逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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綱渡りの作戦

『ツインターボ、逃げる逃げる!1000を切ったここから正念場!後続を10バ身?いやもっとだ!10バ身どころか30m以上離してもまだ逃げる!まだまだ逃げる!どこまでトバすつもりかツインターボ!今度こそこのまま逃げ切るのか!?仁川のバックストレッチを全開走行だ!』

 

「オォーッ!ターボ行けてるぞ!伸びてるぞ!」

 

「行け行けーーーー!」

 

「ハヤヒデー!追えーッ!」

 

 観客席が沸き立つ3コーナー前半ハロン。

ツインターボの遥か後ろの二番手からビワハヤヒデを挟んで5バ身以内、メジロライアンより前かつ外のライン。

ゴールドシチーの位置取りはプラン通り。

残り200mでアタックポイントに来る。

全体のペースが速いことが気掛かりだ。

ゴールドシチーは仕掛ける脚を残せているのか?

 

「……シチーさんが、行くよ!」

 

 マヤノトップガンが呟いたその瞬間、ゴールドシチーの頭が少し下がる。

仕掛けるタイミングが早い!

脚が伸びるのか?

疑問を持つまでもない。

あのタイミングで仕掛けたら残り200mで脚が伸びなくなる!

 

「ダメだ!まだ仕掛けるな!」

 

 叫んだところで届きはしない。

それでも咄嗟に声が出てしまった。

ゴールドシチーが行けると判断したのなら、もう意味はない。

あとはレースを見届けることと、負けた責任を負うことしかトレーナーに出来ることはない。

 

 

 

 

 

 

 

『ツインターボが突き放す後方、ブレイズクローが沈んでいく!ペースが速かったか!?スカルクランプ、まだツインターボを必死に追う!後ろにビワハヤヒデ、カースドスクロールが続く!』

 

 ビワハヤヒデは沈むブレイズクローを躱しながら前を行くツインターボを睨む。

想定していた中でも最大値に近いツインターボの大逃げ。

しかし、これも長くて残り1ハロンで沈む。

想定より荒れたレースにはなったが他のウマ娘も、ツインターボに引っ張られたせいで早くもガタガタになりつつある。

ほとんどのウマ娘がペースを落としつつある。

その中で、ペースをキッチリ守っているのはメジロライアンだ。

メジロライアンが上がってくるとしたら残り600mの段階、3コーナーから4コーナーのちょうど間、緩やかなカーブを描く道なりストレートの真ん中からだ。

外からゴールドシチーが少しずつ上がってくるが、仕掛けのタイミングとしては早すぎる。

4コーナーから100mでの競り合いで交わし切れる。

3コーナーにツインターボが差し掛かる。

一瞬だけ外によれて、3コーナーを強引に内ラチから攻めていく。

ツインターボがズブるまで、おそらく残り100mだ。

そこで外から追い抜き、そのまま一気に突き放す。

このタイミングで仕掛けて4コーナーの時点で7バ身差を付ければ、メジロライアンに絡まれる余地はない。

 

 このレースの結論は出た。

あらゆる情報を代入した方程式で叩き出したレースの解は変わらない。

 

『スカルクランプを外から交わしたビワハヤヒデ!ついに上がっていく!ツインターボは8バ身前だ!その4バ身後方からゴールドシチーも徐々に進出!』

 

 

 

 

 

 

 

「ターボォオッ!!!そのままぶっちぎっちまえぇっ!!!」

 

「行け行けー!」

 

「ビワハヤヒデが来てるぞー!逃げろー!」

 

 ビワハヤヒデはやはり4コーナーに入ったところでツインターボに仕掛けに行った。

問題はここからだ。

最初のプランはツインターボが残り3ハロンのタイミングで逆噴射してビワハヤヒデに追い抜かれると読んで、そこにタイミングを合わせに行く予定だった。

ビワハヤヒデが追い抜きにかかる出がかりを外から塞いで逆噴射するツインターボを壁にしてそのまままとめて追い抜き、出遅れたビワハヤヒデを突き放して更にメジロライアンが外から仕掛けるのを利用してビワハヤヒデを封じ込める。

この時点でも他力本願の要素が多く穴だらけの、酷すぎるレースプランだ。

 

 そして、このレースプランはゴールドシチーの脚が足りる残り4ハロンを切ってから仕掛ける予定だったが、残り900mつまり4ハロン半のタイミングで仕掛けた。

たった100m、半ハロンの差が仁川の坂で大きな牙を剥く。

 

 ダメ押しに本来の予定ならツインターボが逆噴射を起こすのをビワハヤヒデが捉えて追い抜きにかかるタイミング、その直前で追い抜く外をゴールドシチーが押さえなければならない。

これより早く気付かれればビワハヤヒデに躱され、遅ければそのまま振り切られる。

これが簡単に通るなんてもちろん思えなかった。

実際、ビワハヤヒデはツインターボが本格的に逆噴射を起こす前のわずかな失速の予兆を見抜いたのか早仕掛けに行った。

もちろん、その時に備えたサブプランも同時に用意した。

しかし、それは今のゴールドシチーの脚でやれるか微妙なところ。

ハッキリ言うなら、不可能だ。

 

「あぁっ!ビワハヤヒデが抜きに行くぞ!」

 

「ターボ師匠ォオッ!!!」

 

「粘れーっ!逆噴射してる場合じゃないぞー!」

 

 ビワハヤヒデが想定よりペースを上げた。

ツインターボはまだいつもの逆噴射していないのに、だ。

残り3ハロンより前、明らかにタイミングが早い。

後ろから仕掛けに来たゴールドシチーに気付いた?

ビワハヤヒデに並ばれたツインターボが意地で加速して逃げ出し、無理矢理に半バ身ほど前に出る。

それでも、ジリジリとビワハヤヒデがツインターボを外から抜いていくのを、誰にも止められない。

100mほどで、ビワハヤヒデに完全に抜かれたツインターボがふらつき、あからさまな減速をしていく。

 

『ツインターボ、残り500mでビワハヤヒデに抜かれ逆噴射ァッ!今回のツインターボの先頭はここで終わりだ!替わって先頭はビワハヤヒデ!ビワハヤヒデが前に出た!』




ネクストバクシンヒント:ランエボ

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