・・・・・とは思わない人もどうやらいたようだ。それも身近に何人も。
ボクと由美ちゃんはアンナちゃんに、この感動を伝えようとして駆け寄った。
「感動したよ、アンナちゃん」
「・・・・・・・・・・」
「ほんとプロみたいだったわ」
「・・・・・・・・・・」
「???あの、アンナちゃん大丈夫?」
アンナちゃんは魂が抜けたみたいになっていた。
「アッ、アンナちゃん、どうしたのかな?」
「私、Shuとキスした夢を見まシタ」
「いや、そんな器用な夢みないから」
「嬉しすぎて頭のヒューズが飛んじゃったみたいね、ふふふ」
「じゃ、あれは現実デスか?」
「すぐに入口と出口を封鎖しろ」
「そう、現実も現実。さっきあったことだよ」
「トイレから逃げられないように、窓のカギを針金で縛っておけ」
「Shuとファーストキスデスね」
「よーし、部屋を一つずつ調べていけ。引き出しの中も調べ忘れるなよ」
「ファ、ファーストキスかはともかくキスはキスだよ」裕ちゃんのムチャ振りを信じてるよ。
「絶対逃がすなよ。目にものみせてやる」
「うるさ~い。乙女たちが愛の感動にひたっている最中に、一体なにを大騒ぎしているのさ」
「いや、愛ちゃん。何でもないんだよ。ちょっと裏切者に制裁を加えようと思って」
「何のことだかよくわかんないけど、制裁加えるなら静かにやってよね」
ちょうどそこへYukiさんがやって来た。
「おう、Yuki。颯太見なかったか?」
「あんたたちのことだから大体何を騒いでいるのか見当がつくけど、颯太ならライブ終了と同時に、
ステージ衣装のまま裏口から飛んで逃げたわよ」
「野郎、せっかく人が致命傷だけで勘弁してやろうと思っていたのに」
陽太君と康太もやってきた。
「こうなってるんじゃないかと思ってたら、やっぱりこうなってたか」
「・・・・・兄貴だって想像できなかったはずはないんだが」
「何のかんのいっても、そういうことなんだろう」
「・・・・・そうだな」
二人が何を言ってるのか分からなかったので聞いてみた。
「ねぇ、二人とも何の話をしてるの?」
「兄貴の話だよ、愛ちゃん」
「そういうことってどういうこと」
「・・・・・まあ、そのうちなるようになるということだ」
由美ちゃんが笑いをこらえていたので尋ねてみた。
「由美ちゃん、意味わかった?」
「ふふふ、何となくだけど」
「どういう意味?」
「うーん、他人がとやかく言うことじゃないと思うの。本人たちにまかせましょう」
何となく仲間外れにされた気分だ。
そこへニコニコ上機嫌でAtsushiがやって来た。
「愛ちゃ~ん、グッドニュースだよ」
「誰にとってのグッドニュースなんですか?」ハリネズミも土下座して謝るくらいに言葉にトゲを生やして答えた。
「なんだ、機嫌が悪いなぁ。大丈夫このニュースを聞けば、そんな愛ちゃんもニコニコさ」
「本当にボクは聞きたくな・い・ん・で・す。あなたの言うグッドニュースがボクに良かったことなど一度もないですから」
Atsushiも負けていなかった。「いやぁ、他のヨメーズのメンバーだけに聞かせるとグループ分裂の原因になったりするんだよね」
「ボクたちはヨメーズってグループでもないし、仲良しだからケンカもしません。皆さんと一緒にしないで下さい」
「じゃ、二人に聞かせるから、愛ちゃんはそこはかなく聞いててよ」
「はぁ」ボクは不満げに言った。
「さっきレコード会社のプロデューサーと話合って、今回ライブのデキがかなりよかったので、ライブアルバムとして発売することになりました。拍手」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「あれ?反応薄いね。じゃこれはどうかな?ジャケットの表紙は、ヨメーズの皆さんです」
その瞬間、ボクはAtsushiに飛びかかり、後ろから首を絞めていた。
「本当にこの男は。何のために今日のライブでこんなに厚いメイクをしたと思っているの?
知り合いにバレないようにするためなのに、それを全国発売のCDのジャケットにしてどうすんのさ」
「・・・・・待て愛子、落ち着け。本当に喉に入っている」康太がボクを引きはがした。
「離して、康太。一度だけ。一度だけでいいからこの男を締め殺させて」
「・・・・・いや、たぶん二度目はないと思うから、止めとけ」
「康太、愛ちゃんがここまでいうんだから、一度くらいやらせてやったらどうだ?」
「・・・・・兄さん。そんなこと言って本当に逝っちゃったらどうするんですか」
「そん時ゃお前、新しいキーボード募集するしかないだろう」
「・・・・・心配してるのは、そこなんですか」
ライブ後の方が大騒ぎだった。