逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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時、来たれり

「ねぇ、スズカちゃん」

 

「なに、マヤちゃん」

 

「スズカちゃん、トレーナーちゃんのことをどう思ってるの?」

 

 パドックで並んで観客に手を振りながら、サイレンススズカとマヤノトップガンは話す。

パドックには聴こえないように、小さな声で。

サイレンススズカは少しだけ考えてから、短な言葉でハッキリ言う。

 

「……私を信じてくれた人、かしら」

 

「……マヤね、ここでスズカちゃんに勝ったらトレーナーちゃんにお願いするの」

 

「……なにを?」

 

「……マヤが誰よりも特別なウマ娘になったら、トレーナーちゃんと一緒に引退しよって」

 

「……それ、弥生賞と関係ないことじゃないかしら?」

 

「弥生賞は関係ないよ。スズカちゃんに関係あるの」

 

「私に?」

 

「トレーナーちゃんは、スズカちゃんを特別なウマ娘だと思ってるから。マヤが特別なウマ娘だって思えるように、スズカちゃんに勝たないと、マヤはたぶん特別なウマ娘になれないから」

 

「……そう」

 

 パドックをぐるりと回り終えて、最後のところでサイレンススズカはマヤノトップガンに振り返る。

マヤノトップガンは、もう後には戻れない。

勝てるかどうかは、マヤノトップガン自身でも五分五分のつもり。

勝たなきゃいけない、けど。

マヤノトップガンの予想通りというべきか、予想以上というべきか、わかりやすくサイレンススズカは反応する。

 

「……負けないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ……ゾクッときたわぁ……」

 

 ナイスネイチャはサイレンススズカとマヤノトップガンが並んで回るそこから少し離れていた。

それでも、二人のやり取りは聴こえてきた。

マヤノは何をやってくれてんのよ……

ナイスネイチャは内心でぼやいた。

サイレンススズカが一番怖いのは、フラストレーションが溜まりきって爆発した時。

具体的には、自分以外のペースで半端に焦らされた時。

メイクデビューの参考にしてはいけない大逃げをぶちかましたのをたまたま実際に見たからわかる。

自分のペースで走って勝つことに飢えているのだ。

アタシ達は勝つためにいろんな走りを試しているのに、彼女は自分の走りを逃げに定めてそれで勝ちに行ってる。

スタート地点もアプローチも違う。

このトレセン学園が優秀なウマ娘を選り抜きで集めた蠱毒の壺なのは周知の通り。

その中で生き残るために、自分がどう走れば勝てるかを切磋琢磨しているのがほとんどだ。

その中で、最初から逃げに定めて力業で勝ちに行けるのなんて、もはや慮外の化生だ。

みんながそれをわかっている。

サウジでサイレンススズカを2人が封じ込めにかかったのも、当たり前のこと。

アレルギー反応みたいなものだ。

逃げは大成しない、というのは簡単なことだ。

レースの駆け引きをそもそも壊しかねない純粋な力勝負である本物の大逃げを、本質的に恐れているのだ。

だから大逃げを仕掛けようとするウマ娘はアタシ達みたいなモブが、レースを守るために本能的に死ぬ気で潰しにかかる。

副会長は自分が優秀だから気付かなかったんだと思うけど、アタシ達みたいなフツーのウマ娘からしたら、サイレンススズカみたいな強固な逃げウマは災害みたいなものだ。

崩しようがない自分勝手な走りでタイムアタックを仕掛けられ、こちらはいつスパートを仕掛けるか悩む間にマイペースに突っ走られる。

こちらが死ぬ気でアタマを押さえ付けて、ギリギリまで脚を削りにかかっても、それで潰し損ねたらどうなるかは、副会長が差し返しを食らった時点で察して余りある。

普通に走っていても付け入る隙が少ないのに、半端にキレさせたらとんでもない末脚でちぎられるとか、本当にズル過ぎる。

わざわざここに挑んできたトウカイテイオーは、どうやって勝つつもりで来たんだか……

 

