これが土屋家の日常   作:らじさ

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第9話

「さて、愛ちゃん。次はどこに連れて行ってくれるのかしら?」

「えーっと、もうお昼すぎちゃったので美味しいイタリアンのお店に行きましょう」

「・・・・・今度は、回転寿司の店に変わっていたというオチじゃないだろうな」

「うるさいよ、康太」

 

当然だがイタリアンの店はちゃんとあった。もうお昼を過ぎた時間帯ということで店は空いていた。

それぞれ注文をすませると、会話が途切れた。

「(康太、話を盛り上げなよ)」

「(・・・・・無茶いうな)」

 

そんな雰囲気を読んだのか、由美子が楽しそうに話しだした。

「陽太さんも愛ちゃんもオカルト系がダメなのね」

「そうなんですよ。ボク怖いの苦手で」

「でも、現実はそんなに怖いことってないのよ」

「由美ちゃん、何か経験あるの?」

 

「私も兄もオカルトが好きで、一度は経験したいと思って二人でいろんな心霊スポットに

出かけたりしているんだけど、一度も怖い経験ってしたことないの」

「そんなことしているんですか?勇気あるなぁ」

「この間も子供の幽霊が出るっていう廃病院に行ったんだけど何も出なかったわ」

「スゴいなあ」

「ただ、帰りに車に乗って走ってたら、兄が「あれっ」ていうの」

「なっ何があったんですか?」

「気がつかなかったんだけど、車のリアガラスにいっぱい子供の泥手形がついてたの」

 

「「「・・・・・」」」

 

「近所の子供のイタズラだろうって兄は言ってたんだけど、夜中の2時に子供を外に出すなんて親御さんに問題あるわよねえ」

 

「「「・・・・・」」」

 

「スタンドで拭いてもらおうとしたら、スタンドの人に「すいません、お客さん。

この手形、車の内側からついているみたいです」って言われちゃって」

「そっそれでどうしたんですか」

「もちろん兄を怒ったわ。貴重品がなかったからいいけど車の鍵をかけ忘れるから子供が入り込んでこんなイタズラするんだって。

兄はちゃんと鍵はかけたって言い訳してたけど、鍵かけてたら車に入れないものね」

 

「「「・・・・・」」」

 

「まあ、噂なんてこんなものよね。だから愛ちゃん、オカルトなんてそんなに怖がる必要ってないのよ。

なんだったら今度私と一緒に心霊スポットに行きましょう。そういうのがないってわかるから」

 

少女は涙目で首を一生懸命横に振った。

 

「(おい康太、これ冗談だよな)」

「(・・・・・ケーキ屋での会話から判断すると100%本気だ)」

「(幽霊も災難だな。この様子じゃ心霊スポットで血塗れの幽霊みたら救急車呼びかねんな)」

 

その時に注文が届いたのは天の助けだった。

しばらく無言で食べていたが、それではマズいと思ったのか少女が話題を振った。

「そういえば、由美ちゃん。何か音楽とか聞くんですか?」

「インディーズだけど、大好きなバンドがあるの」

「へえ、ボクもスゴく好きなバンドがあるんですよ。何てバンドですか」

「知っているかな。タコ&ライスっていうバンドなんだけど」

 

「「ゴホンゴホン」」

 

「どうしたんですか二人とも」

「あ、大丈夫です。ちょっとむせちゃって」

「陽太さんはタコ&ライスってバンドごぞんじ?」

「いやぁ、僕はあまり音楽詳しくないので。すみません。ははは」

 

「(おい、タコ&ライスって兄貴のバンドだよな)」

「(・・・・・どうもそうらしい)」

 

「すご~い。ボクも好きなんですよ。特にボーカルのShuが大好きで」

「ええ、愛ちゃんもShuが好きなの。私も大好きなの、趣味があうわね」

 

「「ゴホゴホゴホゴホ」」

 

「本当に大丈夫ですか?」

「いやぁ、水が気管に入っちゃって。すいません話の腰おっちゃって」

「(・・・・Shuって兄貴のことだろ?)」

「(・・・・多分)」

 

「もう、あの耽美的で生活感のない雰囲気がいいんですよね」

「そう。もうバラの露だけ飲んで生きているという感じよね」

 

「(この二人は誰の話をしているんだ?いつも丼で飯を3杯食うんで、お袋から食費2倍にされたあいつのことか?)

「(・・・・・どうもそうらしいんだが)」

 

「歌も感情があふれて気持ちまで伝わってきますよね」

「わかるわ、愛ちゃん。心を余すことなく表現できる、まるで歌うために生まれてきたような人よね」

 

「(もう一度聞くが、バンド組んだ時あまりのリズム感のなさにメンバー全員から

「てめーは歌でも歌ってろ」とケリいれられていたあいつの話か?)」

「(・・・・・カスタネットまで失格になって危うくトライアングル担当になりそうになっていた)」

 

「なんかいろいろなバンドのボーカルの素晴らしいところを取り入れたって感じで、研究しているってのがわかるんですよね」

「そうなの。それでいてパクリというんじゃなくて、いいところのエッセンスだけ取り入れたという感じ」

「(・・・・・どうしてもわからんのだが、毎日風呂で石川さゆりを大声でガナっているあの男のことなんだよな、たぶん?)」

「(・・・・・あいつはCDは、演歌しか持ってないはずなんだが何を研究するんだ?)」

 

「あの衣装も耽美的でいいですよね。ロマンチックでゴージャスで」

「寝てる時もネグリジェなんか来ているんじゃないかと思っちゃうわよね」

 

「(・・・・・腹が弱いから春夏秋冬一年中、ステテコに腹巻して寝てますって教えてやりたくなるな)」

「(・・・・・多分、ファンからリンチにあうと思う)」

「(しかし、いくらビジュアル系とはいえ、よくもまあここまで騙せるもんだな)」

「(・・・・・愛子は一応兄貴がShuって知ってるはずなんだが、現実の兄貴と結びつかんらしい)」

「(あいつらライブの時にタチの悪い幻覚剤でもまき散らしてるんじゃないか?)」

「(・・・・・CDにサブリミナルを仕込んでいるかも知れない)」

インディーズの大スターも二人にとっては、ただのだらしない兄にすぎなかった。

 

「なんか由美ちゃんとボクって趣味が合いますね。本当のお姉ちゃんみたい」

「私も愛ちゃんみたいな妹欲しかったわ。今度一緒にタコ&ライスのライブに行きましょう」

 

女性陣は何やら意気投合したらしい。

それを聞きながら「できればあれにあんまり関わらないで欲しい」と思った陽太と康太であった。


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