逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー 作:エアジャガーる
『マヤノトップガンとサイレンススズカ、この2人が開幕から飛び出した!その4バ身後ろに集団が続く。3番手はネクロポーテンス、その後ろアンセストリコール、その外まわってストリームシェイプ、内めを突いてドクターオーキド、続いてアストラルリーフ、その外をまわるのはマサキテレポーター、内に並んでバードマンソウル、その後ろトウカイテイオーはここにいる、並んで外グリーディーポット、後ろにナイスネイチャ、続いてタイムスパイラル、内ライブラリーアレク、後ろに続いてトレジャークルーズ、最後尾に付けたシュートオブスノウ。既に先頭マヤノトップガンとサイレンススズカは第2コーナーを抜ける!』
参っちゃうなぁ。
ナイスネイチャは後続の集団に身を置きながら先頭で飛ばす2人を見る。
なんてことよ。
サイレンススズカが2人いるなんて聞いてないわよ。
本当に同時に出走したのかも疑わしくなる。
完全な計画倒れじゃないか、これでは。
マヤノトップガンはきっと、サイレンススズカを最高のタイミングで差しにかかる。
そこに被せて大外からまとめて差しに行く。
このナイスネイチャのプランは、そもそもの基本方針が根幹からへし折られた。
第2プランのトウカイテイオーへのマークに切り換えていくつもりだったが、トウカイテイオーは普段よりやや後ろ……
もっと言えば、いつもより遅れ気味かもしれない。
トウカイテイオーもアテに出来ない。
焦るなぁ、これは。
この展開がここまで進んだ時点で、大逃げをかます2人を今更どうこうしようもない。
サイレンススズカをマークしに行こうとした3人はマヤノトップガンとサイレンススズカのラインがクロスしたところに割って入れず振り切られた。
マヤノトップガンが、サイレンススズカへのマークをカットした?
意味がわからない。
このレースをサイレンススズカに好き放題走らせたらサイレンススズカが勝つ。
そんなことは、マヤノトップガンが一番わかってるハズじゃない。
まさか、マヤノトップガンはサイレンススズカと一騎討ちをするつもり?
ふざけてる。
重賞を私闘の場にするなんて……なんてワガママ。
そんなふざけたワガママ……
「許せる、もんか」
あの2人をよく見ろ。
あの2人の大逃げは、お互いを潰し合いにかかってるのか?
マヤノトップガンは何を思って、何を仕掛けている?
サイレンススズカは今、マヤノトップガンをどう思っている?
遠い、遠すぎて読めない。
遠巻きからじゃ、なにもわからない。
アタシはこのまま傍観者じゃ、いられない!
「……あれが、サイレンススズカ……厄介ですね……」
厄介で済ますような次元にいない。
エアグルーヴが一言、ホオヅキに言おうと思ったところで、ホオヅキはエアグルーヴのほうを向く。
「……気付きませんでしたか……?今の……1コーナーから2コーナー……特に2コーナーの下り坂です……」
「気付くって、何をだ」
「1コーナーは登りが続いていましたが……2コーナーは下り坂……サイレンススズカはそこを……流しながら加速しました……マヤノトップガンの尻尾が掠めるほどまで……脚をまるで使わずに距離を詰めたんです……」
ホオヅキが言ったことはつまり、こういうことになる。
戯言にしか聞こえないが、ホオヅキはこう言ったに等しい。
「スズカは、走らないでマヤノトップガンを追い回していたと?」
「あの2コーナーに関しては……まさにその通りですが……これが下り坂だけのことなのか……重心移動?……スピードが乗ってきたら?……わからない……もっと観ないと……」
ホオヅキは説明の途中で、レースのほうを観ながらブツブツと呟きつつ考え込んでしまう。
問い質すなら、ちゃんと結論が出てからのほうがいいだろう。
エアグルーヴはそう思い、レースのほうを見る。
マヤノトップガンがアタマを取ってはいるが、遅いレース展開には見えない。
マヤノトップガンはサイレンススズカのペースで逃げているのだ。
マヤノトップガンは自身とサイレンススズカへの後ろからのマークを内からの回り込みで全部断ち切った上で、サイレンススズカとの大逃げ勝負を仕掛けた。
GⅡの重賞である弥生賞を、開幕1ハロンで自分の私闘の舞台に変えてしまったのだ。
まったく信じがたいことだが、後続の追撃を見事に振り切るこの強引なレース展開は、それを狙ったとしか思えない。
どこまで身内プロレスをアピールするつもりだ。
エアグルーヴは歯噛みする。
自分が万全であったとして、はたしてここに割り入っていけただろうか?
考えるほど、コースで起きているレース展開に目が眩む。
「……尻尾が掠めるほどのベタ付け追走……内ラチに擦り付けるほどのインベタでコーナーを回ってストレート……速い……速い!……」
『マヤノトップガンとサイレンススズカ!2人でどこまで逃げる!どこまでも逃げる!すでにストレートも半分を越え中山の勝負処、3コーナーへと向かう!後続はすでに7バ身後ろだ!後続は追いきれるのか!?』
マヤノトップガンとサイレンススズカは、恐ろしいほどにまったく同じように走る。
マヤノトップガンがサイレンススズカの模倣をして大逃げをしているのか、サイレンススズカがマヤノトップガンの走りをトレースしているのか、観客席からはわからない。
「すげぇ!完全にビタ付けでサイレンススズカが追走してる!」
「時計も速い!あんなペースで逃げ続けたら普通なら3コーナーに入る前にはとっくに逆噴射するハズなのに!」
「おい、後続!後続を見ろ!」
マヤノトップガンとサイレンススズカが3コーナー入り口へと差し掛かるタイミング、観客席は先陣を切る2人の後方、中団の中から勝負を仕掛けに出る2人の姿を見た。
早仕掛けなのではないか、しかしこれ以上は待てないのか。
観客席からはわからないが、本人達はここだと確信を持って仕掛けているに違いない。
『後続集団から飛び出した!ナイスネイチャ!ナイスネイチャが飛び出したその後ろ!トウカイテイオーも続く!』
マヤノトップガンとサイレンススズカが3コーナーへと入る寸前、中団から2人が仕掛けた。
ナイスネイチャと、その後ろにトウカイテイオー。
ナイスネイチャはちらりと後ろを見たあとに、そのまま前を向いて走る。
あの2人をコーナーで休ませないために、ここで飛び出してプレッシャーをかける。
トウカイテイオーがこのタイミングで仕掛けたということは、自分の仕掛けが間違っていなかったことを確信させてくれる。
あとはトウカイテイオーより前で仕掛けたこのリードを守りつつ、マヤノトップガンとサイレンススズカに最終ストレートの登り坂で追い付くだけ!
そしてこのコーナーを必死に逃げるのか、稼いだリードを使って息を入れるのか。
選択肢を握っているのは、マヤノトップガンだ。
『ナイスネイチャとトウカイテイオーが上がっていく!このコーナーで勝負を仕掛けるのか!?マヤノトップガンとサイレンススズカはコーナーに入った!』
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マヤノトップガン
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サイレンススズカ
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ナイスネイチャ
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トウカイテイオー