「・・・・・何か建物に入っていったぞ」
「ああ、ここは最近できたショッピングモールだね。いろんなお店があるんだよ。
幸いなことにターゲットはエスカレータを使ってくれたので尾行は楽だった。
どうやら目的の場所があるらしくズンズンと進んでいき、一つの店に入っていった。
「・・・・・おい、愛子ここは」
「ジュエリーショップだね」
「・・・・・あいつらは堂々と入っていったな。高校生が入っていいもんなのか」
「とりあえず大丈夫なんじゃないかな。入ってみようよ」
店内は結構広いので見つかる心配はなかったが、自分たちが店内の雰囲気にそぐわないことおびただしい。
幸い入口付近は安めのアクセサリー類だったので、高校生カップルが見ていても咎められることはない。
雄二たちを探してみると店の奥のひときわ豪華なエリアにいた。
「・・・・・雄二、これ」
「これがどうかしたか」
「・・・・・私、結婚指輪にこれが欲しいの」
「ほう、随分豪華な指輪だな」
「・・・・お気に入り」
「お前と結婚する奴に同情す・・・・グワア」
「・・・・・私は雄二以外の男性と結婚するつもりはない。誰が望もうと望むまいと」
「グググ、あまり決めつけない方がいいと・・・」
「・・・・・雄二も私以外の女性と結婚させるつもりはない。雄二が望もうと望むまいと」
「俺に選択権はないのか」
「ねぇ、康太」
「・・・・・何だ」
「代表がまた坂本君に頭痛マッサージをしてあげてる」
「・・・・・雄二は頭痛持ちだからな」
「なんかところかまわずだね?」
「・・・・・頭痛はツラいらしい」
「やっぱり代表は優しいね」
大概の場合、頭痛のタネが霧島本人であることは黙っておこう。
「・・・・・ところでお前は何をしているんだ」
「これ見て、へへへ」を言って指にはめた指輪を見せびらかした。
「・・・・・指輪か。お前はあまりアクセサリーのたぐいに興味はないと思っていたが」
「うん、そんなに興味はないんだけどね。これだけは別なんだ」
「・・・・・何か意味があるのか?」
「ほら、キレイな青でしょ?ラピスラズリって言って幸せを呼ぶ石なんだって。
小さい頃から初めてのデートの時に、この石の指輪を贈ってもらうのが夢だったんだ」
「・・・・・だが、俺たちの初デートは終わってしまってるが」
「うん、だからいいの。夢は所詮夢だったんだなあって。こんなものより、
康太と一緒にいられることの方がしっ、イテッ幸せだと思うから」
「・・・・・せっかくのいいセリフなのに噛むな」
「ところで翔子」
「・・・・・何、雄二」
「ちょっと聞きたいんだが、この指輪についている値札の単位はジンバブエドルか?」
「・・・・・雄二は常識がなさすぎ。日本で売っているんだから円に決まっている」
「ほほう、円だったか。俺も薄々そうじゃないかとは思っていたんだが、ところでお前はいつ結婚する予定なんだ?」
「・・・・・今すぐにでもと言いたいけど、雄二が泣いて嫌がるから卒業したらすぐということで妥協しておいてあげる。
夫を立てるのも妻の役目」
「卒業してすぐか。で、俺たちの卒業まであとどれくらいあるんだ?」
「・・・・・約1年半。正確には567日と14時間28分」
「正確すぎるわ。どれだけ楽しみにしているんだ、お前は」
「・・・・・その日が待ちきれない。ちなみに「しょうゆ」の誕生日まであと・・・」
「いや、それはいい。ところでちょっとした疑問なんだが、どうやったら一介の高校生が567日で3000万円の
結婚指輪を買えるようになるんだ。腎臓・肝臓と内蔵丸ごとセットで売っても全然足りんぞ」
「・・・・・そこは愛で」
「違うからな。なんでも愛の一言で解決できるほど世間は甘くないからな」
「代表たち楽しそうだね」
「・・・・・俺にはどう見ても言い争いをしているようにしか見えんのだが」
「ケンカするほど仲がいいって言うじゃない」
「・・・・・要するにお前にもケンカに見えているということではないか」
「あ、またマッサージだ。坂本君も頭痛持ちで大変だね」
「・・・・・ちょっと聞きたいのだが、お前はまだあれを理想のカップルだと思っているのか?」
「もちろんだよ。本当にお互いに好きあってないとああはできないよ」
「・・・・・霧島の一方的な攻撃だから、雄二の好き嫌いはあまり関係ないと思うんだが」