翌日、ボクは康太と待ち合わせてタコ&ライスが練習しているライブハウスへ向かった。
「陽太君はどうしたの?」
「・・・・・由美ちゃんを迎えにいった」
「やっぱり陽太君は、優しいなあ」
「・・・・・いい迷惑だ。朝の6時には家を飛び出してった」
「ということは目覚ましは・・・」
「・・・・・当然、5個セットして家族中を叩き起こして、颯太にケリを入れられてた」
「あいかわらずだね」
「・・・・・アンナなど火事だと思って、枕を抱えて走り回っていた」
「ボク、この2日でアンナちゃんのイメージがだいぶ変わっちゃったんだけど」
「・・・・・ここらしい」
入口には颯太君とアンナ、陽太君と由美ちゃんが待っていた。ボクたちは6人でライブハウスに入っていった。
メンバーは既に舞台上で楽器のセッティングとかをしていたが、颯太君の姿を見つけると、「遅いぞ、颯太」と舞台上から叫んだ。
「ねぇ。GuuにAtsushiにYouにGonがいるよ。ほら見て見て」
「・・・・・落ち着け。メンバーだからいるのは当たり前だ」
「何でそんなに落ち着いているのさ。伝説のバンドだよ」
「・・・・・俺にとっては単なる昔からの知り合いだ」
颯太の横に寄り添うように立っているアンナの姿に気が付くと「おい、颯太。急いでこっちきてくれ」とGuuが言った。
颯太君が舞台に上がるとYouが間髪入れずに足払いで舞台に転がし、その後4人で颯太君を蹴りまくった。
「ようし、これくらいでいいだろう。それじゃあ、何でお前があんな外人の美人を連れているのかの言い訳を聞こうか」
とGonが息を切らしながら言った。
「ねえ、康太」
「・・・・・何だ」
「普通、言い訳って蹴ったりする前に聞くんじゃないのかな?」
「・・・・・昔からあいつらに理屈は通用しない。兄貴が女連れなのが気に入らなかったから、
とりあえず蹴ってストレス発散したそれだけだ」
「FFF団みたいだね」
「で、あの女は誰だ?」とAtsushiが聞いた。
その声にアンナが答えた。
「妻デス」
4人の殺気のこもった視線が一斉に颯太に向く。
「てめー、なにをデタラメいってやがるロシアン娘」颯太が慌てて叫んだ。
「デタラメじゃありまセン。「ファン」と書いて「つま」と読みマス」
「勝手に日本語の語彙を増やしてるんじゃねえ。だいたい「ファン」ってカタカナだろうが、ひらがなのルビふってどうする」
「じゃあ「つま」だけでいいデス」
「いいデスじゃねぇ。さりげなく悪い方を残すな。お前は状況を理解しているのか?」
「じゃ、続きを始めようか」とAtsushiが冷静に言った。
「ちょっと待て、ファンを連れてきた程度で殴られてたらあいつらはどうなる」颯太は陽太と康太を指さした。
傍には由美子と愛子が立っている。
「あいつ俺たちを売りやがった」
「・・・・・昨日、愛子たちを練習に誘ったのは、こういう理由か」
「そういえば、あいつらも女連れだな」
「俺たちに対する挑戦とみた」
「しばらく見ないうちに、あの2人もエラくなったもんだ」
「陽太く~ん、康太く~ん。久しぶりだね。お兄さんたちと積もる話でもしようじゃないか」
「おい、何か呼んでるぞ」
「・・・・・昔からあいつらに君付けで呼ばれた時に、ロクな目にあった例がないんだが」
とはいうものの4人は2人にとっても幼馴染の兄のような存在である。逆らうことはできなかった。
舞台にあがった2人の四方をさりげなくメンバーが取り囲み退路を断つ。まさに熟練の動きである。
「久しぶりだね。2人とも」Atsushiが優しい声で言った。
「はあ、ご無沙汰してます。兄さんたち」陽太と康太は昔から4人のことを兄さんと呼んでいた。
「じゃ、これからする尋問、いや質問に正直に答えてもらおうか」
「いやだなあ篤兄さん、僕たちは何も・・・・」
「そんなこたぁ聞いちゃいねぇんだよ。てめえらは俺が聞くことだけに答えてりゃいいんだ」Atsushiの口調が変わった。
「・・・・・いつもの篤兄さんに戻った」
「単刀直入に聞こう。お前らが連れている女性は彼女なのか?ハイかイエスで答えろ」
「それどっちも同じ意味じゃ。ハイっていうとどうなるんですか?」
「骨は北海道に埋めてやる。イエスだと沖縄だ。好きな方を選べ」
彼女じゃないと答えそうになった陽太だったが、由美子が不安そうにこっちを見てるのに気が付いた。
(そうだ告白した時、これからは勇気は俺が出すって誓ったじゃないか)と思いだした。
「ハイ、僕の彼女ですけど、でもタコ&ライスの大ファンなんですよ」
「ひゅ~、聞いたかBros.。この坊やは、俺たちのファンを奪って彼女にしたんだってよ」
「いや、彼女になった人がたまたま兄さんたちのファンだっただけで、別にファンを奪ったわけじゃ・・・」
「結果的に同じことなんだよ!!」
「ガキの頃、肝試しにいってションベンもらしてた陽太もエラくなったもんだ。俺たちにケンカ売るとはな」
「というか何で人気売れっ子ミュージシャンに女性のことで僻まれなきゃならんのですか?
兄さん達には女性ファンが世界中にたくさんいるでしょうが、よりどりみどり好みの子を彼女にすればいいじゃないですか」
「なあ、陽太。お前は「絵に描いた餅」って言葉を知ってるか?」Guuが陽太の肩を抱いて言った。
「あ、はい。知ってますけど、それがなにか」
「俺たちに何万人女性ファンがいても、女が苦手で手を出せなきゃ1人もいないのと一緒なんだよ!!」
「いや、そこは自分たちで解決して下さいよ」
「とりあえず、陽太は有罪だな。次は康太だ。正直に答えろ」
「・・・・・いや、あれは学校の同級生で・・・グワ」
康太の後頭部に客席から愛子が投げた缶コーヒーが命中した。
「なに言ってんのさ、康太は。ハッキリ、キッパリ、正々堂々と「俺の彼女だ」と言い切ってやんなよ」と愛子が客席で大騒ぎしていた。
「おっおい、大丈夫か康太」
「あの距離から康太の頭に缶コーヒーを当てたのか」
「イチローの伝説の「レーザービーム」なみだ」
「康太が日頃どんな扱いされてるか目にうかぶな」
「まあ、大変だろうが頑張れよ康太。いつかいいこともあるさ」
僻みモード全開だったメンバーに同情される少年であった。