これが土屋家の日常   作:らじさ

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第7話

青年はヨロヨロとソファに倒れ込むように座ると膝の間に頭を抱えこんだ。

 

「どおふぃたんでふか?よふぉたふん」

「・・・・・この緊迫した場面でケーキ喰いながら喋るな。お前の暴走のお蔭で落ち込んでしまったんだ」

「えー、落ち込む要素なんてどこにもないじゃん。Wデートまで約束してきたんだよ」

 

少女は青年の前にしゃがみ込むと両手を握って言った。

「なにが悪いんですか?せっかくボクが由美子さんを説得してデートの約束してきたのに」

青年は顔をあげると虚ろな目で言った。

「デートってのは、まだ早いんじゃないかな。最初は文通か交換日記くらいから始めて・・・」

「同じこと言ってるね」

「・・・・・ある意味とってもお似合いかもしれん」

 

「俺、デートってしたことないんだ。なにをすればいいのか分からない」

「だからWデートにしたんじゃないですか。ベテランのボクがフォローしますよ」

「・・・・・2回のデート経験でベテランを名乗れる神経は、見上げたもんだ」

「康太うるさい。初心者を不安にしないで」

「大丈夫なのか」

「そのためのボクたちです」

「・・・・・エヴァとは懐かしい」

「あ、わかってくれた?」

「・・・・・うむ、ハマったもんだ」

「ボクなんかレイになりたくて髪に青絵具塗ったらお母さんに怒られちゃって・・・」

 

「お前たちは本当に俺を慰めるつもりがあるのか?」

青年は更に深く頭を埋めてしまった。

 

「無理だ。どう考えてもやっぱり無理だ」

「無理じゃないですよ。由美ちゃんは陽太君が自分を好きだっていうのが分かった上でデートを受けてくれたんですよ。

女の子は嫌いな相手とは絶対にデートなんてしませんよ。絶対いけます」

「俺、自信がないんだよ。絶対デートなんて無理だって」

「だって陽太君だって、一生独身でいるつもりじゃないんだよね?

どうせいつかは出さなきゃいけない勇気だったら、ここで出そうよ」

「そうかもしれないけど、今の俺なんかじゃ絶対無理だよ。愛ちゃん」

 

少女はスクッと立ち上がると青年に言い聞かせるように言った。

「しょうがないなあ。そこまで言うならボクの座右の銘を教えてあげるよ。

ボクは挫折から何回もこの言葉で立ち直ってきたんだ」

これまでとは違う少女の真摯な雰囲気にうたれたのか青年も顔を上げた。

この少女を何度も挫折から立ち直らせた名言とは、果たしていかほどの力をもっているのか?

「それはね・・・・・」

青年の喉がごくりと鳴った。

 

「あきらめたらそこで試合終了ですよ」

 

「はいっ?」

「・・・・・ほう、金魂だけでなく、Slim Dunkも押さえてたのか」

「このセリフ、いつか使ってみたかったんだよね」

「・・・・・漫画とアニメしかないのか」

「失礼だな。ちゃんと小説も読んでいるよ」

「・・・・・ほう、何を読んでいるのだ?」

「えっとね、一番好きなのは「バカとテストと召喚・・・・・」」

「・・・・・待て、それ以上言わんでいい」

「えっ、どうしてさ?」

「・・・・・いろいろと大人の事情というのがあるのだ」

「大人の事情ってなにさ」

「・・・・・2つの世界線が交わり深刻なタイムパラドックスが起きる可能性がある」

 

そのセリフを聞いた青年の肩がピクッと揺れ、ソファーに座ったままブツブツと呟きだした。

「やってやる。これがステインズ・ゲートの選択というのならな」

 

「・・・・・兄貴も見ていたのか」

「ねえ何の話?」

「・・・・・気にするなクリスティーナ」

「ティーナでもなければ助手でもない」

「・・・・・結局、お前も見ていたのではないか」

「名作だよね、Stains;Gate」

 

「本当に悩んでるのか」というツッコみは受け付けない。

 

「あ、それからですね」少女は言った。

「まだ、なにかあるのか」青年は怯えたように尋ねた。

「ボクと陽太君は兄妹ということになってますんで、そのつもりでよろしく」

「はぁ?何でそんなことに」

 

「作戦上必要だったんですよ」

「・・・・・嘘つけ。単に勢いで口から出ただけだろう」

「そっそんなことないもん。由美子さんが単独デートを渋ることを見越して、兄妹カップルでのWデートに持ち込む作戦だったの。

作戦成功してWデートできることになったじゃん」

 

「・・・・・ほほう、作戦だと」

「そっそうだよ・・・・・」

「・・・・・では、由美子さんが兄貴との単独デートを受けていたらどうするつもりだったのだ」

「・・・・・その可能性は全然考えてなかったなぁ」

「(グサッ)・・・・・・・ううぅぅ」

「・・・・・上手くいって付き合うことになって家になんてきたら、妹はいなくて妹の彼氏がいることになってたんだぞ」

「うるさいなあ康太は、大体由美子さんが陽太君との単独デートを受けてくれるわけないじゃん」

「(ズキッ)・・・・・・・ぐぉおお」

「どうしたんですか?陽太君」少女は不思議そうに尋ねた。

 

泣きそうな顔をして青年がツブやいた。

「お前ら、頼むからもう少し俺をいたわってくれ」

 


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