逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー 作:エアジャガーる
「内からだとぉ!」
「どうやって曲がってんだ!?」
マヤノトップガンがサイレンススズカに気付いてスピードを上げる。
前には出られるが、内ラチには迫れない。
内から伸び始めるサイレンススズカを阻みきれない。
それでもサイレンススズカに内を突っ込まれたまま、マヤノトップガンは4コーナーを突っ走る。
『サイレンススズカ!サイレンススズカだ!サイレンススズカが内から突っ込む!マヤノトップガンは内を空けないか!ハナを譲らないか!まだ競り合っている!トウカイテイオーは後ろから伸びてくる!トウカイテイオーは外から仕掛けに行く!サイレンススズカがマヤノトップガンが駆け抜ける内を抉じ開けていく!並んで競り合うマヤノトップガン!まだマヤノトップガンだ!まだ競り合う!外マヤノトップガン!内サイレンススズカ!トウカイテイオーが後方に迫る!ナイスネイチャは更にその後方、内を回る!マヤノトップガン!サイレンススズカ!並ぶ!並ぶ!4コーナーを抜ける!残りは直線310メーターのサドンデスマッチだ!サイレンススズカが内から立ち上がる!マヤノトップガンもほぼ同時に!その後ろトウカイテイオーも見えてきた!まだ終わらない!中山の芝2000は!まだ終わらない!!!』
コーナーを立ち上がった時、サイレンススズカがマヤノトップガンより僅かに前に出ていた。
そのまま2人はほぼ横に並んでコーナーを立ち上がり、最後のストレート、登り坂の向こうのゴール板へと走る。
『残り310メーターの直線!ここに数多のウマ娘の明暗を分けた登り坂が待つ!逃げ続けた2人を今別つ無情の登り坂!後ろからトウカイテイオー!トウカイテイオーが大外から仕掛けに行った!ナイスネイチャは内から上がる!逃げ切るのか!?逃げ切れるのか!?勝負はまだ終わってない!』
トウカイテイオーがここでコーナーを大外から振り回すようなコース取りで遮二無二駆け抜ける。
本当ならストレートに出る前に追い付きたかった。
コーナー出口の立ち上がり勝負に持ち込みたかった。
しかし、マヤノトップガンもサイレンススズカも脚を弛めなかった。
どっちだって既に余裕はないハズだ。
だったら大外から仕掛けて一気にちぎりに行く。
マヤノトップガンが少し膨らみ気味とはいえ、サイレンススズカ1人分だ。
大外から仕掛けられたら手も足も出せない。
このまま末脚を出し切っての競り合いなら、有利なのはこちらだ。
後ろのナイスネイチャは内側、もう抜け出せない。
大外から回って前に出れば勝ちだ!
『ここでサイレンススズカ!サイレンススズカが頭を下げ!?前に出た!?マヤノトップガンを今、内から差していく!サイレンススズカがまだ速くなる!登り坂で今、サイレンススズカが加速した!?』
サイレンススズカが頭を下げ、そして登り坂で前に出た。
ジリジリとマヤノトップガンの内に入り込んで前に出ていたサイレンススズカが、ここで前のめりになって明らかにペースを上げた。
マヤノトップガンはとっくに前のめりになっている。
最後の最後に末脚を出して加速するサイレンススズカの隣で、マヤノトップガンが粘る。
その外から、トウカイテイオーが一気に伸びてくる。
「とっ!どぉっ!けぇええええええっ!!!」
4コーナーからの最終直線を一気に加速しながら外から差しに来るトウカイテイオーを無視するように横に並べたまま、マヤノトップガンはサイレンススズカに追い縋り、横並びのまま登り坂を駆け上がる。
マヤノトップガンは、トウカイテイオーの横目にも見えるほど歯を食いしばって走る。
それでも、サイレンススズカにジリジリと離されていく。
そして、決着の最後の一手が、内から迫る。
『サイレンススズカ!サイレンススズカが引き離す!突き放す!マヤノトップガンの外にはトウカイテイオーが差しに行くがマヤノトップガンはまだ粘る!まだ粘る!その内!その内からナイスネイチャが上がってきた!?』
ナイスネイチャは改めて正面を走るサイレンススズカの背中を見る。
改めてサイレンススズカの後ろ姿を見て確信した。
ありゃ確かに災害だわ。
後ろでかなり溜めていた状態でも、この登り坂はキツいってのに、なんであのペースで逃げながら今のアタシより速いのよ。
まぁでも、嵐も風向き次第じゃ追い風!
アタシに出来ることは、この追い風に乗っていくだけ!
マヤノトップガンとトウカイテイオーが外で競り合う内からナイスネイチャがここぞとばかりに上がっていく。
マヤノトップガンは外のトウカイテイオーとの競り合いから降りられない以上、内はサイレンススズカ1人分空いている!
マヤノトップガンの内を抜けながら、サイレンススズカを追う。
登り坂を抜けた先のゴール板へのウィニングラン、100mもないここでサイレンススズカを差しに行く。
マヤノトップガンの横を抜けたのを確信して外からサイレンススズカに仕掛ける。
少しだけ迫り始めた登り坂を抜けた一瞬の平地、そこで背中を追うこちらを横目にちらりと見たサイレンススズカは、何事もないかのように更に加速した。
あらまぁ……そうよね……
登り坂で少しくらいバテててくれたら、目があるかなぁって思ったけど、そんな隙のある走りをするような人じゃないよね。
やっぱりあれ、災害だわ……
足元に届きかけたサイレンススズカの影は、ナイスネイチャの右足をするりと逃げ去った。
『サイレンススズカだ!サイレンススズカが抜けた!逃げ切った!内からサイレンススズカをなぞり、割って入ったナイスネイチャ!わずかに届かない!3着争いはマヤノトップガンかトウカイテイオーか!?わずかにトウカイテイオーが勝ったか!?』
ゴール板を抜けたあと、マヤノトップガンとトウカイテイオーはヨタヨタとコースの外側に抜けて、並んでぺたりと座り込む。
トウカイテイオーは後ろに手をついて空を見上げ、マヤノトップガンはうつむき、膝に手を置く。
お互いに肩で、というより身体で息をしているような状態。
このレースの答えは、ハッキリしていた。
『3着、トウカイテイオー!』
イギー、アヴドゥル……終わったよ……
サイレンススズカ―ナイスネイチャ―トウカイテイオーで以下の払い戻しはありません。