これが土屋家の日常   作:らじさ

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第6話

放課後、少年は帰り支度をしている友人に近寄り話しかけた。

「・・・・・雄二」

「ん?何だ」

「・・・・・頼みがある」

「お前が俺に頼みごととは珍しいな。金ならないが」

「・・・・・そんなことではない。今日はまっすぐ帰ってくれ」

「別に頼まれなくてもそのつもりだが」

「・・・・・霧島翔子に捕まらずに」

「いきなり難易度がハネ上がったな。何かあったのか」

「・・・・・何も聞かないでくれ」

「何か知らんが分かった。俺としても翔子とは一緒に帰りたくはないからな」

「・・・・・よろしく頼む」

「おお、大船に乗ったつもりでまかせておけ。必ず翔子から逃げ切ってみせるぜ」

 

放課後、少女は帰り支度をしている友人に近寄り話しかけた。

「代表・・・」

「・・・・・どうしたの、愛子」

「お願いがあるの」

「・・・・・あなたが私にお願いって珍しい。なに?」

「今日は坂本君と一緒に帰って欲しいの」

「・・・・・頼まれなくてもそのつもり」

「絶対にお願い」

「・・・・・わかった、どんな手段を使ってもそうする。何かあったの?」

「ううん、大したことじゃないから気にしないで」

「・・・・・何だか知らないけど分かった。一緒に帰ってくれなければ雄二をお仕置きするだけ」

「よろしくお願い」

「・・・・・わかった。今日は気合を入れてお仕置きしてみせる」

「いや、そっちのお願いじゃなくて一緒に帰る方をお願い」

 

20分後・・・・・・・

 

「・・・・・どうしてこうなる」

「よくわかんないけど、たぶん坂本君が代表から逃げようとしたからじゃないかな?」

 

二人の50m先には、翔子にクロロホルムをかがされて昏睡した雄二が翔子に引きずられていた。

あの「まかせておけ」という太鼓判はいったいなんだったのか。

よく考えてみれば試召戦争でも、この男が大丈夫と言って大丈夫だった試しがなかったことを今更ながらに思い出した。

 

「・・・・・どうする?雄二はこのまま引きずられて家に帰るだけだぞ」

「うん、今日はこれ以上参考になることもなさそうだし、ボク達も帰ろうか」

少年と少女は、帰路についた。

 

「・・・・・家に帰るんじゃなかったのか?」

「何いってんのさ康太、帰ってきたじゃない」

「・・・・・ここは俺の家だ。何でお前までここにいる」

「あのね康太。観察だけじゃだめなの。ちゃんとデータを整理しなきゃお手本として使えないんだよ」

少女は出来の悪い教え子を教え諭す教師のような口ぶりで言った。

 

「・・・・・なんでそんなに上から目線なんだ?」

少年は今日一日の雄二たちの行動を思い出してみた。エビ固め、引きずり、アイアンクロー・・・・

何一つ理想のカップルとして参考になるような行動はなかったように思うのだが。

 

「・・・・・整理もなにも今日一日、何一つ参考となるようなものはなかったはずだが」

「康太は観察力なさすぎ。ボクなんか多すぎてメモしたくらいなのに」

「・・・・・とりあえず、そのメモを読みあげてみろ」

「じゃ、特別に聞かせてあげるね」

「・・・・・特別にって、二人で一緒に観察するのが大事と言ってた気がするが」

少年の抗議を少女は春のそよ風のように聞き流した。

 

「理想のカップルへの道、その1。エビ固めで起こすべし」

「・・・・・初っ端からそれか」

「人の話はちゃんと聞いて、康太」

「・・・・・それは俺がお前に何十回も言ってきたセリフだ」

「理想のカップルへの道、その2.寝てたら引きずるべし」

「・・・・・ちょっと、そのメモ見せてみろ」

「あ、ちょっとダッメダメ」

「・・・・・アイアンクロー、チョークスリーパー。お弁当あーん、クロロホルム、帰りも引きずる。これが理想のカップルだと?」

「代表たちって本当に仲がいいよね」

「・・・・・普通に読めば、リンチのメニューにしか見えないのだが」

「お弁当あーんがあるじゃない」

「・・・・・それだけか。このチョークスリーパのところの(注)って何だ?」

「それはちょっと恥ずかしくて書けなかったんだけど」

「・・・・・そんな恥ずかしいことやっていたか?」

「むっ、胸を背中に押し付けるの」

「・・・・・愛子」

「うん、何?」

「・・・・・あれは霧島の胸が大きいから当たっていただけで、故意に押し付けていたわけではない。

だから、お前がそんな心配をする必要はな・・・・・オゴゥ」

 

二回目のストレートが、再び少年の顔面にヒットした。

 

 

 

 


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