・・・・・本当の愛子は、純情で恥ずかしがり屋で人見知りの女の子。今の愛子はペルソナ。こうありたいという自分を演じているだけ」
「演じてるっつてもそれ以外の工藤を見たことないしな」
「・・・・・そう、もう愛子自身にもわからないと思う。でも土屋、あなたは本当の愛子を瞬間でもみたことがあるはず」
名指しされたムッツリーニは考えこんでいた。
「・・・・・人間の本質はそうは変わらない。愛子はそんなに強い女の子じゃない。ただ強く見せようとしているだけ」
「何か分かる気がします。愛子ちゃんって実はとてもロマンチストなんですよね」姫路さんが同意した。
「・・・・・土屋、あなた愛子に好きと言ったことある?愛子を彼女だと言ったことある?
その確信もないのに愛子はそれを信じようとしてきた。もういっぱいいっぱいなの。
そんな時に長男がスターで、二男がそれを利用して女の子の電話番号をゲットしてる
なんて話きかされたら土屋もそうなるんじゃないかと考えるのは自然。そうなった時、今の愛子にはすがりつくものがなにもない」
「・・・・・俺は合コンなぞしない」
「・・・・・そうかも知れないし違うかも知れない。そんなことはどっちでもいい。
愛子にすがるものがなにもないという事実は変わらない」
霧島さんの目はどこまでも真剣だった。この人は本当に工藤さんのことが好きなんだなあ。
「・・・・・ねえ、どうして愛子に言ってあげないの?もし面子とかテレとかで言えない程度の好意しかないのだったら・・・・・」
霧島さんは、ここで一度言葉を切ってムッツリーニを見つめると言葉を続けた。
「・・・・・今のうちに愛子と別れて欲しい」
「おい、翔子。いくらなんでもそりゃ言いすぎだ。ムッツリーニだっていろいろ考えて・・・」見かねて雄二が止めに入った。
「・・・・・雄二は黙ってて。私はどこまでも愛子の味方。土屋の気持ちなんてどうでもいい。
本当に愛子のためにならないと思ったら、どんな手段を使ってでも別れさせてた」
霧島さんがそう決めたのなら本当にそうしていただろう。
そうしなかったということは、ムッツリーニになら工藤さんを任せられると思ったんだろう。
そこに起きたのが今朝の事件だ。霧島さんがマジギレするのも無理はないかも知れない。
ごめんムッツリーニ、友達だけどかばえないよ。
「・・・・・土屋・・・あなたなら本当の愛子をわかってくれると思ってた。ううん、今でもそう思っている。
愛子は・・・愛子は・・・とてもいい子なの。だからお願い」
そういうと霧島さんは、ムッツリーニに頭を下げた。
「・・・・・だが、どうすればいいんだ」
ムッツリーニが途方にくれたという感じで言った。
「・・・・・土屋に最後のチャンスをあげる」
霧島さんはムッツリーニを見つめながら相変わらず無表情でいった。