先頭を颯太君が意気揚々と歩いていた。アンナちゃんがその横をぬいぐるみを嬉しそうに眺めながらより従うように歩く。
ボクたち4人は2mほど離れてついて歩いた。
「しかし我が兄ながら単純な男だな」
「・・・・・あの小さなぬいぐるみ一つ取ったくらいで、本気でアンナに勝ったつもりなのか、あの男は」
「ふふふ、アンナちゃんが自分が取った景品を選んでくれたのが嬉しいんですよ、お兄さんは」
「そうかなあ、颯太君にそんなロマンチックな思考があるなんて思えないんだけど」
「あら愛ちゃんてば、颯太さんはロマンチストですよ。歌を聞けばわかります」
「由美ちゃんはそういうけどさ、ボクは未だにShuと颯太君が結びつかないんだよね」
「Shuのキャラは作っているかも知れないわね。でも、歌に表われる感情とか気持ちって作れないものなのよ、愛ちゃん」
「うーん、ボクには難しくてよくわからないや」
「簡単なことよ。音楽には人間性が現れる。愛ちゃんがShuの歌を聞いて感動したならば、颯太さんの人間性が良いってこと」
「でも、颯太君って凄く大人気ないよ」
「少年の心を持っているって言ってあげましょう、ふふふ」
「なんか綺麗にまとめてるけど、要するにガキってことか」
「どうでしょ、ふふふ」
「・・・・・否定はしないのだな」
「お前ら早く来い」と話題の主が旅館の玄関前で叫んでいた。
20分後、浴衣に着替えた一同の前に立ち、颯太はハートマン先任曹長のように注意事項を一同に伝達していた。
「では、これより本旅行の主目的である温泉に入る。入浴時間は40分。その後、食事を男部屋でとる。何か質問はあるか?」
アンナが手を挙げた。「アンナ言ってみろ」
「サー、混浴でありマスか?サー」
「うむ、良い質問だ。聞いて驚くなロシア娘。この宿の温泉は残念ながら混浴ではない、だが建物屋上の露天風呂だ。解放感を楽しめ」
「(おい、アンナちゃんは本当に普通の高校生なのか?スペツナズ高等学校とかじゃねえのか?質問の仕方が妙に手慣れてたぞ)」
「(・・・・・試召システムは民生技術だから軍が絡んでくることはないはず)」
「それでは諸君、40分後に会おう」そういうと男性陣は男湯へ、女性陣は女湯へと別れていった。
「うわー、由美ちゃん、アンナちゃん、早くおいでよ。結構広くて綺麗だよ」
「本当に広いわね。やっぱり別荘のものとは違うわ」
「こんなに広くて何人はいれるんデショう」
「アンナちゃん、温泉入るの初めてだよね。こうしてみんなで一緒のお風呂に入るのって平気なの?外人さんは結構嫌がるって聞いたけど」
「ハイ、いろんなマンガやアニメなどで勉強しましたから大丈夫デス」
と言いながら3人はお湯に浸かった。
「かぁー、日本人はやっぱり温泉だねぇ」
「やっぱり大きなお風呂は気持ちいいですね」
「ところで愛子」
「ん、何?」
「ソータたちは、どこから覗いてきマスか?」
「えっ、なにそれ」
「私が読んだマンガやアニメでは、男の子と女の子が一緒に温泉に入ると、
必ず男の子が覗こうと努力してまシタ、日本の伝統文化デスね」
女湯と男湯を隔てているのは高さ2m30cm程度の竹塀で、上の方は空いていた。だから大声をだせばお互いに筒抜けである。
「おい、何か言われているぞ」
「・・・・・女湯覗きを日本の伝統文化と思われても困るのだが」
「あいつは一体どんな偏ったマンガやアニメを見てきたんだ・・・・・それよりもだ」
颯太はぐるりと後ろを振り向いて言った。
「なんでお前たちがここにいるんだ?」
視線の先にはバンドメンバーの4人が悪ぶれもせずに立っていた。
「やあ、偶然だね」とAtsushiが言う。
「爽やかな風に誘われて温泉にでも入りたくなってな」とGuu
「徒然なるままに車を走らせて」とGon
「当てもなく入った旅館が君たちと一緒だったとは運命だねぇ」とYouが締めた。
颯太はこめかみを揉みながら「小芝居はいいから、なんでここを知った」と言った。
「「「「そりゃ、俺たちアンナちゃんのメル友だもん」」」」
「何だそりゃ、俺でさえアンナのメルアドなぞ知らんのに」
「そりゃお前が機械音痴で、電話だけかけられりゃいいと、らくらくフォンを使っているからだろう」
「個人的な事情はいい。それでアンナは何と言っていたんだ」
「それが、「明日、ソータと温泉に行きマス」とだけだ。どこの温泉とも、何時出発とも書かれちゃいねぇ。
お蔭で俺たちは朝の4時からお前の家を見張るハメになっちまった」
「あっ、すると東京からずっと俺の車の後ろを走ってた白い車は兄さん達だったんですか?」陽太が言った。
「おうよ。見失わないようにずっと真後ろにつけてたんだが意外にバレねえもんだな」
「モロバレしてましたよ。ただ、そんなアホな理由でつけてくる奴がいるとは思わなかったから偶然と思っただけで」
「ふっ、常識は常に疑ってかかるべきだな」