逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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落陽色の輝き

「ここです」

 

「チームベテルギウス……ね」

 

 たづなさんが開けた扉から、フユミとマヤノトップガンが入ると、空き家となる予定のチームルームには、荷物がまるで残っていなかった。

ただ一人分ほどの私物が、テーブルの上にまとめられて残っているだけ。

残っている私物がまとめられているということは、ここを頑として動かないという強硬な態度ではなく、ここに未練がまだあるから離れたくないという消極的な態度なのだろうと思う。

 

 まさか私物を取りに来る暇がない、ということはないだろう。

私物を引き上げることで、このチームがなくなるという現実を直視するのが怖いのだろうか。

認めたくないのだろうか。

受け入れがたいのだろうか。

病気で辞めるというトレーナーのことは知らないが、これだけでもある程度の人望を察する。

 

 見た感じだが、残っている私物には化粧品類が多く感じる。

この私物の持ち主にとって、この部屋はプライベートに近いスペースであったのだろうか。

それだけ近い距離の信頼関係があったことは、推察出来る。

 

 ひとまとめにされている私物は、ちゃんと整理されており、とりあえずかき集めたというよりは、ちゃんと持ち帰りやすいように置き直したと見るべきだ。

これをしたのが、他のウマ娘であったとしたら、チームに残っている件のウマ娘は相応に慕われていたらしい。

 

「たづなさん、それでここに私物を残しているウマ娘というのは?」

 

「この時間に荷物を取りに来ると言っていたので、そろそろ来ると思いますが」

 

「トレーナーちゃん、これスゴいよ!全部、雑誌で見たことあるもん!」

 

 マヤノトップガンがまとめられている私物の化粧品を見てはしゃいでいる。

どうやら、どれもそれなりにお高い流行り物のアイテムらしい。

マヤノトップガンが読むような雑誌に全部載っているとなると、少なくとも安物ではなさそうだ。

 

「たづなさん、これもしかしてどれもこれも、かなり高い?」

 

「……自分で買うのは、少し勇気が必要ですね」

 

「たづなさん、けっこういい給料もらってますよね?」

 

「それとこれは、また別の問題です……」

 

 理事長秘書のたづなさんの高そうな月給をもってしても自分で買うには勇気が必要な値段という辺り、このテーブルの上にまとめられた私物の化粧品類はなかなかのブランド品らしい。

施錠してある部屋とはいえ、あまり堂々と置いておくようなものではないと思うが、こういった物をそこら辺に堂々と置いておけるような環境にいる人物のものらしい。

 

 それはさておき、部屋の内見を済ませよう。

部屋の大きさは今いる一間の時点で倍は大きくなる。

しかも、ロッカーはこの部屋から扉で直接繋がっている隣の部屋に置けるみたいなので、着替えの間は締め出し、ということもなくなるらしい。

前の部屋より明らかに利便性は高いが、その代わりにこの私物の持ち主をどうにか収まりのいいところに着地させる必要がある。

もちろん、制度で画一的に解決してしまえば手っ取り早いが、制度を圧力に使い出すとどこかでしっぺ返しが必ずある。

誰のことも助けない制度運用など、概ねろくなものではない。

もっとも、それはここに後釜のチーム担当トレーナーが来ている時点で、充分に圧迫感はあるだろうが。

 

「あれ、扉が開いてる……あっ……」

 

 ガラリと半開きにしていた扉を開けて入ってきたウマ娘と、目があった。

輝くような金色の髪と透き通るような瞳に、カジュアルながらまとまりのいいパンツスタイルの私服のウマ娘と。

一瞬だけ顔に苛立ちを浮かべたが、即座に軽く笑って表情を隠した。

ずいぶんと鮮やかな金髪のウマ娘がいたものだ。

 

「えっと、この部屋に新しく入るチームのトレーナー?」

 

「まぁ、そんなところだ。これは君の私物?」

 

 どうやら向こうは、こっちがこの部屋にいる理由を察したらしい。

どう見てもハウスクリーニングには見えないだろうし、仮にもトレーナーバッジを付けているし、そんな人間が解散したチームの跡地に来る理由などすぐに察するに決まっているか。

テーブルの上にまとめられていた荷物のことを訊く。

 

「うん、そう……アタシの余らせてたコスメ。チームのみんなに使っていいよ、って置いてたの。現場でよく差し入れやら試供品で貰うから。勝手に持って行っちゃっていいよ、って言ったのに律儀なんだか」

 

「だからこんなにコスメがいっぱいあったんだ!ここって、シチーさんのチームだったの?」

 

「ははは、まぁ……そうだね……」

 

 マヤノトップガンに興味津々で迫られて、金髪のウマ娘は少しだけ苦笑しながら答える。

シチー……シチー……はて、シチー……

どっかで聞いたり聞かなかったりしたような名前だ。

 

「トレーナーちゃん、まさかシチーさんのこと知らないの!?」

 

 思い出すために頭を捻っていたところを、マヤノトップガンにムーッ!とした顔で問い詰められる。

下手に誤魔化しても仕方ないから正直に白状しよう。

 

「すまない。勝った重賞レースがあったら言ってくれ。そっちのほうが思い出せる」

 

 失礼な質問なのは承知しているが、トレセン学園にいる全員の顔と名前が一致するような記憶力は持ち合わせていない。

少しだけ、むすりとした複雑そうな顔で金髪のウマ娘は答える。

 

「……一昨年の阪神ジュベナイルフィリーズ」




チャンミ、いつになったらテンポアップするんですかね……
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