これが土屋家の日常   作:らじさ

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第12話

「キリがないからさっさと始めるぞ」颯太が言った。

「・・・・・なんで俺たちまで枕投げなんかしなきゃならんのだ」

「それより康太、愛ちゃん枕投げのルール知ってるのか、今にも直接飛びかからんばかりだぞ」

乗り気でない兄弟達に対して、女性陣はやる気満々だった。

 

「あの、由美ちゃん。気乗りしないなら無理に参加しなくていいんだよ」

「あら、大丈夫よ。私、ずっと女子高だったからこういうのに憧れてたの、ふふふ」

「ルールを説明する。枕が顔面直撃したらアウトだ。よし、いくぞ。よーい、開・・・」

颯太が宣言をした瞬間。

 

「・・・始」、「バン」、「バン」、「バン」、「バン」・・・・・開始1秒後に4馬鹿の顔面に枕が直撃した。

「えっ」と驚いた颯太が一度仲間を見て振り返った瞬間に「バン、バン、バン、バン」と4つの枕が顔面を襲った。

 

「あら、これでいいのかしら」

「勝ったんデスか」

「えっ、もう終わっちゃったの?ボク、何もしてないんだけど」

 

「一体何が起こったんだ」とAtsushiが言った。

「枕投げなんて、ほのぼのしたもんじゃなかったぞ」とGuuが答えた。

「殺気すら感じられたんだが」とGonがツブやいた。

「この衝撃、どっかで味わったことがある気がするな」Youが考え込む。

 

「今のは、由美ちゃんとアンナか。何だったんだ?」

「古武術の投擲術です」と由美子が答えた。

「パパから護身用に教わったCQCデス」とアンナ。

「またそれか。何だCQCってのは?」

「Close Quarters Combat デス」

「なるほど強いわけだ。で、陽太Close Quarters Combatってのは何だ?」

「わかってたんじゃないのか。日本語じゃ「近接戦闘術」だな」

 

「お前の親父はお前を何者にしたいんだ。女子高生の護身に狙撃や戦闘術が必要なくらいにロシアってのは治安が悪いのか?」

「そんなコトないデス。パパはちょっと心配性で親バカなだけデス」

「そういうのは、親バカじゃなくてバカ親って言うんだよ」

「優しいパパデス。戦車の運転とかも教えてくれまシタ」

「そこまでやっても自分は学校の教師だと言い張るとは、どれだけ面の皮が厚い親父なんだ」

 

「でも厳しいところもありマス」

「そうなのか?」

「ハイ、私がどんなにお願いシテも「危ないから」といって、戦車砲は撃たせてくれませんでシタ」

「それはもう「危ないから」なんてレベルの話じゃねぇんだよ。なんだその「クリスマスプレゼントにパパにゲーム機をおねだりしたら、ダメって言われちゃった、テヘ」みたいなノリは。民間人の少女を戦車に乗せた上に戦車砲まで撃たせていたらお前の親父だけじゃなくて、国防大臣の首くらいは飛んでたぞ」

「えっ、ソータ。スミノフおじさん知ってるんデスか?」

「スミノ、なんだって?」

「国防大臣のスミノフおじさんは、パパの親友デス。3人でよく戦車に乗りまシタ」

「・・・・・」

「おじさんは「撃っちゃえ撃っちゃえ」って言ってまシタが、パパがダメって」

「俺は、ソ連が崩壊した理由がよくわかったよ」

 

「おい、なんか凄いこと言ってるぞ」

「プロが2人もいるじゃねえか」

「なんつーか、米軍に相手に鍬で突撃かけてるような気がしてきたぞ」

「かといって俺たちから勝負を挑んでおいてこのまま引き下がるのもなあ」

 

「おい、お前ら。まだやるつもりか?」

「うるせ~、今作戦会議中だ、待ってろ」

「こうなったら敵戦線の一番弱いところを狙って一矢報いよう」

「どこだそりゃ」

「愛ちゃんだ」

「Atsushi、丸聞こえなんだけど。悪巧みするんならもっと小声でしなよ」怒りを押し殺した声で少女が言った。

 

やれやれといった調子で颯太が掛け声をかけた。

「じゃ、いくぞ。用意」

4馬鹿が露骨に愛子に狙いを定めた。

「アイコ、大丈夫。私とユミコで倒すカラ」

「ありがとう、アンナちゃん。だけどAtsushiだけは、ボクに殺らせて」

 

「開始」「バス」、「バス」、「バス」、「バス」、「バス、バス、バス、バス」・・・・「ポス」

 

戦況は1回目とほとんど同じ経過をたどった。違っていたのは、由美子とアンナの投げた枕の威力が増しており、全員倒されたことと倒れながらAtsushiが苦し紛れに放った枕が偶然にも愛子に当たったことだけだった。

 

「いやぁ、参った。さあ、お開きにしよう」と言いながら立ち上がった時、「うぐぐ」という声が聞こえた。

そちらの方をみると愛子がAtsushiの上に馬乗りになって、枕でボコボコに殴りつけていた。

 

「あっ愛ちゃん。それじゃ枕投げじゃなくて、枕殴りだ」

「止めないで颯太君。この男とはいつか決着をつけないといけないと思ってたの」

 

「うーん、見事なマウントポジションだな」Guuが冷静に評価する。

「グレイシーにも勝てるな」Youも同意する。

「攻撃もスナップが効いていて効果的だ」Gonが感嘆した。

 

「いや、兄さんたち。冷静に評価してないで止めた方がいいんじゃないですか?」と陽太が声をかけた。

「あのな、陽太。昔、田舎のじっちゃんに言われたんだ。動物が飯食っている時は、危ないから手を出すなって」とYouが言った。

「それにヘタに止めると愛ちゃんの攻撃がこっちにくる」とGuu。

「うむ、被害を全体に広げるよりは、局所に集中させた方が結果的に被害は少なくなる」Gonが提案した。

「いや、なんかとても良いこと言ってるようですけど、要するに篤兄さんをタテにして自分たちは逃げるって言ってるだけですよね」

 

「なんかこのグループ、来年まで持たないんじゃないかしら」と由美子が不安げに言った。

「西斗の拳のモヒカンみたいな人たちデスね」アンナはブレない。

「・・・・・心配いらない。こいつらは昔からずっとこれでやってきた」康太はため息をついた。

 

 

 


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