天才と魔法科 ―相性悪そうな組み合わせほど実はベストマッチが多い件―   作:ジューク

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どうも皆さん、ジュークです。
今回のタイトルはドライブ風にしました。
今回から横浜騒乱編、と言いたいんですが、今回は生徒会選挙回です。
どーなるのかは、本編で。
ではでは、どうぞ!!


第20話 『なぜ彼女は生徒会長を断るのか』

 夏休みが明けても、この生徒会室にはいくつかの問題が残っている。それの内の一つが、『生徒会選挙』である。しかし、この第一高校の生徒会選挙は基本的には形だけのようなものだ。その中身は、入試首席の生徒を前生徒会長となる人物が推薦する形式を取っているためである。

 

 

 治外法権ではないか、とは思うが、これにもれっきとした理由が存在する。というのも、よく考えてほしい。

 

 

 魔法科高校は全国に九つ。そしてそれぞれの高校から、毎年一人しか輩出されない生徒会長の肩書きを持っていた生徒―――その肩書きは非公式ながら軍の高階級にも匹敵するとか。そんな肩書きを狙って、四年ほど前には負傷者が出るような大騒ぎになり、それ以降、生徒会長が次の生徒会長を推薦するというスタンスになったそうだ。

 

 

「………いや、どこの紛争地帯?」

 

「実際にあったからな。だからこうして中条先輩の説得に俺や深雪だけではなくお前も駆り出されたんだ」

 

「…まぁたしかに、昨日言われた通り餌も持ってきたけどさ………ここまでする?普通」

 

「普通はないだろうが、生憎今回の件で普通は通用しないから安心しろ」

 

「………あ、そ…」

 

 

 次の生徒会長候補であるが、頑なにそれを拒否している梓の教室までの道のりで、龍兎はそんな物騒な話を達也としながら深雪を連れて歩いていた。

 

 

 

 

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

 

 

 

 そんなこんなで、達也、龍兎、深雪の三人は現在カフェで梓を説得していた。

 

 

「中条先輩、生徒会長選に立候補してください」 

 

「わ、私には無理です……私なんかよりもっと相応しい人が居ます」 

 

「そうですか」

 

 

 達也のため息に耐えられず、梓は視線をさまよわせる。そして再び深雪とバッチリ目が合ってしまった。その感情の読めないアルカイックなスマイルに飲み込まれる錯覚に陥り、彼女は無意識に視線をズラした。龍兎の方にだが。

 

 

「なにか?」 

 

「………あ、あうぅ……」

 

 

 何の混じり気も無い無機質な視線を向けられ、梓が視線を下にずらしたタイミングで、達也のため息が聞こえてきた。

 

 

「良いんですか? 五年前の悲劇を繰り返す事になっても」

 

「ッ!?」

 

「(うわ~………)」 

 

「当時の映像は残ってるんでしたよね?魔法による大きな負傷……出来れば見たくない光景でしょうね」

 

 

 梓は生徒会書記として勿論その時の映像を見ている。繊細な彼女はその映像を見て吐きそうになったのを思い出し、もし自分が立候補しなかったらその光景を映像では無く生で見る事になるのかもしれないといわれていると理解し、明らかに動揺した。龍兎はその様子を見てドン引きしている。

 

 

 

「わ、私にどうしろと言うんですか」

 

「中条先輩が立候補すれば良いんですよ。大丈夫です、先輩なら出来ます」

 

「少なくとも、俺たちはそう思ってますよ」 

 

 

 達也が脅し、深雪と龍兎が手を差し出す。実にやり手な方法ではあるが、彼女にはとても効果的だった。

 

 

「で、でも私じゃなくても他の人を立候補させれば……」

 

「中条先輩なら七草会長のやり方を理解してますし、一年間会長の下で勉強してたのは中条先輩と服部先輩です。そして服部先輩は時期会頭に内定してますし、やはり中条先輩が立候補するのが一番なんですよ」

 

 

 達也が梓の逃げ道を一つずつ潰しにかかる。そして彼女が次の言い訳を考えてる間に、達也は自分が彼女の説得に用意した最大の飴を取り出す事にした。

 

