逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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駆け抜ける伝説

「このままのスピードでコーナーを逃げるのか!?」

 

「ウソだろ!息が続く訳がねぇ!2人まとめてズブズブだ!」

 

 違う。

何か、違う。

マヤノトップガンにずっと前を走られているのに、いつもと感覚が違う。

邪魔とか、走れないとか、そういう煩わしさがない。

前を間違いなくマヤノトップガンが塞いでいるのに、マヤノトップガンを邪魔に感じない。

むしろ、いつもより乗れている?

いつもより速く走れている?

スタートから1ハロン、強引に絡み付いて前に出たマヤノトップガンに最初は苛立った。

でも、1コーナーの登り坂から2コーナーの下り坂辺りで、前に誰かがいる時の、引っ掛かるようなあの煩わしさがなくなってきた。

私が走るその前に、ずっとマヤノトップガンがいるのに。

マヤノトップガンの尻尾が、こちらに掠めるほど近い距離なのに。

ストレートで追い抜きにかかろうとは、思わなかった。

今のペースを更に上げて追い越しにかかるのは、むしろ無理があるように感じた。

勝負をするとしたら3コーナーを入ってから。

なんとなく、そんな気がした。

3コーナーでほんの少し、足一歩分だけ外に出ながら内ラチへと身体を傾け、爪先を少しだけ上げて、いつもより脚を少し前に出すのを意識して走る。

観音山でトレーナーさんが身に付けろと言ったことは、きっとこれだと思う。

 

『先頭のマヤノトップガン!コーナーに入っても脚を弛めない!?息を入れない!?後続にビタ付けのサイレンススズカも一切下がらない!3コーナーから4コーナー!そして最後の直線!このまま逃げるのか!?逃げられるのか!?』

 

 違う。

何か、違う。

サイレンススズカの走りをずっと後ろから見続けて、サイレンススズカの後ろから同じ走りで追い掛けて練習して、今日はついにサイレンススズカの前で、サイレンススズカの大逃げをそのまま返している。

息の入れ方も、きっと合ってる。

たまに尻尾にサイレンススズカの身体が掠めているから、距離がずっと近いのはわかってる。

サイレンススズカのペースを完全にコピー出来ているハズ。

そうじゃなかったら、後ろをあんなに突き放してない。

ひとつだけわからなかったのは、このコーナーでどう息を入れるのか。

 

 トレーナーちゃんと2人でどこかに行ったあと、スズカちゃんはコーナーでスピードを落とさなくなった。

坂路を走り込んでいたから、きっとほんの少しの息で走り切るためのトレーニングだったんだと思う。

コーナーでの脚運びも少し違っていた。

少ない歩数でコーナーを抜けるフォームなんだと思う。

だとしたら、スタミナ勝負。

それなら、こちらに勝機があるハズ。

ここで一気に後続を突き放して、最後のストレートの登り坂前のアプローチで息を入れる。

そして、最後の登り坂で全力で引き離す!

 

 

 

『マヤノトップガンとサイレンススズカ!残り3ハロンで尚もペースを落とさない!4コーナーをそのままのペースで抜けていく!前には中山の直線310m、高低差2mのヒルクライム!後ろには仕掛けに来たナイスネイチャとトウカイテイオー!ナイスネイチャがコーナー内ラチを丁寧に抜ける外をトウカイテイオーが前に出て!今伸びる!もう逃げ場はないぞ!脚は続くのか!行けるのか!大逃げ2人の決死行は残り2ハロンだ!』

 

 

 

「決着、だな」

 

「えっ?なっ!」

 

 4コーナーを抜けるまであと少し、そこでわずかに空き始めたマヤノトップガンの内にサイレンススズカが差し込んでいく。

どちらもトップスピードでコーナーを走っている。

ここでラインを内ラチ側に捩じ込んで、追い抜きにかかるなんて物理的に無理だ。

コーナーは小さなコーナリングで速く抜けようとするほど、遠心力で身体が外に引っ張られていく。

それを抑え込むために一歩一歩の踏み込みを強くして、内に内に軌道修正しながら走るために、踏ん張る脚力が必要になる。

ダイワスカーレットはそれをわかっているからこそ、理解出来なかった。

自分の手を置いている太腿は、最近はちょっと太くなったのを自覚している。

レースの時ならともかく、普段はさすがに思うところがないわけじゃなく、プライベートの格好も長い丈のスカートを選びがちになってきた。

嫌とか思わないけど、やっぱりちょっと着れる服は減ってきたのは少し寂しい。

でも、そうしなければ、高速でのコーナリングの遠心力に負けてしまうから。

この脚が、唯一の武器だから。

それでも尚、対抗出来る遠心力には限界はある。

遠心力に負ければ、そのまま外に膨らんでいくしかない。

ましてやコーナーで誰かを追い越しにかかるほどの速度を出したら、内ラチに付き続けるなんて無理だ。

マヤノトップガンが外に膨らむのも、全力で逃げている証拠だ。

なのに、サイレンススズカは今、マヤノトップガンを内から追い抜きにかかっている。

大外から仕掛けに行くならともかく、マヤノトップガンが遅くなりながら外に膨らんだわけでもなく。

 

 サイレンススズカは、何をやった?

 

 ダイワスカーレットの心のざわめきは、きっと全員が思っていることだ。

だから、観客席はスタートでマヤノトップガンが前に出た時よりもどよめいた。

 

『ここで!?ここで!サイレンススズカがジリジリと内ラチからマヤノトップガンの隣に出てくる!?まだコーナーを抜けきらないこのタイミングで内から!?』




中山の直線は短いゾ♡
だからそろそろ終わるハズなのじゃ……

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  • マヤノトップガン
  • サイレンススズカ
  • ナイスネイチャ
  • トウカイテイオー
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