逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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残り4ハロンの逃亡旅程

「3コーナーに一度入ると、あとは4コーナー出口まで平坦なコーナーでの誤魔化しの利かないコーナリング勝負。無理にここで全力疾走しても最後の直線を走りきれなくなるし、普通ならここで息を入れるしかない」

 

「それがわかっているから、ネイチャ先輩とテイオーもここで仕掛けに行った。息を入れる2人に追い付いて差しに行くにはここしかないもの」

 

 ハルヤマとダイワスカーレットはコーナーに入ったマヤノトップガンとサイレンススズカ、そしてコーナー前のストレートで仕掛けたナイスネイチャとトウカイテイオーを見る。

フユミはポップコーンを噛んでいたのを飲み込んで、後ろの席のハルヤマ達にバケツを突き出す。

その顔に焦りなどは見受けられない。

 

「そう、ここでスズカとマヤは減速する。ナイスネイチャとトウカイテイオーはそう思っている。だが、ここで減速しなかったとしたら?」

 

「無理だな。このコーナーを全力で走って抜けたら最後の直線を走りきれない。ここで息を入れずに逃げたら、登り坂でへばって逆噴射して沈むに決まってる」

 

「そう、そうならないためにスズカは必ず息を入れる。しかし、露骨に息を入れたら脚を溜めていたナイスネイチャ達が4コーナー半ば辺りで追い付いてくる。息を入れれば最後の直線での立ち上がりからの勝負、息を入れなければ登り坂で差される、どっちに回っても不利が付く。では、どうやってここである程度のリードを保ったまま息を入れるか?」

 

「スズカは、って絞っているけどマヤノはどうするの?」

 

「マヤは息を入れられない。減速した瞬間に後ろからスズカに外から差されるからな」

 

「え、ちょっとそれっておかしくない?スズカ先輩はこのコーナーで息を入れるマヤノより速く走るってこと?」

 

 ダイワスカーレットの言葉に、フユミは少しだけ笑ってから言い切る。

盛大に仕込んだイタズラの完成に浮かれるように。

 

「そういうことだ。マヤが息を入れることを選んだなら、4コーナーを出た時に外からスズカがアタマを取って先に立ち上がる。息を入れずに逃げ続けたら、スズカは内からアタマを取る」

 

 フユミがあまりにも当たり前のように言い切るので、ハルヤマはさすがに思うところがあった。

フユミの担当は、サイレンススズカだけではないのだ。

 

「なぁ……それをあとでマヤノに言ったら、たぶん拗ねるぞ」

 

 勝負のポイントとなる3コーナーから4コーナーへ、マヤノトップガンとサイレンススズカは駆ける。

ハルヤマの言葉に、フユミはわずかに目を細めてターフを駆ける2人のほうを見る。

 

「拗ねても怒っても、それをマヤの成長に繋げるのが僕の仕事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、ここで仕掛けた……ここからなら4コーナーの立ち上がり前にコーナーで息を入れるマヤノトップガンの横に……そこでマヤノトップガンを内ラチに押し込みながら……あとは力勝負……でも逃げてたマヤノトップガンは差せる……サイレンススズカを逃がさなければ……うん、勝てる……トウカイテイオーは勝てる……」

 

 ブツブツと呟くホオヅキの言葉を聴きながら、エアグルーヴは状況を見る。

ハイペースな逃げを打つ2人があのままコーナーを走るとは思えない。

ここで必ず少なからぬ息を入れる必要があるハズだ。

なんならコーナーに入る前のストレートの時点で既に息を入れているハズだ。

それがここまでの大逃げになったのは、2人が並んだ状態だったから。

ここまで来たら認めざるを得ない。

あの2人にチームプレイという発想はなく、GⅡまで来て、お互いに潰し合いのヒートレースをしているのだ。

 

 この2人がもし止まらないなら、コーナーを抜けた先の最後のストレート、中山の登り坂で必ず沈む。

そうなればここから崩れた2人を抜き去って最後の半ハロンをトウカイテイオーがウイニングランをするだけだ。

息を入れるしかない。

そうしたら4コーナー出口、ストレートの立ち上がりでトウカイテイオーがマヤノトップガンに追い付く隙が出来る。

あとは、トウカイテイオーが外から被せての競り合いでマヤノトップガンとサイレンススズカをまとめて削り取って沈めて勝つ。

そうなれば残るのはナイスネイチャだけだ。

トウカイテイオーは、ここで勝つ。

あの2人は、私闘の末に外から差されてまとめて沈む。

 

 息を入れようと入れまいと、トウカイテイオーが有利な局面だ。

おそらくこうなることまでは読んでなかっただろうが、こうなった以上は、トウカイテイオーは勝ちに行くチャンスを確実に掴みに行く。

ナイスネイチャも同じタイミングで仕掛けたが、トウカイテイオーが地力争いで競り負けるとは思えない。

 

『ナイスネイチャとトウカイテイオー、ここで上がってきた。縦長の展開となった中で、先頭のマヤノトップガンとサイレンススズカへついに仕掛けに行った。トウカイテイオー、ペースが速めだ!ナイスネイチャをかわしながらトウカイテイオーが追撃する!トウカイテイオー、ナイスネイチャ、その後ろも上がってきたぞ。アンセストリコール、その外ドクターオーキド、後ろネクロポーテンスはやや苦しい展開か、トレジャークルーズが外から順位を上げてきた!』

 

 このレース、トウカイテイオーが獲る!




まだだ!まだ終わらんよ!


ウソでしょ……

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  • マヤノトップガン
  • サイレンススズカ
  • ナイスネイチャ
  • トウカイテイオー
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