これが土屋家の日常   作:らじさ

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第8話

「・・・・・おい、愛子。二人が出てきた。いくぞ」

「ちょっ、ちょっとあと少しで読み終わるから、ちょっとだけ待って」

「・・・・・お前は一体何のために俺を呼び出したんだ?」

まだ漫画に未練タラタラな少女を引きずり出すようにして二人の後を追った。

二人は歩きながら何やら言い争いをしている様子だったが、翔子が雄二の腕を組むと大人しくなった。

一見軽く腕を組んだだけのように見えるのだが、翔子は巧妙に雄二の肘関節を極めていた。

少しでも抵抗すると肘が折られることだろう。おかげで雄二は身動きがとれなくなったのである。

 

「・・・・・愛子、いくらなんでもあれは」少年はあわてて少女の方を見た。

「・・・・・」少女も耳まで真っ赤にして焦りまくっていた。

「・・・・・あれは、ちょっと無理じゃないか?」

「そっそうだね。腕を組むなんて、初心者にはハードルが高すぎるね」

「・・・・・じゃ、とりあえず、あれは無しということで」

「うっうん、今日はそれでいいよ」

いつかデートにも慣れたら代表たちのように自然に腕を組めるようになるだろう。

その時、初デートのことを思い出した。あの時は確か・・・

 

「そっその代わり、こうしてていいかな?」そう言って少年のシャツの裾をつまんだ。

「・・・・・追うぞ」少年は特に否定もせずに言った。

「ドナドナみたいだね」遊園地の時と同じセリフを言ってみた。

「・・・・・そこにツッコんだら、またパンチが飛んでくる」

「あっあれは反射だから、しょうがないんだもん」

「・・・・・反射だけであれだけ正確に顔面に打ち込めるなら、お前は世界を狙える」

 

30mほど間を空けて二人の後を追った。

やがて彼らは映画館についた。どうやら映画を観るようだ。

 

「映画を観るみたいだね。康太、ボクたちも行こう」

「・・・・・それはいいが、お前はいいのか、これ?」

「えっ?」そう言われて初めて少女は映画の看板を見上げた。

 

  「エルム街の金曜日 Part3」

 

そこに書かれていたのは、超有名なオカルトホラー大作だった。

 

少女は口を開けて看板を見上げたままフリーズしていた。

 

「・・・・・オカルト物は苦手だったのではないか?」

「・・・・・」

「・・・・・遊園地のオバケ屋敷でも、最初から最後まで俺に抱きついたままだったし」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・夜に物音がして寝むれなくなったと言ってたし」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・兄貴が聞いてきたオカルト話をしてくれた時も耳を塞ぎっぱなしだったし」

「・・・・・・・・・・なっなにを言うのかなあ康太。こっこんなのボクへっ平気だよ。さっさあ行こう」

「・・・・・愛子」

「・・・・・なっなに?」

「・・・・・手と足が一緒に出てるんだが」

「・・・・・ギャグだね」

「・・・・・誰に言い聞かせているんだ?別に無理して観ないでも外で待ってればいいではないか」

「それじゃ、理想のカップルが映画館で何をするのか分からないじゃない」

「・・・・・映画館で映画を観る以外に何ができるのかを聞いてみたいんだが」

 

「うっうるさいなあ。とにかく観るの」

少女は強行突破せんばかりの勢いで入口に向かって歩き出した。

「・・・・・ちょっと待て、切符を買ってくる」

少年は慌てて少女の首根っこを摑まえて言った。

 

 

 

 

 


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