「おーい、ねーちゃーん!ナイスねーちゃーん!」

 

「はいはーい、ナイスネイチャですよー。ナイスねーちゃんじゃないですよー」

 

 商店街からまた中山まで来てくれたおっちゃん達に手を振る。

府中で走る時に来てくれるだけでもありがたいのに、このプレッシャーにはやっぱ慣れないや。

まぁでも、マーベラスサンデーがどこからか拾ってきたやたらと重くてでかい金ぴかたい焼きを引き取ってもらった恩も返せてないし、ここら辺でジャイアントキリングのひとつくらい、やったりますかー!

 

「そこで観ててね。派手にかましちゃうから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トウカイテイオー……成績を見る限り……いい勝負をしそうですが……」

 

「テイオーは才能がある。何よりポジティブだ。ホープフルステークスのあとにすぐに持ち直して若駒ステークスを勝った。レートにしても今回出なくても皐月賞に直行出来たくらいだ」

 

「すぐに気持ちを切り替えていけるのは……いいですね……あなたが見習うべき美点です……」

 

「貴様……ッ」

 

 ホオヅキとエアグルーヴは、パドックを回り終えてコースへと向かい出走準備を整えるトウカイテイオー達の様子を観客席から見守る。

どうしてホオヅキがここにいるのかと言えば、エアグルーヴがほぼ強引な賭けと引き換えにホオヅキにチューリップ賞の出走申請を出させようとした時のことだ。

 

「おや、君がエアグルーヴのトレーナーになるのかな?」

 

「彼女のチューリップ賞……そこでの走り次第……ですかね……」

 

「賭けをしているんだ。なんの用だ」

 

 ホオヅキとエアグルーヴのところに顔を出してきたのは、ミスタークラウンと呼ばれてるシンボリルドルフのトレーナーだ。

三冠ウマ娘を2人出した、トレーナーとしては過去に並ぶ者がいないだろう男。

ついでに、今となってはエアグルーヴの天敵でもある。

 

「ふむ……よし、君の名前は?」

 

「……ホオヅキ、です……」

 

「ホオヅキトレーナー、君に頼みたいことがある」

 

「……なんですか?」

 

「いや、なに。大したことではない。トウカイテイオー、彼女の弥生賞出走の最終受付を君に頼みたい」

 

「……なぜ、私が……?」

 

「いや、困ったことに私もトレーナーではあるが、それ以外のこともしなければならない立場でね。弥生賞の日には日本にいないのだ。せっかくだから、君に頼もうと思うのだが……どうだろうか?」

 

「……私は新人トレーナーです……あなたから優秀なウマ娘の身を預かれるような者では……」

 

「いやなに、君は彼女の最終受付だけしてくれたらいい。他のことはテイオー自身でやるから、君がいないと困るのは最終受付だけだ。頼まれてはくれないか?」

 

「……それで、いいなら……」

 

 ホオヅキはミスタークラウンに押し切られ、ついでにおみやげも約束されたので、トウカイテイオーの最終受付を済ませたあとはもう、義理はないのだが、中山から府中までトウカイテイオーを連れ帰るくらいはしておくべきだろう、とレースを観ることにしたのだ。

ホープフルステークスではマヤノトップガンに見事に差された上に、今回はサイレンススズカもいる。

今回のレースは間違いなく大荒れになるだろう。

トウカイテイオーがどう挑むのか、観ておいて損はないだろう。

エアグルーヴをオークスで勝たせるためには、サイレンススズカを無視出来ない。




はい、それでは今回もいつものやつやりますよー!
下のアンケートからドウゾ。今回は応援バ券になりますのでお気楽にドウゾ!!!(一回ミスって貼り直した)

弥生賞の投票はこちら!今回は応援バ券になります!!!

  • マヤノトップガン
  • サイレンススズカ
  • ナイスネイチャ
  • トウカイテイオー
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