曲が終わりメンバーが口ぐちにアンナちゃんを褒め称えた。
「よし、これで行こう。ロシア娘いいな?」と颯太が言った。
「わかりまシタ。内助の功デスネ」
「なぜお前は、時々日本語が通じなくなるんだ?」
「よし、アンナちゃん。これで君は晴れてバンドメンバー008だ」とGonが言った。
「008?007はどうしたんでスカ?」
「007は7年後に生まれてくる」
「7年後?また妄想デスカ?」
「妄想ではない。必然だ、颯太のな」
「お前らの妙な世界観に俺を引き込むな・・・何でお前が赤い顔をしてるんだロシア娘?」
「Shuの必然は、私の必然だカラ」
「お前らの言ってることは、何一つ理解できんのだが・・・・・」
「スゴい。本物のバンドみたいだよ」と少女が言った。
「いや、俺たち一応本物のプロなんだけど、今まで何だと思ってたの、愛ちゃん」Atsushiが答える。
「タコ&ライスのパチ物だと・・・」
「それはちょっと酷いんじゃない?」
「だってロクでもない場面しか見てないし・・・・・」
「あれはコミュニケーションだよ」
「あれじゃ確実にチームワークにヒビが入りますよね・・・」
「大丈夫。ヒビが入っても割れる前に逃げ出すから」
「本当に、どうやって今までバンド続けて来られたんですか?」
「お前ら、ほぼ初対面でよくそこまで息のあったボケツッコミができるな」颯太が呆れたように言う。
「うん、愛ちゃんのツッコミのキレがいいから思い切りボケられる」
「素じゃなくてボケだったんですか」
「そう。こうみえても俺は日々ボケの技術を磨いているのさ。楽器の練習時間よりも多いくらいだ」
「プロなんだから楽器の練習を最優先しましょうよ。ビジュアル系バンドにボケなんて必要ないでしょう」
「ふふふ、愛ちゃん。俺にとっちゃこんなバンドなんて踏み台だよ」
「へぇ~、他に夢があるんだ」
「ああ、いつかM-1のタイトルを取るんだ」
「それって夢がグレードダウンしてませんか?」
「うむ、素晴らしいツッコミだ」と呟くと、Atsushiは颯太に向かって叫んだ。
「おい、颯太。今度のMCは俺と愛ちゃんの漫談で行くぞ」
「ボク、絶対にイヤですからね」少女も負けずに叫んだ。
「何だMCじゃ不満なのか愛ちゃん。意外と野心家だな。わかった、じゃオープニングトークを・・・」
「どこでやるかじゃなくて漫談することがイヤなんです」
Atsushiは、ため息をつきながらヤレヤレと言わんばかりに首を振った。
「わかってないな、愛ちゃん。僕の兄心を」
「兄心?」
「そう、由美ちゃんはキーボード、アンナちゃんはボーカルで参加するのに、ヨメーズの中で君だけ参加しなかったら、きっと将来に禍根を残すだろう。だから愛ちゃんにも参加する機会を作ってあげようとしてるのさ」
「どうでもいいけど、そのネーミングセンス何とかなりませんか。何ですかヨメーズって」
「ヨメの複数形はヨメーズで間違いないはずだが?」
「文法の話じゃなくて、センスの話をしているんです」
「嫁という点は否定しないんだね」
「否定以前の問題です」
「じゃ何か楽器が弾けるのかい?」
「そっそれは、弾けませんけど」
さんざんイジリ回されて混乱のあまり、Atsushiの意のままに答えていく少女であった。
一方、陽太と康太は客席に座ってポテチをつまみながら一部始終をのんびりと見学していた。
「思いっきり遊ばれてるな、愛ちゃん」
「・・・・・たまにはいい薬だ」
「それにしても篤兄さんのイジりテクニックは相変わらずスゴいな」
「・・・・・あの人は昔からネチネチ責めるのが好きだった」
全くのひとごとであった。
「じゃ、やっぱり漫談だね」
「待って、待って。えーっとね・・・・・ボク、カスタネットなら弾ける」
「聞いたか、Bros.。愛ちゃんはカスタネットが弾けるそうだ」Atsushiが全員に向かって叫んだ。
「「「「うぉぉぉぉ」」」」
「待って、待って、ちょっと待って。弾けると言っても小学生レベルなの」
「聞いたかBros。何と愛ちゃんのカスタネットは、小学生レベルもあるそうだ。拍手を送ろう」再びAtsushiが呼びかけた。
「「「「パチパチパチパチ」」」」
「なんでこのバンドは余計な時だけチームワークがいいの?」
「よし、これで愛ちゃんはタコ&ライスの2代目カスタネッターだ」とAtsushiが宣言した。
「というか思いっきりバカにされてる気がするんだけど」と少女が言った。
「そんなことはないぞ、愛ちゃん。うちの初代カスタネッターは、幼稚園以下のレベルだった。それに比べりゃ小学生レベルってのは、もはやプロも同然だ」とGuuが言った。
「あいつは10分でクビになったな」とYouが言う。
「うちの甥っ子の幼稚園生をスカウトしてこようかと真剣に考えたぜ」とGuuも応えた。
「・・・・・誰だったんですか、初代は?」と少女が尋ねるのとほぼ同時に
「「「「あいつだ」」」」とみんなが指差した先には、アンナにボーカル指導をしている颯太がいた。
「颯太は本当に不器用で楽器は何やらしてもダメだったから、ボーカル押し付けてやった」Atsushiが言った。
ボーカルって花形じゃないですか。なんで誰もやらなかったんですか?」
「「「だって目立って恥ずかしいじゃん」」」」全員が答えた。
「みなさん本当にバンドやってモテる気あったんですか?」少女が呆れたように言った。