逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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驚きを掘り下げる者/Delver of Marvelous

「トレーナーちゃーんっ……あれ?いない?」

 

マヤノトップガンが、トレーナーのチームルームに顔を出したのは、珍しく順当に授業を終えたトレーニングの時間だった。

その日、マヤノトップガンがほぼ直感で授業に出たので不意打ちだったハズの小テストは見事に満点で迎撃され、日頃の態度に思うところのある教師はぐうの音も出せなかった。

 

その代わりに、既にサイレンススズカのトレーニングに付き合うために部屋を出たトレーナーが、マヤノトップガンが来た時間には部屋にいるハズがない。

代わりに姿があったのは、巨大な金のたい焼きの置物である。

 

「んー……なんだろー……んっ、うわっ、おもっ!」

 

試しに持ち上げてみるが、重すぎて運べそうにない。

よく見れば下に長テーブルが潰されていることに気付いた。

 

「んー……わかっちゃった!」

 

マヤノトップガンは閃くと、さっそくスマホで金のたい焼きの写真を撮ってメッセージを送る。

 

即座に返事が返ってきた。

 

そしてしばらくして、廊下を走る足音がする。

 

「マァアアベラァアアアアスッ!!!」

 

「マーベラースっ!」

 

いえーい、とマヤノトップガンと両手でハイタッチしたのは友達のマーベラスサンデーだ。

マヤノトップガンがメッセージを送ったのは、このマーベラスなウマ娘宛だった。

 

「どうどう?マベちん、これってマーベラス?」

 

「マーベラスっ!」

 

「やったぁ!」

 

「マーベラスっ!」

 

いえーい、とマヤノトップガンとマーベラスサンデーはハイタッチした。

 

「じゃあこのマーベラスなもので何をマーベラスするの?」

 

「んーとね!マーベラスをマーベラスしよう!」

 

「わかったぁ!マーベラスっ!」

 

「マーベラスっ!」

 

「マーベラースっ!」

 

何がどうマーベラスなのかは、たぶん誰もわからない。

ひとしきりマーベラスしたあと、マーベラスサンデーは少し考えた。

 

「でも、このマーベラス……ここじゃ思いっきりマーベラス出来ないね」

 

「えぇ!じゃあ、どこならマーベラス出来るの!?」

 

マヤノトップガンはいきなりハシゴを外されて慌てる。

場所はマーベラスじゃなかったのか。

 

「わからない!だってマーベラスだから!」

 

「……そっかぁ!じゃあとりあえずこれが誰のか聞いてみよ?」

 

「うんうん、こんなところにマーベラスを隠していたマーベラスじゃない人もマーベラスにしよ!」

 

「うん!マーベラス!」

 

ぐるぐると金のたい焼きの周りを2人で走りながらマーベラスな予定を考える。

マーベラスって、なんだろう?

そんな疑問を持つような2人ではない。

 

 

 

 

 

 

「……なにをしてる?」

 

「あっ!トレーナーちゃんっ!」

 

トレーナーが部屋の扉を開けた時、そこには巨大な金のたい焼きの周りをぐるぐる回る少女がいた。

マヤノトップガンだけならともかく、更に追加でもう一人。

 

「マーベラスっ!」

 

「マーベラスはわかった、マーベラスサンデー。で、何をしていたんだ?」

 

「んーとね、マーベラスっ!」

 

「マーベラスっ!」

 

トレーナーは頭を抱える。

頼むから、マーベラスでごり押しするな。

 

「このマーベラスはトレーナーちゃんの?」

 

「いや、サイレンススズカが押し付けられた持ち込みごみだ。他に置く場所がないからそこにある」

 

今のところ、開運グッズらしい『超ビッグチャァアアアンスッ!!!ゴールデンたい焼きちゃんを確保せよッ!!!!100/1スケールッ!!!!!』(正式名称)という名前の持ち込みごみがやったことと言えば、長テーブルを粉砕圧潰させたことだけだ。

サイレンススズカの部屋には置いておけないだろう。

 

「そっかぁ……トレーナーちゃんのだったら今訊いたのになぁ……」

 

「訊くってなにを?」

 

「このマーベラスなおさかなさんをマーベラスなところに連れていきたいの!」

 

マーベラスなところってどこだ。

宇宙か?

 

「第一、マヤやマーベラスサンデーの力で運べるような重さじゃないぞ。こんなの持って運ぶのがそもそも難しいだろう」

 

「大丈夫!そこはマヤちゃんに任せて!」

 

任せて、ってどうするつもりだ。

マヤのことだから、ちゃんと解決策があるのだろうが。

 

「トレーナーさん、お待たせしました……あ、マヤちゃん」

 

「スズカちゃん!」

 

シャワーを浴びてきて、髪をタオルでまとめた状態のサイレンススズカが部屋に入ると、マヤノトップガンがハイタッチのポーズでサイレンススズカに駆け寄る。

 

「マーベラスっ!」

 

「え、あ……マーベラス……?」

 

サイレンススズカが戸惑いながら、マヤノトップガンの背丈にあわせて手を出すと、パチンと手を合わせる。

マーベラスがなんなのか、わからない人がまた増えた。

 

「ねぇねぇ、スズカちゃん!このおさかなちゃん、マーベラスなところにマーベラスしてもいい?」

 

「マーベラス?……マーベラスって……?」

 

困った顔でサイレンススズカはトレーナーを見るが、トレーナーだってマーベラスがなんなのかわかっているわけがない。

 

「マーベラスはマーベラス!マーベラスを考える人にマーベラスはわからないんだよ!だからマーベラスっ!」

 

「え、あの……マーベラス……?」

 

わからない。

サイレンススズカはいよいよ目がぐるぐるしてきた。

マーベラスって、なに?

 

「ボーノッ!」

 

「ひぅっ!」

 

混乱しかけているサイレンススズカの後ろから、サイレンススズカのふた回り以上大きな影が現れる。

もうこれ以上、この場を掻き回さないでほしいというサイレンススズカの願いは叶いそうにない。

サイレンススズカがたじろいで、入り口から退くと、でかすぎるウマ娘の姿がドシドシと入ってくる。

 

「マヤちゃん!呼んだ!?」

 

「ボノちゃん!待ってたよ!」

 

マヤノトップガンが考えた策は、どうやらこのでかすぎる友人を頼ることだったらしい。

いや、でかすぎるだろ……

頭が扉の高さギリギリを入ってきたぞ。

 

「マーベラスっ!」

 

「ボーノッ!」

 

マーベラスサンデーとハイタッチをしているハズが屈んだ上に手が胸の下だったぞ。

 

「じゃ、スズカちゃん!このおさかなちゃんをマーベラスするね!」

 

「え、えぇ……」

 

「じゃあボノちゃん!おねがいっ!」

 

「任せて!よーいしょっ!それじゃ、レッツゴー!」

 

でかすぎるウマ娘がたい焼きちゃんの尻尾を掴むと、そのまま肩に背負って運んでいく。

そしてマーベラスサンデーとマヤノトップガンは部屋を一緒に出ていく。

 

「マーベラスっ!」

 

「マーベラスっ!」

 

「ボーノッ!」

 

何がなんだかわからない。

とりあえずこの部屋に残されたのは、マーベラスに置き去りにされたトレーナーとサイレンススズカと、砕け散った黒い天板の長テーブルだったものだけだった。




※逸脱したら牧場送りです

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