逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー 作:エアジャガーる
「どうもどうも、こうして独占インタビューするのも三度目になりますか」
「お陰様で弥生賞も注目度が高まって、予定していた以上のものになりました。当初から注目してくれた月刊トゥインクルの皆さんや応援してくださるファンの皆様には感謝しています」
会議室の入り口で、月刊トゥインクル編集長とフユミトレーナーは握手を交わす。
フユミトレーナーが月刊トゥインクル編集部に来るのは、これで三度目になる。
すっかり恒例となりつつある、会議室でのフユミトレーナーとの一問一答での対談インタビュー企画。
対面で座った編集長は、フユミトレーナーの変化に気が付いた。
前までの、どこか一歩引いた感じがない。
弥生賞でサイレンススズカが勝ち、マヤノトップガンが倒れた。
慌ててマヤノトップガンを抱え上げて処置をしながら救護を呼ぶフユミトレーナーの姿は、ネット上でも話題になっていた。
あれから数日経ったこの日のフユミトレーナーは、今までとは少しだけ目付きが変わったように、編集長には見えた。
心境の変化だろうか?と思い、編集長は質問の項目をひとつ増やすことにした。
「まずは弥生賞を終えての感想からお聞かせください」
「一安心、ですかね。サイレンススズカは出走予定を決めた当初よりも求めた以上の結果を出せました。同時に、マヤノトップガンに大事がなかったことにも安堵しています」
「マヤノトップガン選手がレース後に倒れたことはさすがにネット上でも騒ぎになってましたね」
「ウマッターでひっそり動かしていたチーム広報用のアカウントがマヤノトップガンの無事を報告したらデマ扱いでアカウントが凍結してしまったのが、一番の痛手でした。マヤノトップガン本人のウマスタでの報告でようやく収まりましたが、それまでURAの担当部署に問い合わせが相次いだらしく、そちらにも頭を下げることになりました。皆さんに御心配をおかけしたというのを実感しましたね」
「ウマッターのアカウントは現在も凍結されたままですか?」
「はい、復旧の予定はないです。今後はチームとしての広報は行いません。マヤノトップガンのウマスタも彼女の個人的なものなので、そっと見守ってもらえたらと思います」
しかし、凍結って案外あっさりとなるものなんですね、とフユミトレーナーはタブレットで開いたウマッターの凍結された画面を見せる。
初期の蹄鉄アイコン、ヘッダー未設定、フォロー0人、レースへの出走申請を出した報告と出走が決定したあとの告知しか呟かない「チームアルコル@teamAlcor_info」のアカウントが、本当にチームの公式だったことに軽く目眩を覚えて、編集長も頭に差したペグシルをひとつ摘まんで、グリグリと頭皮を掻く。
「マヤノトップガン選手の現状は如何ですか?」
「ピンピンしてます。初めての大逃げをした反動に耐えきれなかっただけなので、慣れれば彼女の武器のひとつとして活用出来るでしょう。体調面も問題なく、おそらく皐月賞ではマヤノトップガンの元気な姿をお見せ出来ると思います」
「無事で何よりです。皐月賞でのマヤノトップガン選手の好走に期待しています。では、ここから少し深掘りしていこうと思います。サイレンススズカ選手について、です」
編集長が切り出した言葉に、フユミトレーナーは姿勢を正す。
今回、一番に確かめなければならないことはここだ。
「メイクデビューでマチカネフクキタル選手、サウジアラビアロイヤルカップでエアグルーヴ選手、朝日杯フューチュリティステークスでサクラバクシンオー選手等のスプリント組、弥生賞でトウカイテイオー選手とナイスネイチャ選手を下しました。残るは桜花賞で当たるダイワスカーレットとウオッカを下せば、今世代最強を春で早くも名乗り上げることが出来るのではないか。そのためにサイレンススズカ選手のローテをこのように組んだ、という見方が広がってますが、ズバリどのようにお考えですか?」
フユミトレーナーは肩を竦める。
そんなことは考えてなかった、とでも言うのだろうか。
「サイレンススズカが桜花賞を勝ったあとに、周りからそう評価されたら喜ばしいですね。今はまだ、応援の声に応えるために尽力するばかりです。それに、本来の勝負はシニアクラスからだと思っています。今、勝っている相手に半年後も勝っている……そんな妄言は言いません。他のウマ娘やトレーナーも、サイレンススズカに白旗を揚げることはないでしょう。どうすればサイレンススズカに勝てるか、どうすればサイレンススズカの前を行けるか、必死で追ってくるだろう相手に勝利宣言をするつもりはありません。それに、あまり遠くばかりを見ても仕方がない。近くにあるものをひとつずつ片付けていこう、と思っています」
「近くにあるもの、桜花賞を確実に勝ちに行くということですか?」
「いや、もっと手前にあるタイキシャトルのスプリングステークスです。アネモネステークスをレート差で出走枠を取れなかったので、今後はレート負けさせないために春の段階で多めに実績を積ませたいと思ってます。桜花賞や皐月賞よりも喫緊の課題です。本人が出たいレース、出せれば勝たせてやれるレースに出させられない。トレーナーとしては、これ以上の失態はありません」
「タイキシャトル選手は、シンザン記念を出遅れつつも最終的に圧勝する強いレースをしました。強みと課題などはありますか?」
「強みは何かを追い回す時にはとことん追い回す力があります。1800までならサイレンススズカすら捉えるだけのトップスピードを出せるので、それを100m……200mでも伸ばすことが出来ればと思いますが、そこは将来的な課題なので今は彼女の強みであるマイル以下の距離での戦闘力を高めていきたいですね」
「マイルとなると、NHKマイルを目指す形になりますか?」
「スプリングステークスの結果にもよりますが、そこは取りたいところですね。もちろん、簡単には取らせてもらえないでしょうが」
「タイキシャトル選手のスプリングステークス、サイレンススズカ選手の桜花賞、マヤノトップガン選手の皐月賞、3人の選手全員が立て続けに重賞参戦となると慌ただしいですね」
「中山行って阪神行ってまた中山に戻ることになるので、目が回りそうですが、彼女達が優秀だからこそです。求めても得難い忙しさですから、僕も頑張ります。忙しさはつまるところ、彼女達が結果を出している証拠ですので」
そう言ってにこりと笑うフユミトレーナーから、言葉にはしないが担当する3人を勝たせるという覚悟を感じた。
今までのフユミトレーナーは、どこかでなるようにしかならないという態度だった。
それがこのように態度を変えた理由は、おそらくサイレンススズカの勝利ではない。
「マヤノトップガン選手が倒れた時、明らかに動揺するフユミトレーナーの姿がありました。その時のことを詳しくお聞かせください」
「恥ずかしながら、血の気が引きました。マヤノトップガンが限界を超える走りをすることを、想定出来てませんでした。もっとアッサリとした決着を想定していただけに、サイレンススズカ相手に最後の最後まで食らい付いて追い縋ったことによる反動はどれ程のものか、医師の診断を聞くのがとても……怖かった」
ニルヴァーナ!!!(府中の方言で、嵐が過ぎたぜキャッホォオオオオ!!!の意味)