高速に乗って2時間走っていた。
「おかしいなあ」と陽太が言った。
「どうかしたの、陽太君」と由美子が尋ねた。
「いや、気のせいかも知れないんだけど、後ろの白い車が東京からずっと後ろを走っているような」
「たまたま同じ方向なんじゃないかしら。高速だから方向は一緒だし」
「そうだよね」
一方、颯太の車の中では
「だから夫なぞにな「った覚えはないと何回言えば理解するんだ、お前は」
「乙女の体を奪ったクセに」
「ちょっちょっと待て、人聞きの悪いことを言うな。そんなことした覚えはないぞ」
「キスしまシタ」
「それは体を奪ったとは言わん」
「デモ唇も体の一部デス」
「というか、その言い回しを誰から習ったんだ?」
「お母さんが教えてくれまシタ」
「やっぱり、あのババアか。いいかアンナ、マトモな人生を送りたかったら、あのババアの言うことは無視しろ」
「夫のお母さんの言うことを無視なんかできまセン」
「その夫のいうことはスカっと無視しやがるくせに何を言う。だいたい夫なぞになった・・・・・・」
全く進歩のない会話を延々2時間繰り広げていた。
高速を降りて国道を1時間ほど走ると「七色温泉街」に入った。予約していた旅館に着くと颯太が言った。
「よし、荷物を置いたら観光にいくぞ。10分後にロビーに集合」
彼らの部屋は二間続きで、男3人、女3人づつの和室だった。とりあえず荷物を置いて全員ロビーに集まった。
「よし、全員揃ったな。ではいまから旅行のしおりを配る」
「「「「旅行のしおり?」」」」
「何を驚いている。遠足や旅行にはしおりがつきものだろうが」
「このところ夜遅くまでガサゴソしていると思ってたら、こんなの作ってたのか」
「凄いですね。歌集までついてます」
「・・・・・あいつのことだからどうせ演歌ばっかりだ」
「何を言う「友よ」とか「四季の歌」とかも入っているぞ」
「どっちにしろ古すぎる。というか、これいつ歌うつもりなんだ?」
「(ねぇ、康太)」
「(・・・・・何だ?)」
「(颯太君って、この旅行どれだけ楽しみにしていたのさ?)」
「(・・・・・こんなしおり作るくらいだ。察しろ)」
「よし、では観光にでかけるぞ」颯太君は張りきって飛び出していった。どうみてもライブの時より楽しそうなんだけど。
「ねぇ、颯太君。どこ行くの」とボクは聞いた。
「うむ、このあたりで一番大きな神社だ」
なかなかいいツアーガイドだと思ったのもつかの間、これが小姑のようにウルサイのだ。
「こら、アンナ。参道の真ん中を歩くんじゃない。そこは神様の道だ」と道の歩き方から、
「陽太、柄杓に直接口をつけるな。手に取って掬ってから口に運ぶんだ」と手水の使い方まで口うるさいことこの上ない。
嫁の粗探しをしている姑のような小言を聞きながらやっと賽銭箱の前まできた。
「では、簡単な説明をする」
「(何かがのり移ったみたいにイキイキしてるね)」
「(・・・・・兄貴は、昔から神社仏閣が好きだったのだ)」
(演歌好きで、神社仏閣好きなビジュアル系バンドのボーカルって他にいないよ?素直に演歌歌手でデビューすればよかったのに)」
「(・・・・・それでは女の子にモテん)」
「(その基準はどうしても譲れないんだね)」
「ソータ、これなんデスか」
「ん?鈴だが」
「鳴らしてもいいデスか」
「ああ、構わんぞ」
「ガラガラ」
「まず、この七色神社の建立は、今から約700年前」
「ガラガラガラガラ」
「主祭神は、国之常立神。まあ、地を神格化した神だ」
「ガラガラガラガラガラガラ」
「流れとしては熊野速玉大社の流れを引き・・・・・」
「ガラガラガラガラガラガラガラガラガラ」
「うるさいわ!鈴をシャウトさせるな。一回でいいんだ一回で」
よし、ではこれより参拝に移る。各人お賽銭の準備」どこの軍隊が参拝にきたのかと思うような一糸乱れぬ動きで、ボクたちはお賽銭を取り出して投げいれる準備をした。
「よし、投げろ」ボクたちは号令に従って賽銭箱にお賽銭を投げいれた。
「よし、二礼」颯太君の掛け声に従って二回礼をする。
「次、二拍手」同じく二つ柏手を打つ。
「最後に一礼」もう一度礼をする。
どうやら、これが正しい参拝の仕方らしい。
「アンナ、お賽銭いくら入れた?」颯太君が尋ねた。
「10円です」とアンナちゃんが答えた。すると颯太君はとても嬉しそうに
「ふふふ、罠にかかったな。10円は「とおえん」と言って縁が遠くなるのだ。俺とのことは諦めろ」と言った。
ハッキリ言ってとても大人気ない上に見苦しいことこの上ない。
ところがアンナちゃんは全く意に介した様子もなく
「大丈夫です。私日本の神様だけでなく、イエス様にも祈りましたカラ」と言った。
「お前、日本の神様にケンカ売ってるな」颯太君は呆れたように答えた。
「まあ、日本の神様も懐が広い。八百万もいるんだ今更一人や二人増えたからって誰も気がつかんだろう」
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