これが土屋家の日常   作:らじさ

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第6話

「ということで陽太君、デートします」家に着くなり少女は満面の笑顔で兄に向けて言い放った。

 

青年はソファーに座ってマグカップを持ったまま動きを止めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・(キョトン)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・(キョトン)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」

「・・・・・えーっと愛ちゃん」

「はい、何ですか?」

「愛ちゃんたちがデートするからって、いちいち僕に断らなくていいんだよ」

「いや、そういうことじゃなくて、陽太君もデートするんです」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・(キョトン)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」

「・・・・・僕が愛ちゃんたちのデートについていくの?」

「そうじゃないんです。なんでここの兄弟は揃いも揃って物わかりが悪いのかなぁ?」

「・・・・・落ち着け愛子。前置きもなく、いきなり「ということで」から話を始めても誰も理解できん」

 

「そうかなあ。えーっとですね、ボクたちと陽太君がWデートをするんです」

「つまり、愛ちゃんの友達を紹介してくれるってこと?」

「えっ?陽太君、女子高生紹介して欲しいんですか?うーん、今紹介できるのは優子くらいかなぁ」

「・・・・・頼むから、これ以上話をややこしくしないでくれ」

「そうだった。違うんです。デートの相手は由美子ちゃんです」

「由美子ちゃんって友達なの?うーん、正直言って高校生はあまりなぁ」

「いや、だからボクの友達じゃなくて、陽太君が好きなケーキ屋の由美子ちゃんです」

 

青年の動きが止まった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・(T大脳計算中)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・(T大脳計算中)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」

「・・・(チーン)・・・・・・・・・・ええぇー!!」

青年は、驚きのあまり持っていたマグカップを落としてしまい、熱いコーヒーがズボンにかかって

「アチアチアチ」と立ち上がった瞬間にテーブルに膝をしたたかに打ちつけ、

「痛い」とかがもうとしてこぼしたコーヒーに足を滑らせて床に後頭部をぶつけてしまった。

 

その様子を少女は腕組みしながら見守っていた。

 

「うーん、人間って動揺すると本当にコントみたいなことするんだね」

「・・・・・落ち着いている場合か。今、凄い音したぞ」

「落ち着けって言ったり、落ち着くなって言ったり。康太はワガママすぎ、ボクどうすりゃいいのさ」

「・・・・・お前の場合落ち着くべき時に興奮したり、急ぐべき時に落ち着いているのが問題なのだ」

倒れた兄をそっちのけで言い争いが始まった。

 

「お前ら、痴話ゲンカよりも倒れた兄を助け起こすのが先じゃないのか」

いつの間にか立ち上がった青年が後頭部をさすりながら言った。

 

「愛ちゃん、ちょっと康太を借りていいかな」と言った。

「いいですよ。ボクこのケーキ食べながら待ってていいですか」空気を全く読まずに少女は明るく答えた。

「ああ、好きなだけ食べていいよ」青年は答えると少年の首をヘッドロックで締め上げ、

「康太君、お兄さんちょっと聞きたいことがあるんだ。ちょっと付き合ってくれるかな?」と部屋の隅へ引きずって言った。

 

「何がどうしてどうなっている?わかるように説明しろ」

「・・・・・ぐぐぐ、愛子が言った通りだ」

「バカやろう。愛ちゃんの日本語にゃあ通訳が必要なんだよ。何がどうなってるのかさっぱりわからん」

「・・・・・愛子が暴走した」

「そりゃいつものことだろうが」

「・・・・・いや、それがいつもより張りきって・・・」というと、ケーキ屋での出来事を全部話した。

さすがにかわいそうだったので賭けのことは黙っておいたが。

 

「ということは何か、俺が由美子さんを好きだってことが彼女にバレたってことか・・・」

「・・・・・いや、バレたというよりも」

「バレてないのか?」

「・・・・・むしろ積極的にアピールしていたという方が適切かもしれん」

 

「・・・・・終わった」

陽太は床に手をついて力なくうなだれた。

 


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