逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー 作:エアジャガーる
皐月賞への大本命であるステップレース。
皐月賞と同じコースを走る点では、桜花賞でのチューリップ賞と同じ立ち位置とも言える重要なレース。
ここで好走するようなら皐月賞も狙えるだろう。
ホープフルステークスも同じコースと距離なので、ホープフルステークスから弥生賞でその成長具合を御披露目することも出来るが、ここで躓くと(あ、こいつ案外大したことなさそう……)と肩透かしになりがち。
つまりホープフルステークスを好走したのにわざわざこんなとこに乗り込んできたマヤちゃんとテイオーは何を考えてるんだろうね?
ちなみに現実では“弥生賞ディープインパクト記念(皐月賞トライアル)”というタイトルになっている。
……なにこのRiftwing Cloudskateの日本語版を見た時のような気分になるタイトル。
『今期のクラシック路線を占うトライアルレース、弥生賞。空は曇り、冬の肌寒さがぶり返しましたが、芝は良バ場での発表です。三番人気は朝日杯優勝で既に重賞2つを手にしているサイレンススズカ、中距離重賞はこれが初出走となります。二番人気はトウカイテイオー、ホープフルステークス二位の後に若駒ステークスで勝利しており実力は間違いありません。一番人気は重賞どころかメイクデビューから公式戦を走ったのが一度きり、その一度はここ中山でのジュニアクラスGⅠ、ホープフルステークス!そこでの激戦を制しての見事GⅠウマ娘となったマヤノトップガン!未だに底知れぬ力を隠している注目のウマ娘です!』
『ホープフルステークスもそうでしたが、メイクデビューでも最後の最後に仕掛けての勝利と余裕を持ったレース展開で勝っていますからね。マヤノトップガンのレースの才は疑いようがありませんよ。今回はどのように鮮やかに勝ち星を取りに行くのか、要注目です』
要注目というのは裏を返せば、それだけ周りから警戒されるということ。
今までは言ってしまえば『こんな不真面目で遊んでいるようなウマ娘が勝てるほど重賞は甘くない』と見放されていたのが『未だに遊びがある底知れない要注意ウマ娘』と警戒されるようになったということ。
サイレンススズカとマヤノトップガンのどちらが警戒されているかは、おそらく出走前の人気投票の結果通りだろう。
だからこそ、他のウマ娘は悩まされる。
サイレンススズカを止めにかかるか、マヤノトップガンをマークするか。
「しかし、そのバケツ……食いきれるのか?」
ハルヤマはこのレースを作ったキーパーソンであるフユミに、後ろの席から話し掛ける。
フユミは今日は膝にバケツポップコーンを抱えている。
とりあえずこの男は膝に何か載せてないと落ち着かないのか?
「僕だけだと無理だな。そもそも僕が抱えているだけで、これはタイキが暇潰しに食べるのにと思って買った」
「だったらタイキに持たせたらいいじゃないか」
「僕も少しは食べるからな。君達も摘まむか?」
「んじゃ、貰う」
「あ、ならアタシも」
「あっ!俺も俺も!」
ハルヤマの隣のダイワスカーレットと、ウオッカもポップコーンに反応する。
フユミが差し出してきたポップコーンのバケツからそれぞれが欲しい分を取ったが、それでもまぁまぁな量が残っている。
「しかし、どっちが勝つと思ってんだ?」
「スズカ」
「断言するにしてもはえーよ。もうちょっとは悩むフリくらいはしろよ」
「僕が断言出来なくてどうする。僕は、あの2人の担当だ」
フユミはそれだけ言ったあと、ポップコーンを三粒ほど摘まんで口に放り込む。
このペースで食っていたら、1日ずっとポップコーン漬けだろうな。
たった三粒のポップコーンをムシャムシャと食って飲み込んだあと、フユミはダイワスカーレットのほうをチラリと見る。
「ダイワスカーレット、先に言っておく。トリプルティアラを獲りに行くってのは、今のサイレンススズカより速く走るってことだ。よく見ておきなさい」
「言われなくても、そのつもりよ!」
『各ウマ娘、ゲートイン完了。出走の準備が整いました……スタートです!』
ガコンッとゲートが開ききった時、2人の影が先陣を切った。
一人は5番から内に向かうサイレンススズカ、そしてその内からもう一人。
『好スタートを切って飛び出したのはサイレンススズカとマヤノトップガン!マヤノトップガン!?マヤノトップガンだ!マヤノトップガンがサイレンススズカに次いで飛び出した!?』
内へとラインを取ったサイレンススズカと交差して外側をまわるようにマヤノトップガンが被さり並んで走る。
更に最初のストレート登り坂でマヤノトップガンはサイレンススズカの前に出ていく。
観客席はどよめきを隠せない。
「マヤノトップガンがサイレンススズカに強引に絡み付いてハナを取った!?」
「マヤノトップガンって、いつもはもっと後ろから突然差しに来る戦法で走ってなかったか?」
「オイオイ、のっけから見せつけてくるじゃねぇか!」
サイレンススズカのアタマを抑えて前を走るマヤノトップガンに観客席がどよめき盛り上がる中、フユミは噛んでいたポップコーンを飲み込んで溜め息混じりに呟く。
「やっぱり、か……」
「やっぱり?どういうことだ?」
フユミの呟きに、ハルヤマは反応する。
フユミは胡散臭いが、レース展開そのものはしっかりと観ている。
「マヤは、スズカに真っ向勝負を仕掛けた。アタマを抑えてはいるが、ペースは落としていないのがその証拠だ」
「なっ……スズカ相手に最初から競り合いに行ったってのかよ……なんでそんな」
「理屈は簡単だ。スズカにスタートの立ち上がりで勝ってあとは2000mをスズカのタイムより速く走れば勝ち。ある意味、一番シンプルで全てが分かりやすい作戦だ」
ポップコーンを数個摘まんで口に放り込むフユミの隣で、タイキシャトルは「おー、くれいじー……」と感嘆を漏らしながら、バケツに手を突っ込んで鷲掴みにしたポップコーンを口にまるごと放り込んでムシャムシャと食べる。
さすがにマヤノトップガンの走りから、どこか狂気を感じる。
「マヤノがスズカ先輩より速かったことって?」
「2400辺りを越すとマヤが勝ち始めるが、もともとマヤはステイヤー寄りの脚だ。中距離の高速展開は本命じゃない」
「なら今、マヤノがアタマを取ったのは」
「あそこにいるのはマヤとスズカじゃないってことだ」
登り坂から始まるコーナーへと、マヤノトップガンが先頭で突入していく。
マヤノトップガンとサイレンススズカはまったく同じラインで完全に追走して内ラチを攻めていく。
「マヤノとスズカ先輩じゃないって、どういうこと……ですか?」
ダイワスカーレットの言葉に、フユミはポップコーンバケツを差し出しながら答える。
「あそこにいるのは、マヤノトップガンの見ているサイレンススズカと、サイレンススズカ本人だ」
今回は応援バ券なので二着以内ならアタリですよー!
投票締め切りは6日の朝5時の予定です!!!
弥生賞の投票はこちら!今回は応援バ券になります!!!
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マヤノトップガン
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サイレンススズカ
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ナイスネイチャ
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トウカイテイオー