 

「そういえば、再来月発売のFLTの飛行デバイスが、モニター用に二つ手に入りまして」

 

「えっ!それって飛行魔法を最も効率的に使えるという、あのシルバーの最新モデルですよね!?」

 

 

 先ほどまで沈んで、活力がなかった梓の顔に唐突なエネルギーが入り込み、彼女は顔を赤くしながら勢いよく上げた。

 

 

「まぁ、モニター用で非売品ですのでシリアルナンバーはありませんが、製品版と変わらぬ効果を発揮してくれると思いますよ」

 

 

 梓は欲しいという感情を盛大に晒していたが、その後の言葉は予想外だった。

 

 

「そ、それ、でも………無理、です………」

 

「「!?」」

 

 

 まさかの拒否。二人は珍しく目を見開くが、たった一人例外がいた。

 

 

「そーですか。じゃ、これも(・・・)要らないんですね」

 

 

 掌で何かを器用にクルクルといじりながら龍兎がわざとらしく言った。達也と深雪、梓はそちらを向く。そして梓が目にしたのは、更なる飴だった。

 

 

「そ、それは!!まさか――」

 

「そう。九校戦の第一高校優勝記念でRインテリジェンスが開く公式懸賞の一等賞品。世界にたった十個だけの激レアアイテム、『ゴールデンファルコンプログライズキー』ですよ~」

 

「「「!!!」」」

 

 

 三人は普段からニュースを見ているが、これは昨日発表された話だ。Rインテリジェンス社長の機丈龍誠が息子である龍兎が通う一高の九校戦優勝を記念して、大々的に開催する予定の懸賞。今龍兎が持っているプログライズキー、従来の桜色とは一線を画す黄金色に輝くそのキーこそ、一等賞品である『ゴールデンファルコンプログライズキー』なのだ。変身時の外装パーツのほぼすべてが純金製のそれの価値は一等地に建てられた豪邸丸ごとに匹敵するとすら言われている。しかもそれはあくまで純粋な価値であり、希少性などの付加価値を考えると、卒倒するような値段に跳ね上がる。しかし、達也たちの情報とは少し齟齬があった。

 

 

「龍兎。そのプログライズキーは『九個』だったはずだが、俺の勘違いか?」

 

 

 そう。Rインテリジェンスの発表では、懸賞に出されるプログライズキーは九つ。今龍兎が持っている物と合わせると一つ多くなるのだ。

 

 

「そりゃあ、懸賞に出すのはNo.001~009までの九つだよ?た、だ、し。このプログライズキーは幻のNo.000。本来この世に存在しないはずの激レア中の激レア。世界にたった一つだけの超激レアなんだよね~」

 

「せ、世界に一つだけ!?」

 

「はい。達也の飛行デバイス同様、会長就任のお祝いにでも、と思っていたんですが………辞退されるのなら仕方ないですね。誰か他の人にでも―――」

 

 

「やりますっ!!相手が怪物だろうと誰だろうと会長の座は1ミリも渡しません!!」

 

「ね?達也。こういう飴は最大まで引き寄せてからだよ。空腹は最大のスパイス、ってね」

 

「なるほど、参考になる」

 

 

 まぁ、彼女以外に立候補者はいないのだがそこは言わないお約束だと理解している三人だった。

 

 

 

 

      ⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪

 

 

 

 

 

 こうして数日後、生徒会選挙当日がやってきた。一学期に真由美が言っていたように、反発がほとんど押し退けられた生徒会の二科生禁止制度の撤廃が可決され、次に梓の承認演説が始まった。しかし、これもまたそう簡単にはいかないようだ。

 

 

「梓ちゃんはワイルドな年下が好みなの~?」

 

「結局は能力で決めるんだろ~?」

 

 

 くだらない野次が客席から飛んだ。おそらくは梓なら反撃しないだろうという考えと、真由美の演説での不完全燃焼からきたものだろう。だが、彼らは誤算していた。

 

 

「誰だ梓ちゃんを侮辱したのは!?」

 

「引きずり出せ!!」

 

 

