これが土屋家の日常   作:らじさ

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第11話

「・・・・・じゃ雄二、次のお店に付き合って」

「もういいかげんに帰りたいんだが」

 

「・・・・・おい、愛子。二人がこっち来るぞ」

「入口から出て隠れよう」

 

ターゲットは次の店に向けて歩きだした。翔子が例によって肘関節を極めて雄二に寄り添っていたのは言うまでもない。

二人はやがてカラフルな店の前に到着した。

 

「おい、ちょっと待て翔子。俺にここに一緒に入れというのか」

「・・・・・仲良し夫婦なら当然」

「夫婦じゃねえというツッコミ以前に、お前ここランジェリーショップじゃねえか」

「・・・・・夫の好みの下着を着るのは妻の務め」

「そんな務めはいらん」

「・・・・・雄二は下着無しが好み?それなら明日からノーブラノーパンで・・・」

「そういう意味じゃねえ。下着くらい自分で選べ」

「・・・・・自分で選んでも雄二の好みかどうかの確認がいる」

「そんな確認はいらん・・・グオ」

瞬速の動きで少女の右手が少年の喉に食い込んだ。

「・・・・・雄二はテレ屋さん。私の下着姿を見たくないなんてことがあるはずがないのに」

そう言いながら少年をランジェリーショップの奥へと引きずりこんで行った。

 

「・・・・・おい」

「・・・・・(真っ赤)」

「・・・・・おい、愛子」

「・・・・・どっどうしたの康太」

「・・・・・どうしたのじゃない。ここにも俺を連れていくつもりか?」

「・・・・・こっ康太は行きたいの?」

「・・・・・店に一歩足を踏み込んだだけで出血死できる自信はある」

「・・・・・そ、そこまでなの?」

「・・・・・それだけならまだしも、吹き出した鼻血で周囲の下着を汚して買取させられる可能性がある。

よくわからないが高いのではないのか?こういう店の下着って」

「・・・・・物によっては数万すると思う」

「・・・・・頼む、ここは、ここだけは勘弁してくれ」

「・・・・・ボクもちょっと抵抗あるけど。ここら辺が理想のカップルとの壁なのかな」

「・・・・・お前の理想というのがどんなものなの想像もつかないが、全く関係ないと思う」

「じゃ、とりあえず向かいのファーストフードで代表たちが出てくるの待ってようか」

 

二人はファーストフードの窓際に座って、ランジェリーショップの入口を見張ることにした。

 

「・・・・・そういえば」

「ん、なに?」

「・・・・・この店のトイレはどこだ」

「モールの中のお店だからトイレは共通で外にあると思うよ」

「・・・・・ちょっと行ってくる」

少年はそう言い残して店の外に出ると、トイレではなく先ほど来た道を戻って行った。

 

「遅いよ。一体どこまで行っていたのさ」

「・・・・・トイレの場所がわからなかったのだ」

 

その時、ランジェリーショップの入口が騒がしくなり雄二がちょっと姿を見せたかと思うと不自然にのけぞって再び店の奥に姿を消した。

 

「今のは、坂本君だったよね?」

「・・・・・ああ、雄二だったな」

「その後ろに代表がいたよね・・・・・」

「・・・・・おそらく試着している隙に、雄二が逃げ出そうとしたのを霧島が追っかけて捕まえたのだろう」

「・・・・・でっでも、代表下着姿だったよ」

「・・・・・霧島は雄二以外には眼中にないから気にならんのだろう」

「スゴい愛だね」

「そういうのを愛と呼ぶのは、お前くらいだ」

 

羨ましそうに少女が言った。

「代表どんな下着買ったのかな。大人っぽい奴なんだろうなあ。スタイルがいいから何でも似合いそうだよね」

「・・・・・頼むから下着、下着と大声で言わんでくれ」

「ねえ、康太」

「・・・・・何だ?」

「・・・・・ボっボクの下着姿って見たい?」

「ブーーーーっ」

少年は飲んでいたコーラをテーブルいっぱいに吹き出した。

「・・・・・おっお前は、いきなり何を」

「もう、汚いなあ」

「・・・・・そんなことはどうでもいい。いきなり何を言い出すんだお前は」

「だって、男の子ってそういうの見たいんでしょう?」

「・・・・・俺はそんなことにはきょふみふぁない」

一生懸命ティッシュを鼻に詰めながら少年は答えた。

 

「うん、答えはよくわかった」

「・・・・・ふぉんなことふぁ一言もいってふぁい」

「その状態でシラを切れるってのもスゴいよね」

 

何を選んでいるのか雄二たちが一向に出てくる気配がない。少年はふと思いついたように言った。

 

「・・・・・愛子」

「なに?」

「・・・・・今のうちにトイレに行っておけ」

「え?別にそんなに行きたくないよ」

「・・・・・雄二たちがこれからどこに行くかわからない。行けるうちに済ませておくのが、尾行の鉄則だ」

「それもそうだね。じゃ、ちょっと行ってくる」

「・・・・・バッグは見ていてやるから置いていけ」

「えっ?いいよ別に、そんなに邪魔にならないし」

「・・・・・何があるかわからん。邪魔になるかも知れないから置いていけと言っている」

「よくわからないけど、そこまで言うならお願いね。じゃ行ってくる」

少女が外に消えたのを確認すると、少年はバックを手に取って口を開けた。

 

更に数十分がたった。

「・・・・・女にとって下着というのはそんなに大事なものなのか?どれだけ時間がかかっているんだ」

「うーん、そうでもないんだけど、もしかしたら・・・・・サイズがないのかも・・・・」

「・・・・・なぜ、お前が落ち込む?」

「ボクくらいのサイズだと店頭に商品がたくさんあるから5分くらいで決められるんだけど、

代表はFカップだから在庫がなくて探すのに時間がかかっているのかも・・・・・」

「・・・・・そんな理由で落ち込まれても慰めようがないんだが。

お前のサイズは在庫が豊富でよかったなとでも言えばいいのか?・・・・待て、その握りしめた拳をゆるめろ」

 

やがてターゲットがやっと店から出てきた。心なしか雄二がゲッソリとしている。

「・・・・・出てきた。追うぞ」

「何のかんの言ってノリノリだね」

「・・・・・俺はプロだ。請け負った仕事には全力を尽くす」

「いつからカップルつけ回すプロになったのさ」

 

数時間後・・・・・・

 

「ねえ、康太。坂本君ってもしかして脳腫瘍かなんかじゃないのかな?」

「・・・・・いや、そんな話は聞いたことはないが、なぜそう思う」

「だって、代表があんなにしょっちゅう頭痛マッサージしてあげてるんだよ。何か悪い病気なんじゃない?」

 

言われてみればこの数時間、雄二は行く先々で霧島の逆鱗に触れアイアンクローをくらっている。

いいかげんに学習しろと言いたくなる。

 

「・・・・・気にするな。肩こりから来る頭痛だ。心配はない。今後もあのマッサージを見ると思うが、余計な気は回すな」

「???何のことかよくわからないけど、心配ないならいいけど」

「・・・・・しかし、この方向は駅の方だな。今日のデートは終わったようだ」

「そっか、結構遅くなっちゃたしボクたちも帰ろうか」

 

 

 


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