逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー 作:エアジャガーる
いろいろ思うところはありますが、カレンブーケドールとエフフォーリアを買いました。
トリプルティアラこと3歳牝馬三冠、その最初の一冠目。
もっとも速い牝馬を決めるレースとして制定された中山四歳牝馬特別が大元。
戦前は中山でやってたのが戦後は京都で再開、そして阪神に移動となったあとはずっと阪神でやってるよ。
外回りのコースになったのはコースが新設された2007年以降のこと。
現実のダイワスカーレットがその年の桜花賞馬になったことはちょっとした豆知識。
古馬になったらもう二度と重賞で走ることのないコース、だったんだけど京都の改修工事でマイルCSがこのコースになったよ。
有力な古馬が走る外回り1600mは貴重かもね。
ここまでが現実の話。
この作品ではトリプルティアラがちょっと独自設定入ってるからモブがなんか妙なこと言っても「どうした急に」の精神で許してね。
それとメイケイエールは年が明けたらおかねかえしてね。
『桜の花びら舞う仁川、快速自慢が集いました。トリプルティアラの一冠目、最速の女王の冠を戴くのは誰だ?阪神GⅠ、外回り1600m、桜花賞!バ場発表は良、天候は晴れ、各ウマ娘のゲート入りが進んでいます。年末のジュニアクラスGⅠを征した王者2人が激突します。1枠1番そして1番人気となりましたサイレンススズカ、対するは2番人気4枠7番ウオッカ、対抗する3番人気、ダイワスカーレットは大外8枠18番での出走です』
『阪神JFと朝日杯、更にチューリップ賞を勝ったウマ娘が勢揃い。名実ともに阪神マイル最速決定戦と言える内容になりそうですね。紛れの少ない仁川の外回りで大逃げするサイレンススズカに対して、他のウマ娘がどう挑むのかレース運びに注目です』
出走前の観客席は屋外席すらごった返す状態の中、ゴールドシップとナカヤマフェスタはフユミから言われたポイントの真横に来ていた。
路面が下り坂から登り坂に変わるゴール板から残り1ハロンのポイント。
勝負処としてはかなり半端な場所だ。
4コーナー立ち上がりからストレートでの捲り勝負ならもっと4コーナーに近いところに行くべきだし、最後の仁川の坂でのヒルクライム勝負ならもっとゴール板のほうに行くべきだろう。
「ここが勝負処、か。妙なところを指してきたな……」
「あのハトヤロー、自分が来てないクセにここが見所とかテキトーぬかしたんじゃねぇだろうな……?もしそうならダートに頭からブッ刺して埋めてやらぁ……」
ポキポキと指を鳴らすゴールドシップを他所に、ナカヤマフェスタはコースを改めて見る。
外側のレーンを回るコースなのは、パンフレットの案内で知っている。
4コーナーの出口から自分の真正面までまっすぐな下り坂、そして残り1ハロンで急激な登り坂が待っている。
ナカヤマフェスタは目を閉じて、同じような状態の路面を走ったことがないか思い出す。
コーナーを立ち上がってすぐに下り坂、そしてある程度走っての登り坂。
「……ここが、今日の勝負のキーポイントになるって……?」
その2人の隣で、2人と面識のないトウカイテイオーがホオヅキと並んでターフを覗き込む。
ホオヅキは独り言こそやめたが、何も言わずに手首を掴んで引っ張ってくるので、隣のエアグルーヴは疲れた顔をしていた。
「おい、貴様。なんでこんな半端なポイントを選ぶ。4コーナーの立ち上がり勝負ならもっと4コーナーに近いところ、登り坂での競り合いならゴール板のほうに行くだろう?」
「……ダメですね……貴女、どうして桜花賞をギャラリーするしかない立場になったか……まるでわかってない……」
「……それは私の体調管理の不手際、それと位置取りの悪さが原因だ。今回のレースとは何も関係が」
「ありますよ……阪神JFで勝っていたダイワスカーレットにチューリップ賞で完全に負けた理由……そして、サイレンススズカに仁川で勝負するのは無謀だと思う理由は……これです……」
ホオヅキが指差すのは、下り坂と登り坂のちょうど境目。
仁川の舞台への登り坂、そこの入り口だ。
なんてことはない。
坂そのものは中山の直線の間にある登り坂のほうが遥かにキツい。
その坂を、ホオヅキは指差している。
「仁川の舞台、か。それがなぜ」
「……朝日杯のパトロールビデオと、弥生賞での第2コーナー……そこからの憶測ですが……憶測通りなら……仁川でサイレンススズカの相手を出来るウマ娘はかなり絞られます……テイオーもよく見ておくといいです……ここは、シンボリルドルフの好敵手……マルゼンスキーのホームコースですから……」
「ねぇ、トレーナーちゃん」
「なんだ?」
観客席でフユミの膝の上に座るマヤノトップガンがホイップクリームやらスプレーチョコやらココアパウダーやらシナモンシュガーやら苺ソースやらいろいろ盛りに盛った、イチゴオレを称するなにかを手に持ちながら、フユミのほうに振り返る。
売店で数量限定販売らしいデコ盛り山盛りカワイイイチゴオレ(仮称)、お値段は1500円。
自撮りの写真を撮ってウマスタグラムにアップするまで手早く終わらせたマヤノトップガンは、ちょっとだけむくれていた。
「あの芦毛のお姉さん、いったい誰なの?」
「ゴールドシップ。スズカに野良勝負挑んで藪にアタマ突っ込んで負けたのが悔しくてトレセンに来た暇人だ」
「……そんなに、速いの?」
「今の時点でもそこら辺の条件戦で踠いてるくらいのウマ娘程度なら、勝負にもならないだろうな。本格化こそ迎えていない今の段階でも、ね」
マヤノトップガンの目に映るフユミは、明らかに大阪杯の時よりもリラックスしているように見えた。
マヤノトップガンはわからない。
今のフユミがどうしてリラックスしているのか。
「……ねぇ、トレーナーちゃん。スズカちゃんは心配にならないの?」
「どうして?」
「シチーさんの時みたいに緊張してないもん」
「……心配はしてないな。スズカが勝っても負けても、最初から理由はハッキリしている。だから、落ち着いていられる」
むーっ、とした顔をしているマヤノトップガンの頬を指でつっつきながら、フユミは観客席からターフを見渡す。
春の陽気が照らす大おにぎりのコース、その外回り。
サイレンススズカにこのコースをとことん走らせて、コースを身体に覚え込ませた。
今のサイレンススズカなら目を閉じたままでも、コースを走って回ってこれるだろう。
やれることは間違いなくやったと、今は信じる。
サイレンススズカが勝つことを信じることだけは、やめてはいけない。
負ける要因はふたつだけある。
その要因を完全に潰しきれなかったことを悔やむことと、サイレンススズカが勝つことを信じないのは、全く別の話だ。
それに、万が一の時のもしかしたら役立つかもしれないお守りは持たせている。
極めてシンプルな、起爆スイッチ代わりのおまじないだ。
「スズカ、勝てマスカ?」
隣の席で売店に売っていた骨付きローストチキンにかぶりついていたタイキシャトルが訊いてくる。
フユミはストローでちゅーっとイチゴオレを吸っているマヤノトップガンの頭を撫でながら、肩を竦める。
「それは、あの2人次第といったところだ」
過去改変により朝日杯からニシノちゃんの霊圧が消えます。
ニシノちゃんを温存しないと来期のティアラ路線とスプリントが壊滅するのじゃよ……