これが土屋家の日常   作:らじさ

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第11話

「じゃ、愛ちゃん。そろそろいい時間だし今日は解散かな」

「なに言っているのさ陽太君。最後の締めが残ってるんだよ」

「締めってなぁに、愛ちゃん」

「・・・・・ロクなことを言わないような気がする」

 

少女は一同の前に立って宣言した

「最後の締めは・・・・・タコ焼きです」

 

「「「タコ焼き???」」」

 

皆の疑問を気にかける様子もなく、少女は2駅ほど離れた公園まで一同を案内した。

公園の中に入っていくと土手の下で屋台を出しているタコ焼き屋へと向かった。

 

「愛ちゃん、タコ焼きだったら、さっきの街にもあったのに」

「そんなに美味しいタコ焼き屋さんなの?愛ちゃん」

「さあ、どうでしょう?ボクも食べたことがないんで」

「・・・・・じゃあ、どうしてこんなところまで引っ張ってきたんだ、お前は」

「うるさいなあ康太は、いろいろ理由があるんだよ」

 

一同は、2舟のタコ焼きを買ってみんなで分けて食べた。

「これは・・・」

「ふつうのタコ焼きだわね」

「・・・・・どちらかというとマズ目のタコ焼きのような」

「愛ちゃん、このタコ焼きに何の意味があるの?」

「え、タコ焼きはタコ焼きですよ?」

「・・・・・では、お前は何のためにここまで連れてきたのだ」

 

「本命はね・・・・・・」少女は一同の前に立つと、背後の土手を昇る階段を指して言った。

「じゃーん、これだよ」

 

「「「???」」」

 

相変わらず意味不明の少女の説明に一同は首を捻った。

「・・・・・とりあえず、説明しろ」

「え?康太。この階段が見えないの」

「・・・・・階段は見える。お前が何を言いたいのかがさっぱり見えない」

「本当にもの分かり悪いなぁ康太は」

「・・・・俺だけじゃなくて誰も理解できてないではないか」

 

「では皆さん、ボクの後についてきて下さい」と言って、少女は階段を登り始めた。

3人は黙って後をついていった。

階段を上り詰めるとそこはちょっとした広場になっており、街全体が夕焼けに染まっているのが見えた。

少女は広場の端の手すりの前まで進むと、こちらを振り返り両手を広げて得意げに言った。

 

「どうですかこの風景。とても綺麗でしょ」

「わあ、本当ね。街が赤く染まってとても綺麗だわ」

「こんな場所もあったんだな。夜景も綺麗そうだ」

「・・・・・タコ焼きに何の意味もないではないか」

「康太、さっきからうるさい。本当に細かいんだから」

 

「それだけじゃないんです」少女は更に得意げに付け加えた。

「ここで告白したカップルはずっと幸せになれるという噂があったりなかったり」

「・・・・・どっちなのだ?」

「いや、友達に初めてここに連れてきてもらった時に「ここで告白されたら、ずっと幸せになれそうだなぁ」って思ったのね。

でも、その後そんな話も聞かないから「ないのかなぁ」って」

「・・・・・あったりなかったりではなくて、お前が勝手に思い込んでいるだけだ」

「えぇ~、でもそんな雰囲気の場所でしょ」

「ふふふ、愛ちゃんのいうとおりね。私もそう思うわ」女性がほほ笑みながら言った。

「由美ちゃんもそう思うでしょう?」

「そうね、こんな場所で告白されたら一生の思い出に残るわよね」

その言葉を聞いているのかいないのか青年はじっと夕焼けの街を見つめていた。

 

「じゃボクたちは、そろそろ行くね」少女が言った。

 

「「えっ?」」と二人が叫んだ。

 

「帰るのなら一緒に帰りましょう、愛ちゃん」

「そうだよ。僕たちだけ残ったってやることないし」

「ダメだよ。二人はこれからデートの締めをしなくちゃ」

 

「「締め?」」

 

「そう、映画みたり、食事したりの手伝いはいくらでもできるよ。

でも最後のハードルは、由美ちゃんと陽太君自身で越えるしかないの。

二人とも今まで異性とお付き合いしたことがないからとても高いハードルに見えるのはわかるよ。

ボクと康太だってそうだったもん。でもボクたちは越えたよ。

一人じゃ無理だったかもしれないけど康太と二人でちゃんと越えたもん。

だから由美ちゃんと陽太君も大丈夫だよ。これ以上ボクが手伝えることはないの。

あとは二人の問題だから」

 

少女はそういうと由美子の側に行き「頑張ってあげて」と耳うちした。

ついで陽太の側に行き「どうせいつかは出さなきゃいけない勇気なんだよ」と耳うちした。

 

そうして「じゃ頑張ってね」というと「康太、行こう」と言って石段を降りて行った。

 


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