 このように、一部の梓の熱狂的なファンが犯人を探そうと躍起になり、場は騒がしくなった。とその時、災害が起こった。

 

 

「静まりなさい!!」

 

「「「「「!!??」」」」」

 

 

 その場の全員が壇上を見ると、深雪から吹雪のような想子が吹き出ていた。その表情は怒りを称えている。かなりの出力のようで、いつも深雪の周りを飛んでいるフリーズドラゴンも近づけずにいる。

 

 

「達也!これ!!」

 

「!」

 

 

 龍兎は達也に赤と灰色、二本のフルボトルを投げ、達也はそれをキャッチする。そして龍兎も、赤いプログライズキーを取り出した。

 

 

「取り敢えず止めるよ。このままじゃ講堂が氷漬けになっちゃうし!」

 

 

【ZERO-ONE DRIVER!!】

 

【FIRE!!】

 

AUTHORISE(認証完了)

 

 

「扉を開けて!!」

 

 

 龍兎がプログライズキーを認証させてそう叫び、風紀委員たちは反射的に扉を全開にする。と、空から赤い虎型のライダモデルが着地し、大きく咆哮を上げた。

《color:#ff2727》フェニックス

【フェニックス!】

【ロボット!】

【BESTMATCH!!】

 

【トンカンテンカントンカンテンカン!!】

 

 

【ARE YOU READY!?】

 

 

 達也もフェニックスフルボトルロボットフルボトルをビルドドライバーに装填し、ボルテックレバーを回転させスナップライドビルダーを展開する。そして龍兎もプログライズキーを構え、二人同時に宣言した。

 

 

「変身」「変身!!」

 

【不死身の兵器!

フェニックスロボ!

イエーイ…!】

 

 

【PROG RISE!!】

 

 

GIGANT FLAIR!!(巨大な炎!!)

 

【フレイミングタイガー!】

 

 

Explosive power of one hundred bombs.(爆弾100個分の爆発力。)

 

 

 達也の言葉によりスナップライドビルダーが重なってスーツが形成された。左腕にはいかにも武骨なアーム――デモリッションワンが取り付けられ、右腕は炎のようなユニット――フレイムリヴァイバーで覆われている。そして複眼の形は炎を纏った鳥とロボットアーム。これが【仮面ライダービルド:フェニックスロボフォーム】である。

 

 そして龍兎がプログライズキー――フレイミングタイガープログライズキーを装填すると、ライダモデルが器用に階段をジャンプしながら龍兎のそばに着地する。そして周りを一周し、龍兎の真後ろに来たタイミングで分解され、龍兎を覆うアーマーとなり、龍兎は【仮面ライダーゼロワン:フレイミングタイガー】に変身した。

 

 

「行くよ!!」

 

「ああ」

 

 

【トンカンテンカントンカンテンカン!!】

 

【フレイミングインパクト!】

 

【READY・GO!!!】

 

 

 

 

 

                 

                 

                 

                 

                 

  

                    

 

 

【VORTEC FINISH!!イエーイ!】

 

 

 

 龍兎が両手をクロスさせて放った炎の斬撃が客席に迫る吹雪を相殺し、そこから達也の放った想子を大量に含んだ炎撃が深雪の周りを円を描くように包み込む。

 

 

 その炎が晴れると、驚きつつも落ち着きを取り戻した深雪がいた。周りを飛んでいたフリーズドラゴンがその左肩にちょこんと乗り、心配そうに深雪を見詰めている。

 

 

「………お騒がせしました。ですが、これはアイドルのライブでもなければふざけていい場所でもありません。野次を飛ばしたりするのは控えて下さい」

 

 

 その深雪の一言と、無言で客席を見る二人の戦士から放たれる圧で会場の熱はすっかり収まり、投票は手早く終わった。

 

 

 尚、票の内訳は深雪150票、龍兎132票、達也124票、梓が107票で、深雪の『スノークイーン深雪様』や『鉄火の戦士司波達也』、『仮面戦士龍兎様』といったあからさまにふざけた票のせいで深雪が吹雪どころか一高に氷河期を起こすレベルで怒りかけていた、という事実を補足しておく。

 

 

 

 

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