これが土屋家の日常   作:らじさ

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第5話

僕は秀吉の冷静さに感心した。さすがに文月学園の「お嫁さんにしたい男生徒No.1」のタイトルを連覇しているだけのことはある。もやは三連覇は確定と言えよう。それにしても雄二にあんな趣味があって霧島さんとあんなことやこんなことやっていたなんて、友人としては心苦しいがFFF団に報告しなくてはならない。高校生の本分を思い出させてやるのが本当の友情だよね。

 

「とにかくあの二人の距離を縮める。さっきの件であいつらに俺たちが全く見えていないことがわかった。かなり強引でもかまわないだろう。明久と秀吉はムッツリーニを、美波と姫路は工藤を両側から挟んで、道の中央に寄って行け。適当な距離になったら真ん中の二人は外れて、ムッツリーニと工藤を外側から押し付けろ。あいつらが何を言っても無視しろ」

 

要するに無理やりくっつけるということだね。すでに作戦でも何でもないような気もするが、他にいい方法も思いつかないのでやってみることにした。さっそくムッツリーニの後ろにぴったりと接近する。普段のムッツリーニなら半径20メートル以内の気配を感じて警戒態勢に入るはずだが、今日は緊張のあまりムッツリレーダーは作動していないようだ。楽に背後を取れた。

 

美波と姫路さん達も配置についたようだ。よし!秀吉が左、僕が右側になってムッツリーニを挟み込み、そのまま道の真ん中まで誘導する。

 

「・・・・・なんだ、何をする離せ」ムッツリーニが力なく抵抗する。

 

悪いが離せない。さっさとデートを済ましてもらわないとこっちが帰れないんだ。本当はこのまま観覧車まで誘導してやりたいくらいだ。

 

「なっなにこれ。離してよ」

 

向こうでは工藤さんも抵抗しているようだ。

よし、近づいてきた。秀吉がスッと外れ僕が押し込む。向こうでは美波が工藤さんを押し込んで、ムッツリーニと工藤さんの腕がピタリとくっついた。

 

「離せ、何を・・・・・うわ」

「なによ、やめ・・・・・きゃあ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

二人が急に静かになった。

 

「えっと、これでいいんだよね」

「いいと思うんだけど、どうしてこんなに静かなの」

「よし、お前らよくやった」

「雄二、大丈夫かな。なんか工藤さん怒ってるんじゃ」

「大丈夫だ。二人をよく見てみろ」

 

振り返ってみると、僕たちが離れても二人の腕はくっついたままだった。

 

「それだけじゃねえ。二人とも右腕と右足、左腕と左足が同時に出ている。嬉しさのあまり緊張してんだな」

 

嬉しさ?それはどうかな二人とも顔が引きつって脂汗を流しているんだけど。

「軍隊の行進みたいじゃのお」

「というか、いつまでくっついているつもりかしら」

「あれがデートというものですか?」

「いや、姫路あれを標準のデートだとは思わん方がいい」

「・・・・・デートというのは」

「翔子、お前のは標準どころか、どこの世界でも異常だから」

 

やがてフジヤマについたけど二人はぎくしゃくしたまま、コースターに乗り込んだ。

 

「さて、ここからなんだが・・・・・翔子、工藤はこういう絶叫系は平気か」

「・・・・・愛子は、ジェットコースターが好き」

「ふむ、じゃあ心配はいらないな」

「雄二、さっきから気になることってなんなのさ」

「いや、ジェットコースターで工藤がムッツリーニにしがみ付いたとした・・・・・」

 

帰ってきたコースターのあたりが騒がしい。

 

「しまった。やっぱりやりやがった。秀吉バックを持ってこい」

 

雄二と秀吉が騒がしい方向に走っていった。・・・・・周囲は血の海だった。

 

「ボク、ボクそんなつもりじゃなくって。怖くてムッツリーニ君にしがみ付いたら、鼻血が噴水のようにキレイに吹き出して・・・・・」

「ああ、慌てるな工藤。お前のせいじゃない。秀吉ムッツリーニを引きずり降ろして輸血を・・・・・そうだな4パックほど。あ、みなさん大したことありません。ちょっと恐怖のあまりにのぼせたらしくって」

 

周囲は血だらけだけどこれくらいならFクラスでは日常茶飯事だ、問題はない。

 

「どうしよう。どうしよう」

 

僕たちは、すっかりパニックになっている工藤さんを落ち着かせることにした。というか工藤さんは何をうろたえているのだろう、学校では「スカートチラッ」で、これ以上の血を毎日ムッツリーニから搾り取っているというのに。

 

「工藤さん大丈夫だよ。ムッツリーニは暑さに弱くてすぐのぼせるのさ」と自分でも全く信じてない嘘でとりあえず慰めてみる。

「どうしよう。ボクが抱きついたせいなのかな」

 

どうやら僕の話を全く聞いていないようだ。その意味では彼女もFクラスに毒されていると言えよう。まあ、今日の工藤さんの可愛い恰好を見れば、ムッツリーニなら抱きつかれたら鼻血を出すことはもう想定の範囲内というか、 僕たちのできることはどれだけ被害を少なくすることしかないというか、それくらいナチュラル・ボーン・キラー・ムッツリーニである。

 

やがてムッツリーニが目を覚まして立ち上がると、何事もなかったように言った。

 

「・・・・・ふっ、俺としたことが高さに目がくらんでしまった」

 

嘘もここまで力強く断言されると「そうなんだ」と納得させてしまうだけの説得力がある。

 

「あ、そうだったんだ。てっきりボクのせいかと思って心配しちゃったよ」と工藤さんに笑みがもどった。

 

うーん、信じる方にも問題があるような気がするんだけどなぁ。まあ、二人がいいならそれでいいけど。

 

「じゃ、俺たちはまたデートを続けるからお前らは勝手に回れ」雄二の言葉でとりあえず撤退することにした。

 

「ところで翔子、工藤はジェットコースターが好きだったんじゃなかったのか」

「・・・・・愛子はジェットコースターは好き。でも苦手。隣に人がいたら抱きついてしまう」

「それを先に言え。こりゃジェットコースター系は全部マークだな」

 

雄二がため息をついて言った。

 


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