逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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ゥワァーーッハッハッハッハッ


ロスト・イントゥ・ザ・ナイト

『最後にダイワスカーレットが静かにゲートへ収まり、出走準備が完了しました……今、スタートです!』

 

 ゲートが開く音、それが観客席に届くまでのほんのコンマ数秒。

サイレンススズカが既に飛び出して駆け出している。

一歩だけ遅れて、というより持ち前の瞬発力で強引に一歩後ろに食らい付くウマ娘が4人。

いや、3人がサイレンススズカの後ろに食らい付く。

大外からの1人は、サイレンススズカの後ろには向かわない。

 

『各ウマ娘、一斉にスタート。ハナを奪ったのはサイレンス……いや、外から!外からだ!ダイワスカーレット!ダイワスカーレットが並んでいる!サイレンススズカの向こう、ダイワスカーレット!』

 

『弥生賞のマヤノトップガンに次いで、今回はダイワスカーレットがサイレンススズカに勝負を挑みましたかね。チューリップ賞では比較的スローなペースに乗ったまま最後に中団から仕掛けて捩じ伏せるクレバーなレースをしましたが、今回はかなりアグレッシブに自分からハイペースなレース展開に持っていくつもりでしょうか』

 

 サイレンススズカの隣、真横にダイワスカーレットが並ぶ。

中継では、わずかにサイレンススズカがハナを獲っているが完全な横並びと言っていい。

1ハロンをそのまま並んで抜けると、300m地点の登り坂前でダイワスカーレットがわざとらしく一瞬だけスピードを落とす。

そのままサイレンススズカの斜め後ろを、ダイワスカーレットが追走する形だ。

 

「スカーレットとスズカの大逃げ対決か!?」

 

「いや、スカーレットは後ろに少し下がった。スタートの立ち上がりはスズカと並んだけど、大逃げ対決をするつもりはなさそうだ」

 

「今回は先行寄りのウマ娘が多いからな。スズカへのマークも考えると内に入るよりはスズカの斜め後ろからマークしているほうが動きやすいってことだろ」

 

 サイレンススズカの真後ろには3人が一塊で追走している。

マークしてあわよくば包囲するつもりだったのだろうが、最内を全開で抜けるサイレンススズカのスタートに振り切られてしまったのだろう。

アタマを押さえ付けて囲んでしまえたらそれで手っ取り早くサイレンススズカを封じ込めての勝ちだったが、そんなことはサイレンススズカ自身が一番わかっているだけに通らなかったらしい。

やはり、予定通りに2つの弱点を突くしかない。

 

 サイレンススズカをマークしようとした3人は、外を走るダイワスカーレットのほうを気にしてはいるが、ここでダイワスカーレットをマークするメリットがないことにも気付いている。

しかし、一度はチューリップ賞でやりあっただけに、完全な無視はしてくれそうにない。

それでいい。

2つの弱点の内の1つは、これで突ける。

 

『2ハロン目、ここで順位を見ていきましょう。先頭はサイレンススズカ、その後ろクロノステイシス、続いて外にリシャーデンポート、外からダイワスカーレット、内々にジョバンニスコール、サイレンススズカを追走する先行集団から1バ身離してハイドロハリケーン、その外トーチテンペスト、続いてエクスリボルバー、内からブーメラン、その後ろにシンクホール、外からガイアクラッシュ、ストーンレインが続く。その後方から2番人気ウオッカがじっくりと足を進めている。その後ろに外からブーストタイタニア、バルチャールイン、ジオリジンが並ぶ。最後方はスウェイオブスター、ワールドトランス。スタートから3ハロン、サイレンススズカは変わらず先頭で徐々に後続を離しながら3コーナーへ!』

 

 3バ身ほど前に行くサイレンススズカの身体が内に僅かに傾いたかと思えば、そのまま3コーナーへと入っていく。

まるで、まっすぐ走っているようにすら見えるコーナーの走り方。

いろは坂通りでのスカイズプレアデスのやり口を思い出す。

 

 サイレンススズカがどうしてその走りが出来るのかはわからない。

ただ、その走りがどんな弱点を負っているのかはわかっている。

だからこそ、ダイワスカーレットはスタートだけサイレンススズカに並んだあと、やや後方に控えた。

仕掛けに行くタイミングは3コーナーから4コーナーの間、ちょうど中間800m地点!

 

 

 

 

 

 

 

「ハルヤマ、フユミの姿がないようだが……」

 

「始まった以上はどこかで観てるに決まってる。オープン席じゃなくて上のテラス席を選んだんだろ」

 

 サイレンススズカが3バ身ほど差を付けて引っ張る先頭集団が3コーナーへと入る様子を、険しい目で見つめたままハルヤマは素っ気なく、というより吐き捨てるように言い切る。

ハルヤマとサンジョーは観客席の4コーナー出口に一番近い場所で、自分の担当が来るのを待っている。

 

「アイツは自分の担当が勝負を決めに行く場所を必ず観に行くハズだ。それで俺達と同じところにいないってことは、スズカは他で勝負するつもりだ。この意味、わかんだろ」

 

「フユミを出し抜けた、ということか?」

 

 ハルヤマは僅かに躊躇いつつも頷く。

僅かに疑いが残っているのか、確証を持てていないのか。

自分の仮説に、他者の賛同が欲しかったのか。

それでもまだ、勝利に確信が持てないのか。

サイレンススズカに対してどう挑むか、その具体的な作戦はお互いに伏せている。

自分の担当に桜花賞を勝たせる、という最終目的は同じで、勝者は1人だ。

どちらかを勝たせればよい、というものではない。

サンジョーはサイレンススズカとそれに対するダイワスカーレットを相手に作戦を考えたし、ハルヤマだって相手がサイレンススズカだけだとは思ってないハズだ。

 

「阪神最大の難関は“仁川の舞台”なんかじゃない。3コーナーから4コーナーまで曲がりっぱなしで抜ける600m、スズカとやり合うならそこしかない」

 

 3コーナーにダイワスカーレットも入った。

ターンイン直前からいつもより速度を落としてのコーナリングなのは、前もっての作戦通り。

まずはサイレンススズカに自分の姿をハッキリと認識させる。

その上でサイレンススズカのコーナリングでの僅かな隙を突く二段作戦。

この作戦にも、問題点はもちろんある。

ただ、それを突いて返す手段をサイレンススズカは持ち得ない。

なにより、その問題点こそがダイワスカーレットにとって一番のモチベーションになっている。

 

「4コーナー出口、そこを出たところで……決着だ!」




イントロの笑い声をワリオって言ったヤツ許さないからな。
碓氷峠がワリオこうざんになっちまったじゃねーか。

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