数分後、僕たちは西校舎裏の陰にいた。
「あの~、霧島さん。何でこんなところに」
「みんなにお願いがある。これから先、どんなことがあっても土屋に声をかけないで」
霧島さんは、みなを見わたし反論は許さないという威圧感をもって全員に伝えた。
「翔子、これはどういう・・・」
「しっ、来た」と小さく霧島さんが答えた。
校舎の反対側から女の子がキョロキョロと落ち着かない感じでやってきた。
快活そうなショートカットの女の子だ。
「何で愛子ちゃんがこんなところに?」姫路さんが不思議そうにツブやいた。
霧島さんは何も答えず、工藤さんをジッと見つめていた。
ムッツリーニも黙って見つめるだけだった。
「工藤は、こんなところで何をしておるんじゃろうな?」
「誰かを待ってるみたいですね」
「誰かってだれさ」
「どうやらその相手が現れたようだぞ」
背が高い男生徒のようだ。
「誰よ、あれ?」
「ありゃ、Bクラスの大久保だな。割とイケメンでバスケ部のエースだから女生徒にも人気がある」雄二が忌々しげに言った。
うん、その説明だけで僕の「生涯の敵リスト」のトップを飾るに相応しい人材であることが分かった。
「雄二、よく知ってるね」
「ああ、同じ中学だったからな。もっとも女をとっかえひっかえするわ。下級生はコキ使うわで、俺とは相性が合わなかったけどな」
雄二は、腹黒で陰険で姑息で鬼畜で裏切者の全く信用がおけない奴だが僅かに残っている正義感が奴とは合わなかったのだろう。
「でも、そんな人がなんで愛子ちゃんと待ち合わせなんか」姫路さんが言った。
「実は愛子は、大久保に交際を申し込まれた。返事をためらっていると迷っていると思ったのか
一週間後に返事が欲しいと言ってきた。それが今日」
霧島さんは、相変わらず工藤さんを見つめながら言った。
ムッツリーニはずーと押し黙っていた。
「やあ、待たせちゃったみたいだね。ゴメンゴメン」
「あっ、いやボクは・・・・・・」
「いや、答えは分かっているんだけど、やっぱり不安なのかと思ってさ。一週間時間をあげたんだけど」
「すごい自信じゃな」と秀吉が呆れたように言う。
「須川君に連絡してFFF団の非常招集を・・・」
「止めとけ明久」
「どうしてさ、雄二。こんな時に動かなくて何のためのFFF団なのさ」
「いや、多分あいつの思惑通りにはいかんだろう」雄二はニヤっと笑った。
「あの、ボク今日は実は・・・・」
「わかるよ。男の子と付き合うのが初めてで緊張しているんだろう」
「いえ、そうじゃなくて・・・・・・何ていうか」
「そんなに堅苦しく考えずに、遊びだと思って付き合ってみようよ」
「あ~もうイライラする。ちょっと行って関節折ってくる」
「止めなよ、美波」
「何よアキ。愛子が困ってるじゃない?」
「いや、それはそうなんだけど・・・」
工藤さんは確かに俯いて困った表情をしているけど、それはぼくらがいつも見ているムッツリーニ絡みの
「嬉し恥ずかし」の困った表情ではなくて、「どうしたらいいのかなぁ」っていう感じの困った表情なんだ。
あれなら工藤さんは自力で乗り越えられるだろう。いざとなったら頬の一発くらいは張り倒すかもしれない。