逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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ステーショントゥステーション

『春の日差しに照らされたターフが乾いた冬の風に吹き晒される阪神レース場!春シニア三冠レースの一冠目、大阪杯!バ場状態は良での発表です!』

 

 ビワハヤヒデは改めて考える。

ゲート3つ隣のゴールドシチーはやはり、脅威足り得ない。

ゴールドシチーよりも気にすべきウマ娘が他にいくらでもいる。

1枠1番を抽選でもぎ取ったツインターボのほうがよほど危険だ。

展開がハマってしまえば、ツインターボが逃げ切ってしまう。

ツインターボに都合のいいレース展開に持ち込ませないレースプランを考えはしたが、どのパターンでも最終的にツインターボが爆発する可能性が残った。

もう少し不安定で、上振れが低いなら無視していたが、ツインターボは無視するには少し速い。

だから、ツインターボを確実に捉えるプランを選ぶ。

 

『各ウマ娘、ゲートインが完了しました!』

 

 身構える。

今日の大阪杯はコースに不確定要素はない。

適切なライン取りとペース配分、これを完璧にこなしつつツインターボの動向で修正していく。

周りがどう走ろうが、方程式の内にある限りは解は変わらない。

ゲートが開き、踏み出した一歩目に確信する。

全ては計算された中にある。

 

 このレースに、シンギュラポイントはない!

 

『スタートです!』

 

 ゲートが開いて真っ先に最内のツインターボが飛び出す。

観客席の前、ホームストレッチの直線を駆け抜けていく。

初動でツインターボは既に1バ身、後続を突き放している。

 

「スタートはターボがハナだ!」

 

「行っけーーーーッ!ターボォオオオオオオッ!!!」

 

「っしゃあっ!アタマ取ったぁあああああ!!!そのままかませェーーーーッ!!!」

 

『ハナを奪ったのはツインターボ!やはり今回も飛び出したツインターボ!今回はどこまで走る!?』

 

 登り坂を駆け上がりきったツインターボはチラリと沸き上がる観客席を見たあとに、登り坂を駆け上がる勢いそのままに1コーナーをツインターボが独走していく。

スタートからまだコーナー1つで、早くもツインターボはトップスピードに乗っていた。

 

『1コーナー、先頭はいつもより更に速いツインターボ!7バ身離れて二番手にブレイズクロー、続いてカースドスクロール、外からスカルクランプ、1バ身後ろにビワハヤヒデ、ファイアブラスト外から続く、その後ろデストロイドリング、内ニトロカタパルト、後ろブラストダーム、外からタイパントッコニ、続いてゴールドシチー、1バ身離れてボールライトニング、その後ろドラゴンスクリーム、続いて外メジロライアン、内ササキボンバー、最後尾サムデイインレイン!二番手からしんがりまでおよそ6バ身ほど、ツインターボに釣られたか全体的にハイペースなレース展開になりました!』

 

 ツインターボに引っ張られた形の速いレース展開になった。

観客席の沸き上がるボルテージと相互作用するかのように、ツインターボが飛び出した2コーナーから向こう正面を加速していく。

3コーナーまでの平坦なロングストレートだ。

走りやすさではおそらくこれ以上ないだろう部分だ。

だからこそ普通なら3コーナーでのコーナリングと、スピードに乗り過ぎない我慢が問われる。

しかし、ブン回り始めたツインターボの脚はそんなことをお構い無しに加速する。

それに引っ張られないように我慢し過ぎると後ろに下がり過ぎ、付いていくと余りのハイペースに体力を削られていく。

ツインターボが3コーナーでのコーナリングで失速するのを狙うにしても、他のウマ娘が追ってしまえば後ろに下がり過ぎるし、最悪はバ群の中から出られずに揉まれて沈む。

普段のレース以上に難しいレース展開に、中団にいる他のウマ娘達の順位が次々に入れ替わる中でビワハヤヒデはしっかりとペースを維持していた。

 

「いいぞ!後ろはもみくちゃだ!」

 

「そのまま逃げろーッ!」

 

 観客席からのファンの声が届いているのか届いていないのかは知らないが、ツインターボはいつもより前のめりになりながら振り返らずに走る。

いつもよりモチベーション高く、火に油を注がれたような気分のツインターボの脚は軽く、よく回る。

 

 ツインターボの目にしっかりと見えたのだ。

観客席で小柄なウマ娘を膝に抱える男の隣にいる澄ました顔をした栗毛のウマ娘の顔が。

そのウマ娘が自分と同じ大逃げをすることを知っている。

自分だって負けていられない。

 

 サイレンススズカには負けていられない!

 

 

 

 

 

 

 

「想定よりペースが速い……まずいな……」

 

「まずいんですか?」

 

「hmm……これはバッドデスネ……」

 

「えぇ?そうかなぁ……」

 

 自分がそもそも逃げる側のサイレンススズカは首を傾げ、追う側として話を聞いていたタイキシャトルは共感し、どの展開だろうが対応出来るマヤノトップガンはいまいち緊張感がない。

ツインターボがあまりに速くて捉えきれないのは論外、3コーナーより前で逆噴射されても困る展開になる。

 

「ツインターボがどこで逆噴射を起こすか、そこにほぼ全て懸かっているんだ。あのまま3コーナーを越えてくれないと困るが、4コーナーから先まであのまま逃げられたら話にならない」

 

「……ゴールドシチーは、あの先頭を差せないんですか?」

 

 サイレンススズカは少しだけムッとした顔をする。

ゴールドシチーが文字通りの死に物狂いとはいえ自分を差したことがあるのを、少しだけ根に持っているらしい。

遠回しに今のツインターボが自分より速いと聞こえたのだろう。

 

「これは1対1の併走じゃないんだ。思うようなタイミングで出られるわけじゃない。集団から抜け出して差しに行った頃にはもう手遅れの可能性だってあるんだ。集団の中での駆け引き、抜け出しの難しさはわかるだろう?」

 

「…………はい」

 

 少しむくれたまま落ち込むサイレンススズカの頭に手を伸ばして撫でる。

ゴールドシチーに前以て提案したレースプランが逃げウマであるツインターボが沈む前提のものだったことに、隣で聞いていたサイレンススズカは少し嫌そうにしていた。

それに、大逃げをしていなかった頃の経験もあるのだろう。

集団の中での駆け引きに取り分け苦手意識があるのも相まって、後方からの差しやペースを保った先行で行くのをサイレンススズカはどこかで、好き好んでわざわざ面倒な走り方をしていると思っているフシがある。

実際にはずっと後ろからプレッシャーを掛けられながら逃げるほうが難しいということを、自覚していない。

桜花賞で、これがサイレンススズカの課題になってくるだろう。

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