逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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消えた指導員

「ちょっと!走るのはいいけど!どこに行くのよ!」

 

後部座席でひとしきりタオルとサイレンススズカが忘れていて取りに来なかったジャージや体操服をまとめた袋を抱えているダイワスカーレットが騒ぐ。

ハルヤマトレーナーは後ろの座席にいるダイワスカーレットに着替え等を急いで用意させたあと、ワゴンで甲州街道を走る。

 

「スカーレット、府中からどこかに旅に出るとしたら、お前なら最初にどうする?」

 

「はぁ!?そんなの……地図見るわね……」

 

わからない、と言いたくないダイワスカーレットはスマホで地図アプリを開く。

拡大して右左、戻して上下、探して探して自分なりの答えを出す。

 

「もしかして、新宿?」

 

「そのとおり。フユミはたぶんカブを処分して、電車に乗る。付近のバイクショップを片っ端からたづなさんに電話で確認させているが、所詮は個人のローラー作戦だ。痕跡は見つかっても、本人をその場で捉えるのは難しいだろう。そもそも電話帳ですぐピックアップ出来る場所で処分するとは思えない。そしてカブを処分したら新宿まで向かい、そこからはどうとでも行ける。勝負の場所は、新宿駅だ」

 

「そのフユミってトレーナーを探すのはわかったわよ。ならこれは?」

 

ダイワスカーレットに慌てて用意させた着替えは、確かにフユミを探すのと直接の関係はない。

 

「スズカがカブとは言えレース後にそのままバイクを追うなんて無茶をしてるんだ。たぶん、きっとその辺に……いたいた」

 

車でしばらく走ると、歩道で項垂れているサイレンススズカの姿があった。

隣にはひまわり模様の合羽を着た女の子もいる。

真横に車を停め、スカーレットに迎えさせる。

 

「スズカ先輩!乗ってください!」

 

「スズカちゃん!」

 

しばらく一方的な呼び掛けのあと、ダイワスカーレットは引っ張りこむようにサイレンススズカを後部座席に乗せる。

そしてなぜか助手席にひまわり模様の合羽を着ていた女の子が、合羽を脱ぎながら乗り込む。

 

「ねぇ、スズカちゃんのトレーナー?」

 

「ん、ああ、まだ、今のところ、だけど」

 

「スズカちゃんを迎えに来たの?それとも、トレーナーちゃんを探してるの?」

 

トレーナーちゃん、フユミのことだろうか。

他に探すようなトレーナーはいない。

 

「君もフユミトレーナーを探してるのか?」

 

「うん。マヤも連れてって。トレーナーちゃん、追いかけなきゃ」

 

「わかった。ちゃんとシートベルトして乗って」

 

後ろでダイワスカーレットが、無言でぐしょ濡れのまま俯くサイレンススズカをタオルで拭く。

俯いて下ろしている長い髪が、外からの全てを拒絶しているように見えた。

車を走らせ、新宿駅に向かう途中で、ダイワスカーレットはついに不満を口にする。

 

「ねぇ、アタシはまだ何も話を聞いてないんだけど!なんでフユミってトレーナーはいなくなったの?スズカ先輩は一番で勝ったじゃない!しかも、あんな大差で。観てただけでも悔しくなるくらいスゴいレースで!負けた責任、とかならわかるわよ?でも、なんで勝ったのに去ったのよ!」

 

「それは……俺だってわからない。スズカを立ち直らせたのはアイツだ。スズカが懐いたのもアイツだ。だからこうして、スズカがずぶ濡れになってる。なのに、なんであとはよろしくって放り出すんだよ。トレーナーならあの状況で『あとは俺がやる。スズカを寄越せ』くらい言うだろ!なのに、あいつは自分の集めたデータをまとめて寄越して投げてきた!なんなんだよ!」

 

「トレーナーちゃん、きっとずっと前からいなくなるつもりだったんだよ……」

 

ハルヤマとダイワスカーレットの憤りに、マヤを名乗る少女は呟いた。

 

「トレーナーちゃんはね。たぶん最初からいなくなりたかったんだと思う」

 

「どうしてそう思う」

 

「スズカちゃんを連れてくるまで、マヤのワガママにはずっと付き合ってくれたし、いろんなことも教えてくれたけど、いつまでもマヤのトレーナーにはなってくれそうになかったから。マヤのトレーナーになりたい、って言わないのも、マヤのトレーナーからマヤをトレーナーちゃんに任せたいって言わないのも、なんかおかしいと思ってた。でも、トレーナーを辞めちゃうならそうだよね」

 

どうやらこの少女は、フユミのことを気にしてずっと近くにいたらしい。

 

「なんだか今日もそわそわして、お外に出て遊んでたの。そしたらトレーナーちゃんがバイクで走って来たの。雨の日は危ないから走っちゃダメ、って言ってから走って行っちゃった」

 

マヤはそれだけ言って、黙り込む。

 

「スズカ先輩、教えてください。フユミって人のこと。いったい、何があったのか」

 

垂れる髪の隙間から、サイレンススズカの目が、着替えの向こうにあるカバンに向く。

もっと言えば慌ててしまい込んだのだろう、湿気て折れた封筒に。

 

濡れていてところどころ文字も滲んでいるが、読めないことはない。

破かないように中の便箋を出してから、ファイルを下敷きにして、貼り付けるように中身を広げた。




消えた◯◯というと西村京太郎っぽいですね!
電車も絡むとますますそれっぽいですが、人死は出ません!
なので良バ場です!安心してください!学級委員長ですから!

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