逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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サイドキック

『2コーナーを抜け向こう正面も半ば、先頭のサクラバクシンオーの後方をセブンスナナとレンアンドシックスが追う!その3バ身後ろにセカンドサンライズ、そしてタイキシャトルが続いている!』

 

 セブンスナナは、向こう正面のストレートからサクラバクシンオーを追い立てる。

 

 弥生賞でのサイレンススズカとマヤノトップガンの大逃げしながらの身内プロレスに、付いていけていたのはトウカイテイオーとナイスネイチャだけだった。

今回のサクラバクシンオーはおそらく、それに匹敵するペースで逃げている。

ここで付いていかねば、勝負すら出来ない。

 

 タイキシャトルにマークする第一プランは、残り1000mの時点で切り捨てた。

タイキシャトルが本気で追い抜きにかかったのを後ろから追撃して差すプランは、これだけサクラバクシンオーとタイキシャトルの間が離れてしまったら使えない。

 

 タイキシャトルがこのタイミング、この距離感でサクラバクシンオーとの距離を詰めないということは、シンザン記念で外から大捲りでカッ飛んでいくあの走りは普段から出せるレベルの走りなのだ。

あのレベルでの末脚を出されたら、きっと自分達では付いていけない。

 

 あの脚を前提とした仕掛けには、とても付き合えない。

 

 それなら、サブプランに切り替えるためにも、少しでも前に出ておいてリードを稼いでおきたい。

控えているレンアンドシックスがタイキシャトルの進出に気付けば、二人分外を走り出す。

そうしたら自分も外に少し膨らみつつ、内にいるサクラバクシンオーをハナ差で差しに行く。

あとは後ろから進出するタイキシャトルの進路を塞ぎながらゴールする。

大外に回ろうとしても、セカンドサンライズがタイキシャトルの横を押さえている算段だ。

 

 サクラバクシンオーがいなければ、もっと無理なく勝ちに行けただろうが、ここで無理してでも勝たないと、きっと“自分が勝つレース”への道が断たれる。

今回、タイキシャトルへのリベンジを兼ねた出走に関してはかなりの無理を言った。

ここで負けたら、きっと私はチームでの立場を完全に失う。

 

 まだここでは垂れてくれるなよ、サクラバクシンオー。

残り1ハロンまでは突っ張ってくれないと、困るんだ。

 

 

 

 

 

 

 

『サクラバクシンオー、先頭で3コーナーに入る!続くセブンスナナ、レンアンドシックス!その3バ身後ろにセカンドサンライズとタイキシャトル、そして中団が続いているぞ!』

 

 勝負所だ!

ここで外から一気に捲って4コーナー出口までに前に出て一気に突き放す!

 

 タイキシャトルが踏み込み、前の3人をまるごと外から捲りに行こうとしたその瞬間だった。

 

「させないっ!」

 

「アゥッ」

 

 3コーナーでタイキシャトルが外から捲ろうとしたところを、セカンドサンライズが貼り付いて肩がぶつかる。

肩がぶつかったセカンドサンライズは外に一切退かず、タイキシャトルを内ラチに押し込む。

僅かにセカンドサンライズが前に出て、外に捲りに行くコースを塞ぎに来ている。

加速してコーナーを外に出ながら捲りに行くことが出来ない。

強引に押し退けに行けば、審議がかかるのはこちらだ。

かといって、このまま並んでズルズルと3コーナーにそのまま入ってしまうと、その先に内からサクラバクシンオー、セブンスナナ、レンアンドシックスが横並びで待ち構えて蓋をしている。

セカンドサンライズの外に出られなければ、そのまま内に封じ込められる。

 

 セカンドサンライズはセブンスナナとグルで仕掛けてきた?

その後ろに控えているレンアンドシックスもセブンスナナの取り巻きなのだろう。

 

 チャーチルダウンズでクインビーが反抗的なワナビーを制裁したり他のクインビーを貶めたりするのに、よく仕掛けていた手だ。

横を塞ぎながら、前を二人で蓋をして、あとは先行する二人が後ろに蓋をしたターゲットに向かって蹴り上げた砂をぶつけて、よろめいたところを横を塞ぐ一人が内ラチに押し込んで潰す。

 

 アレをやられた少なくないウマ娘が、クインビーに屈従するか、チャーチルダウンズを去っている。

日本でまた目にするどころか、自分がターゲットになるとは思わなかった。

 

 タイキシャトルは、口角を僅かに上げた。

3コーナーには既に入り、仕掛け所は過ぎ去った。

4コーナー前、サクラバクシンオーの挙動を見る。

中山のキツいコーナーの内ラチを、セブンスナナに斜め後ろから食い付かれながらもまだ逃げている。

まだ、勝負はここから!

 

 

 

 

 

 

 

「……まずい」

 

 タイキシャトルの3コーナーでの捲りの仕掛けをセカンドサンライズに潰された。

パトロールビデオを観ないとハッキリしないが、おそらく審議に出しても、内からぶつかったタイキシャトルが不利だ。

出掛かりを封じ込められた上にコーナーを無理矢理、ローペースで流されて4コーナーの立ち上がりを蓋されてしまえば、勝ち筋がない。

クラシックのGⅡレースで、ここまで強固なチームプレーを仕掛けてくるとは思わなかった。

あれを切り返すような小手先の技を、タイキシャトルが持ち合わせているとは思えないし、教えた覚えもない。

 

 つまり、詰んでいる。

 

 出来るだけ堂々としたクリーンなレースをさせたくて、後ろ暗い小技を教えなかった自分の失敗だ。

仕掛けるタイミング、審議を出されることを見越しての立ち回り、チームプレーとしてはこの上ない隙の無さ。

これをタイキシャトルがどうにかするには、セカンドサンライズの外に回るしかない。

だが、セカンドサンライズはタイキシャトルの横にビタリと付けている。

横に貼り付くセカンドサンライズは、間違いなくタイキシャトルの共倒れで沈むことが前提の走りだ。

 

 グズグズしていたら4コーナーがすぐに来る。

あとは4コーナーを出た立ち上がりを潰して、出遅れたところを中山の短いストレートで振り切り突き放す。

府中や阪神ではない、中山の310mだからこそ出来る戦法だ。

 

 ダーティな走り方をするウマ娘が中央にいることを、受け入れていなかったのか。

中央で小手先の技で潰し合いをするレースをすることを、どこか遠慮していたのか。

中央にいるウマ娘に、ダーティな走りをさせたくなかった半端な潔癖があったのか。

 

 猛省するにしても、あまりにも反省点が多い。

小手先の技とダーティな走りで勝たなければいけないような、そんなウマ娘が中央にいるわけがないと思っていたのかもしれない。

ある意味で油断していた、現実を見ていなかった、理想に目を焼かれていた。

どれかはわからないが、結果的にタイキシャトルは危険な状態だ。

どうにか勝ってくれと祈るには、自分の失策が多すぎる。

 

 今となっては僕に出来ることは、このレースを最後まできちんと観ることしかない。

自分の不手際を突き付けられているとしても、トレーナーである以上は目を離す訳には行かない。

 

「……くっ」




バクシン!バクシンの時間じゃ!
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