これが土屋家の日常   作:らじさ

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第3話

幸いなことにそれ以上なにが起きることはなかった。

もしあの二人が腕を組んで登校なんてことをしたら、少女の来襲を避けるために

少年は登校時間を朝5時にしなければならなくなるところだった。

ターゲットの二人は玄関で別れてそれぞれの教室に向かった。

 

「じゃ、康太また後で」少女がヒソヒソ声で言った。

「・・・・・まだやるつもりなのか」

「当たり前じゃない。まだ始まったばかりだよ」

「・・・・・俺はもう一日分疲れたのだが」

 

・・・・・と言った時には少女の姿は既に消えていた。

 

「・・・・・理想のカップルよりも先に、人の話をちゃんと聞ける普通のカップルを目指して欲しいのだが」

少年は独り言をつぶやいた。

 

教室に入っていくと雄二が机に突っ伏していた。朝の騒ぎで一日分のエネルギーを使い果たしてしまったらしい。

その無防備な姿を見ていると理不尽な怒りが湧いてきた。

そもそもこいつがもっとマトモに霧島と付き合ってたら、自分がこんなに苦労することはなかっただろう。

冷静に考えれば完全な八つ当たりなのだが、FFF団特別顧問の肩書は伊達ではない。

この程度の八つ当たりは理不尽のうちにも入らない。

 

雄二の机を軽く蹴った。

「はぁ、なっ何だ?・・・ムッツリーニじゃねぇか。どうしたんだ一体」

「・・・・・もっとしっかりしろ」

そう言うと自分の席についた。

 

「???何を言ってるんだ、あいつは?」

「機嫌悪いみたいだね」

「まあ、ムッツリーニが感情を揺らすとしたら原因は一つしかあるまい」

「工藤か?だが、あいつが工藤とケンカしたとして何でおれが「しっかりしろ」と怒鳴られなきゃならんのだ?」

「工藤さんが雄二のだらしなさに怒り心頭とか?」

「アホ、工藤にとっちゃムッツリーニ以外の男子は全部石ころだ」

「霧島さんと雄二みたいなもんだね」

「ちょっと違うな。翔子にとっちゃ俺も石ころだ」

 

否定してあげたいのだが、否定できる根拠が何一つないことに気がついた。

だが、ここは友人として慰めの言葉の一つもかけてやるべきだろう。

 

「そんなことはないと思うよ、雄二」

「そうか?」

「うん、僕らは別に霧島さんに酷い目にあってる訳じゃないから。それを考えると雄二は石ころ以下なんじゃないかなあ」

 

ただ一人酷い目にあってるのが雄二なのだから、あながち間違ってはいないだろう。

 

「てめえ、明久なんてこと言いやがる」

「何で怒るのさ、雄二」

まったく、人の心遣いが分からない奴だ。

 

その時、鉄人が入ってきて事態はウヤムヤになってしまった。

 

 

 

 


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