「ということで陽太君、デートします」家に着くなり少女は満面の笑顔で兄に向けて言い放った。
青年はソファーに座ってマグカップを持ったまま動きを止めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・(キョトン)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(キョトン)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」
「・・・・・えーっと愛ちゃん」
「はい、何ですか?」
「愛ちゃんたちがデートするからって、いちいち僕に断らなくていいんだよ」
「いや、そういうことじゃなくて、陽太君もデートするんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(キョトン)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」
「・・・・・僕が愛ちゃんたちのデートについていくの?」
「そうじゃないんです。なんでここの兄弟は揃いも揃って物わかりが悪いのかなぁ?」
「・・・・・落ち着け愛子。前置きもなく、いきなり「ということで」から話を始めても誰も理解できん」
「そうかなあ。えーっとですね、ボクたちと陽太君がWデートをするんです」
「つまり、愛ちゃんの友達を紹介してくれるってこと?」
「えっ?陽太君、女子高生紹介して欲しいんですか?うーん、今紹介できるのは優子くらいかなぁ」
「・・・・・頼むから、これ以上話をややこしくしないでくれ」
「そうだった。違うんです。デートの相手は由美子ちゃんです」
「由美子ちゃんって友達なの?うーん、正直言って高校生はあまりなぁ」
「いや、だからボクの友達じゃなくて、陽太君が好きなケーキ屋の由美子ちゃんです」
青年の動きが止まった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・(T大脳計算中)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(T大脳計算中)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(ニコニコ)」
「・・・(チーン)・・・・・・・・・・ええぇー!!」
青年は、驚きのあまり持っていたマグカップを落としてしまい、熱いコーヒーがズボンにかかって
「アチアチアチ」と立ち上がった瞬間にテーブルに膝をしたたかに打ちつけ、
「痛い」とかがもうとしてこぼしたコーヒーに足を滑らせて床に後頭部をぶつけてしまった。
その様子を少女は腕組みしながら見守っていた。
「うーん、人間って動揺すると本当にコントみたいなことするんだね」
「・・・・・落ち着いている場合か。今、凄い音したぞ」
「落ち着けって言ったり、落ち着くなって言ったり。康太はワガママすぎ、ボクどうすりゃいいのさ」
「・・・・・お前の場合落ち着くべき時に興奮したり、急ぐべき時に落ち着いているのが問題なのだ」
倒れた兄をそっちのけで言い争いが始まった。
「お前ら、痴話ゲンカよりも倒れた兄を助け起こすのが先じゃないのか」
いつの間にか立ち上がった青年が後頭部をさすりながら言った。
「愛ちゃん、ちょっと康太を借りていいかな」と言った。
「いいですよ。ボクこのケーキ食べながら待ってていいですか」空気を全く読まずに少女は明るく答えた。
「ああ、好きなだけ食べていいよ」青年は答えると少年の首をヘッドロックで締め上げ、
「康太君、お兄さんちょっと聞きたいことがあるんだ。ちょっと付き合ってくれるかな?」と部屋の隅へ引きずって言った。
「何がどうしてどうなっている?わかるように説明しろ」
「・・・・・ぐぐぐ、愛子が言った通りだ」
「バカやろう。愛ちゃんの日本語にゃあ通訳が必要なんだよ。何がどうなってるのかさっぱりわからん」
「・・・・・愛子が暴走した」
「そりゃいつものことだろうが」
「・・・・・いや、それがいつもより張りきって・・・」というと、ケーキ屋での出来事を全部話した。
さすがにかわいそうだったので賭けのことは黙っておいたが。
「ということは何か、俺が由美子さんを好きだってことが彼女にバレたってことか・・・」
「・・・・・いや、バレたというよりも」
「バレてないのか?」
「・・・・・むしろ積極的にアピールしていたという方が適切かもしれん」
「・・・・・終わった」
陽太は床に手をついて力なくうなだれた。